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155.あの女が悪い ***SIDE国王
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ケンプフェルト公爵は変わった。以前は仕事も熱心で、サボったり手を抜いたりしない。真面目で、きちっとした男だったのに。
妻をもらってから別人のようだ。仕事をこちらに押し付け、平然としている。定時で帰ると言い出し、日暮れ近くなると帰宅した。あり得ない。その後に届いた書類は誰が処理するんだ? 泊まり込みで対応してもらわねば、俺の仕事が増えるじゃないか。
文官達が積んだ書類にうんざりする。このほとんどは公爵の分だった。俺の仕事じゃない。国王になってからずっと、インク瓶より高く書類が積まれたことはなかったんだ。公爵が結婚してから、こうなった。最初の数ヶ月は大人しくしていたようだが、本性を現したのか?
とんでもない女狐を娶ったものだな。舌打ちして書類を見るが、資料がなければ判断できない。横へ積んだ。次の書類は先ほどの書類を処理した後の申請書だ。また後回しにした。気づけば、書類は右から左へ移動しただけ。まったく減っていない。
資料がなければ作れない書類なら、一緒に資料も用意すべきだろう。イライラしながら文官を呼びつけた。叱ると、彼らはきょとんとした顔をする。それから平然と口答えした。
「陛下、普段から書類を処理しておられれば、頭に入っている内容です。国の税に関する重要な案件ですよ。王陛下が何も知らないなど……」
語尾を濁したが「おかしい」と口が動く。そうなのか? 宰相を呼び出すが、彼も同じように顔を顰めた。
「陛下に処理できないなら、誰も手をつけられません。先代王も書類はきちんと確認しておられましたぞ。もしや……今まで誰かに押し付けておられたのですか?」
驚いた顔で指摘され、慌てて彼らを外へ出した。これが国王が処理すべき案件? 国にとって重要な書類が放置されるなど。なぜだ、公爵が処理していたではないか!
さらに腹立たしいことに、王妃までがあの女の肩を持つ。可愛い娘までが、お父様のせいでレオンが遊んでくれないと言い出した。俺の何が悪い? 王である俺に恥をかかせる奴は、全員不敬罪で処分してやる!
公爵夫人を名乗る女に命令書を発行したところ、公爵から返事がきた。二度と妻に手紙を送るな、命令するなと書かれている。お前こそ何様のつもりだ。王家がなければ、公爵家も意味をなさないのだぞ! 頭に来てまた手紙を書くが、今度はそのまま突っ返された。
開封した上で別の封筒に入れて返送された手紙を破く。そのやり取りも数回に渡り、公爵がいないことで書類はさらに溜まった。これ以上は無理だと命令書を作成する。
休暇は中止だ、早く戻って書類を処理しろ。封蝋を押す前に、王妃に見つかった。眦を吊り上げたマルレーネは、俺の手から取り上げた封書に目を通し溜め息を吐く。
「王として最低限の仕事もできないなら、退位しかありませんね。宰相やお父様も見放していますよ」
俺が見放される? 何を言っているのだ。お前もあの女と同じように、俺を馬鹿にするんだな!? 机を強く叩いた。
妻をもらってから別人のようだ。仕事をこちらに押し付け、平然としている。定時で帰ると言い出し、日暮れ近くなると帰宅した。あり得ない。その後に届いた書類は誰が処理するんだ? 泊まり込みで対応してもらわねば、俺の仕事が増えるじゃないか。
文官達が積んだ書類にうんざりする。このほとんどは公爵の分だった。俺の仕事じゃない。国王になってからずっと、インク瓶より高く書類が積まれたことはなかったんだ。公爵が結婚してから、こうなった。最初の数ヶ月は大人しくしていたようだが、本性を現したのか?
とんでもない女狐を娶ったものだな。舌打ちして書類を見るが、資料がなければ判断できない。横へ積んだ。次の書類は先ほどの書類を処理した後の申請書だ。また後回しにした。気づけば、書類は右から左へ移動しただけ。まったく減っていない。
資料がなければ作れない書類なら、一緒に資料も用意すべきだろう。イライラしながら文官を呼びつけた。叱ると、彼らはきょとんとした顔をする。それから平然と口答えした。
「陛下、普段から書類を処理しておられれば、頭に入っている内容です。国の税に関する重要な案件ですよ。王陛下が何も知らないなど……」
語尾を濁したが「おかしい」と口が動く。そうなのか? 宰相を呼び出すが、彼も同じように顔を顰めた。
「陛下に処理できないなら、誰も手をつけられません。先代王も書類はきちんと確認しておられましたぞ。もしや……今まで誰かに押し付けておられたのですか?」
驚いた顔で指摘され、慌てて彼らを外へ出した。これが国王が処理すべき案件? 国にとって重要な書類が放置されるなど。なぜだ、公爵が処理していたではないか!
さらに腹立たしいことに、王妃までがあの女の肩を持つ。可愛い娘までが、お父様のせいでレオンが遊んでくれないと言い出した。俺の何が悪い? 王である俺に恥をかかせる奴は、全員不敬罪で処分してやる!
公爵夫人を名乗る女に命令書を発行したところ、公爵から返事がきた。二度と妻に手紙を送るな、命令するなと書かれている。お前こそ何様のつもりだ。王家がなければ、公爵家も意味をなさないのだぞ! 頭に来てまた手紙を書くが、今度はそのまま突っ返された。
開封した上で別の封筒に入れて返送された手紙を破く。そのやり取りも数回に渡り、公爵がいないことで書類はさらに溜まった。これ以上は無理だと命令書を作成する。
休暇は中止だ、早く戻って書類を処理しろ。封蝋を押す前に、王妃に見つかった。眦を吊り上げたマルレーネは、俺の手から取り上げた封書に目を通し溜め息を吐く。
「王として最低限の仕事もできないなら、退位しかありませんね。宰相やお父様も見放していますよ」
俺が見放される? 何を言っているのだ。お前もあの女と同じように、俺を馬鹿にするんだな!? 机を強く叩いた。
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