151 / 274
151.腹立たしかった ***SIDE公爵
しおりを挟む
義弟や双子から聞き出した話によれば、アマーリアは運動が得意でケガは少ない。なのに今回は手をついたのに、間に合わず派手に転がった。何に気を取られていたのかと眉根を寄せる。
そこへベルントが運んできたのは、一通の封書だった。すでに開封されているが、まだ返信はしていないのだろう。そうでなければ、ベルントが適切に片付けたはず。アマーリア宛だった。勝手に読むわけには、と思いながら裏返し……ベルントが差し出した理由に気づく。
王家の封蝋が施されている。彼女はこれを破かず、横から開封した。緊急の連絡だったら……俺に連絡が来る。なぜ彼女に王家から? 王妃殿下だろうか。少し考え、返事をしていない可能性に思い至る。
中身を取り出し、読み始めて手が震えた。俺に宛てたなら、これほど失礼な手紙は書かなかっただろう。いや……あの陛下なら、やらかしてもおかしくないか?
「まさか」
この手紙を受け取ったのは、ケガより前のはず。ずっとベッドの住人である彼女が、手紙を受け取ったり読んだりしていたら、絶対に気づくから。これを読んで動揺したアマーリアがケガを? 足を踏み外すほど、傷ついたとしたら。
ぐっと拳を握る。くしゃりと封筒が捩れて音を立てた。封蝋が歪んで砕ける。
「許さん」
手紙の内容は、一方的な八つ当たりと命令だ。お前のせいで王妃が冷たくなり、息子達にも距離を置かれた。さっさと出向いて詫びろ、ついでに夫である俺に仕事をさせろ。要約すると最悪の内容だ。王侯貴族特有のもってまわった言い回しを多用しているが、言い切りの語尾で台無しだった。
ケンプフェルト公爵家は、何度も王家の血を受け入れてきた。その忠誠も歴史も古く、フォンの称号も得ている。先祖が国に貢献し、フォンの称号を持つのはシュミット伯爵家も同じだった。フォン・シュミットから嫁ぎフォン・ケンプフェルトを名乗る妻を、王が蔑ろにした?
腹立たしく、怒りで頭が熱くなる。加熱され赤く染まったような視界が揺らいだ。どこでどう発散したらいいのか、わからない激しい感情が全身を襲う。いつだって制御してきたのに、ここまで腹が立つなど。
大切なアマーリアが傷つけられた。愛していると自覚した途端に、目の前で……手の届きそうな場所で。安全なはずの屋敷で、王に害された。彼女は優しいから、違うと口にするだろう。転んだのは自分の責任だと、前向きに笑う。
笑顔まで想像できるから、余計に腹立たしかった。何もできずに傷つけられ、奪われるのか。アマーリアと義父上殿に指摘されるまで、俺は何も気づかず搾取され続けた。大人しくそのままでいろと、呪いの言葉が響く。
俺は……掴んだ幸せを失いたくない。守るために立ち上がる必要があるなら、それは今だ。
そこへベルントが運んできたのは、一通の封書だった。すでに開封されているが、まだ返信はしていないのだろう。そうでなければ、ベルントが適切に片付けたはず。アマーリア宛だった。勝手に読むわけには、と思いながら裏返し……ベルントが差し出した理由に気づく。
王家の封蝋が施されている。彼女はこれを破かず、横から開封した。緊急の連絡だったら……俺に連絡が来る。なぜ彼女に王家から? 王妃殿下だろうか。少し考え、返事をしていない可能性に思い至る。
中身を取り出し、読み始めて手が震えた。俺に宛てたなら、これほど失礼な手紙は書かなかっただろう。いや……あの陛下なら、やらかしてもおかしくないか?
「まさか」
この手紙を受け取ったのは、ケガより前のはず。ずっとベッドの住人である彼女が、手紙を受け取ったり読んだりしていたら、絶対に気づくから。これを読んで動揺したアマーリアがケガを? 足を踏み外すほど、傷ついたとしたら。
ぐっと拳を握る。くしゃりと封筒が捩れて音を立てた。封蝋が歪んで砕ける。
「許さん」
手紙の内容は、一方的な八つ当たりと命令だ。お前のせいで王妃が冷たくなり、息子達にも距離を置かれた。さっさと出向いて詫びろ、ついでに夫である俺に仕事をさせろ。要約すると最悪の内容だ。王侯貴族特有のもってまわった言い回しを多用しているが、言い切りの語尾で台無しだった。
ケンプフェルト公爵家は、何度も王家の血を受け入れてきた。その忠誠も歴史も古く、フォンの称号も得ている。先祖が国に貢献し、フォンの称号を持つのはシュミット伯爵家も同じだった。フォン・シュミットから嫁ぎフォン・ケンプフェルトを名乗る妻を、王が蔑ろにした?
腹立たしく、怒りで頭が熱くなる。加熱され赤く染まったような視界が揺らいだ。どこでどう発散したらいいのか、わからない激しい感情が全身を襲う。いつだって制御してきたのに、ここまで腹が立つなど。
大切なアマーリアが傷つけられた。愛していると自覚した途端に、目の前で……手の届きそうな場所で。安全なはずの屋敷で、王に害された。彼女は優しいから、違うと口にするだろう。転んだのは自分の責任だと、前向きに笑う。
笑顔まで想像できるから、余計に腹立たしかった。何もできずに傷つけられ、奪われるのか。アマーリアと義父上殿に指摘されるまで、俺は何も気づかず搾取され続けた。大人しくそのままでいろと、呪いの言葉が響く。
俺は……掴んだ幸せを失いたくない。守るために立ち上がる必要があるなら、それは今だ。
1,856
お気に入りに追加
4,242
あなたにおすすめの小説

罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?


【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。
BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。
後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。
新しい兄は最悪だった。
事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。
それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか?
本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる