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148.約束を破ってしまったわ
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レオンとの約束を破ってしまった。夜中に足が痛んで、何度も目が覚める。夜明けまで寝ては起きるを繰り返し、その間に何度も後悔した。子供との約束は、大人とは違う。また後で、今度ね、は通用しないのだ。
「おはよぉ、おかしゃま」
上から覗き込んだレオンが、へにゃりと笑う。いつもの天真爛漫な笑顔と違った。それが約束を破ったせいかも……と申し訳なくなる。
「ごめんなさいね、レオン。昨日はどんぐりを拾いに行けなかったわ」
朝の方が痛みが楽だ。あの気休めみたいな薬草、意外と効くのかしら。身を起こそうとしたら、レオンが首を横に振った。目一杯、全力で左右に動かして、最後はふらついて倒れ込んでくる。
「おっと、危ない。おはよう、アマーリア。痛みはどうだ?」
レオンを間に挟んで眠ったヘンリック様は、私が起きるたびに気にしていた。睡眠を邪魔して申し訳なかったわ。支えたレオンを膝の上に乗せ、よく似た顔でそれぞれに首を傾げた。
「ありがとうございます、昨日より楽になりましたわ」
嘘ではなく本当に痛みが軽い。これなら数日で治るのでは? と期待を膨らませた。
「どんぐり拾いなら、エルヴィンが連れて行ってくれるそうだ」
昨日の夜、提案があったみたい。レオンは興奮した様子で、身振り手振りしながら話し始めた。
「おかぁしゃま、の! ぼくがひろうの」
こんなにたくさん、いっぱい拾うよ。伸び上がって大きさを示すから、楽しみにしているわと答えた。たくさん持って帰ったら、エルヴィンやユリアンに頼んで煮沸してもらわないと。それから最後に日干しもしたら完璧ね。
以前に掃除でユリアンの引き出しを開けた記憶が蘇る。大量の虫が発生していて、引き出しの中身を庭にぶち撒けたのよね。悲鳴をあげるほど柔ではないけれど、さすがに驚いた。レオンだと泣いちゃうかも。
「おかぁしゃま、さびし?」
僕がいないと寂しいかな。問われたら頷く。
「ええ、寂しいわ。レオンが大好きだもの。でもお母様は大人だから、お留守番ができるわよ」
大きな目をぱちぱちと瞬きして、レオンは笑顔になった。
「ぼくがんがる、……ん? がんば、るね!」
自分で言い直したところが、成長の証だ。嬉しくなって頭を撫でようとしたが、腰と肩の痛みに断念した。
「痛いのか」
「ええ、撫でてあげたかったんですけれど」
無理でした。最後の部分を濁して曖昧に答える。レオンを覗き込んだヘンリック様が、何かを呟いた。聞こえなかった言葉はすぐに判明する。レオンが自ら近づき、後ろからヘンリック様が支えた。手が届くのだ。
ヘンリック様に促され、少し浮かせた手でレオンの黒髪を撫でた。そのまま動かし、ヘンリック様の腕にも触れる。
「ありがとうございます」
「しばらくは絶対安静だ。勝手にベッドから出ないこと。何かあれば、このベルを鳴らしてくれ」
用意されたベルを小さな籠に入れ、手が届く距離に置かれる。水もトイレも全部呼ぶように言われ、過保護すぎると笑った。でも心配されるのは擽ったくて嬉しい。
ベッドで家族の穏やかな朝を過ごし、朝食も運ばれてきた。ぐうたら生活に馴染まないよう、気をつけなくちゃね。
「おはよぉ、おかしゃま」
上から覗き込んだレオンが、へにゃりと笑う。いつもの天真爛漫な笑顔と違った。それが約束を破ったせいかも……と申し訳なくなる。
「ごめんなさいね、レオン。昨日はどんぐりを拾いに行けなかったわ」
朝の方が痛みが楽だ。あの気休めみたいな薬草、意外と効くのかしら。身を起こそうとしたら、レオンが首を横に振った。目一杯、全力で左右に動かして、最後はふらついて倒れ込んでくる。
「おっと、危ない。おはよう、アマーリア。痛みはどうだ?」
レオンを間に挟んで眠ったヘンリック様は、私が起きるたびに気にしていた。睡眠を邪魔して申し訳なかったわ。支えたレオンを膝の上に乗せ、よく似た顔でそれぞれに首を傾げた。
「ありがとうございます、昨日より楽になりましたわ」
嘘ではなく本当に痛みが軽い。これなら数日で治るのでは? と期待を膨らませた。
「どんぐり拾いなら、エルヴィンが連れて行ってくれるそうだ」
昨日の夜、提案があったみたい。レオンは興奮した様子で、身振り手振りしながら話し始めた。
「おかぁしゃま、の! ぼくがひろうの」
こんなにたくさん、いっぱい拾うよ。伸び上がって大きさを示すから、楽しみにしているわと答えた。たくさん持って帰ったら、エルヴィンやユリアンに頼んで煮沸してもらわないと。それから最後に日干しもしたら完璧ね。
以前に掃除でユリアンの引き出しを開けた記憶が蘇る。大量の虫が発生していて、引き出しの中身を庭にぶち撒けたのよね。悲鳴をあげるほど柔ではないけれど、さすがに驚いた。レオンだと泣いちゃうかも。
「おかぁしゃま、さびし?」
僕がいないと寂しいかな。問われたら頷く。
「ええ、寂しいわ。レオンが大好きだもの。でもお母様は大人だから、お留守番ができるわよ」
大きな目をぱちぱちと瞬きして、レオンは笑顔になった。
「ぼくがんがる、……ん? がんば、るね!」
自分で言い直したところが、成長の証だ。嬉しくなって頭を撫でようとしたが、腰と肩の痛みに断念した。
「痛いのか」
「ええ、撫でてあげたかったんですけれど」
無理でした。最後の部分を濁して曖昧に答える。レオンを覗き込んだヘンリック様が、何かを呟いた。聞こえなかった言葉はすぐに判明する。レオンが自ら近づき、後ろからヘンリック様が支えた。手が届くのだ。
ヘンリック様に促され、少し浮かせた手でレオンの黒髪を撫でた。そのまま動かし、ヘンリック様の腕にも触れる。
「ありがとうございます」
「しばらくは絶対安静だ。勝手にベッドから出ないこと。何かあれば、このベルを鳴らしてくれ」
用意されたベルを小さな籠に入れ、手が届く距離に置かれる。水もトイレも全部呼ぶように言われ、過保護すぎると笑った。でも心配されるのは擽ったくて嬉しい。
ベッドで家族の穏やかな朝を過ごし、朝食も運ばれてきた。ぐうたら生活に馴染まないよう、気をつけなくちゃね。
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