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147.すごい転び方だったみたい
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ぼんやりと天井を眺めた。隣に潜り込んだレオンは、泣き疲れたようだ。先ほどから寝息を立てている。ベッド脇にいたヘンリック様も、少し前に呼ばれて席を外した。
「全くお前は……いつもならケロリと立ち上がるだろうに」
お父様は苦笑いした。嫁ぐ前によくお転婆をして叱られたことを思い出す。口調が戻っているわよ。心の中で突っ込むものの、口を開くのも億劫だった。
お医者様の診断結果は、左足首の剥離骨折と左肩の脱臼、右手首の捻挫だ。他にも腰を含めた左側に打撲が複数ある。
「お姉様の転び方、怖かったわ」
ユリアーナが、左足首を冷やすタオルを交換しながら泣きそうな声を出す。転んだ時の状況が、皆の話で判明した。
踏み出した左足が宙を踏み、足首から着地したの。ぐにゃりと曲がって捻挫しながら、骨や靭帯を損傷した。咄嗟に右手を突いたため顔は激突を免れたが、代わりに左側へ派手に転がったようだ。腰や肩を階段へ強打したのはこの時だろう。
転がった状態で、左足首がぐにゃりと曲がっていたことが、周囲の悲鳴の原因だった。もっと高い場所から落ちていたら、開放骨折していた可能性があるそうよ。骨が飛び出さなくてよかったわ。
「失礼する。アマーリア、医師から詳しい治療方針を聞いてきた」
ノックして入室したヘンリック様は、顔が強張っていた。もしかして後遺症が残る、とか? 緊張しながら小さく頷いた。熱が出てきたようで、さきほどから寒気に襲われている。毛布を重ねがけしたが、足首だけは外へ出して冷やす必要があった。その隙間の風が冷たいのよね。
「剥離骨折は治っても癖になることが多いから、しっかり療養すること。無理をすれば歩けるが、しばらく歩かない方がいい。肩の脱臼は治したので、数日で腫れは治まるはずだ……」
「なか、ないで」
熱のせいか、ぼんやりする意識の中で手を伸ばす。触れたヘンリック様が冷たく感じられた。頬に触れた右手を優しくベッドの上に戻される。
「動かしてはダメだ」
「……私の、せいよ」
誰のせいでもないから、責任を感じたような顔はやめて。動こうとするたび、ズキンと痛みが走る。堪えて右側を向いた。レオンの黒髪が視界に入る。撫でてあげたいけれど、動くと叱られそうだわ。
「受け止めたかった。同行していたら……」
「公爵閣下、この子は大丈夫ですよ。明日になれば熱も少し下がるでしょうから、思い詰めないでください」
自分が同行していたら、防げたはずだ。そう考えて自分を責めるヘンリック様を、お父様が宥めた。だって、一緒にいても一緒に転んだかもしれないわ。その際にあなたを道連れにしたら、ものすごく後悔すると思うの。
この世界の痛み止めは薬草で、効き目がマイルドというか……はっきり言って気休め程度だ。病気は漢方薬っぽい薬が発展しているのに、痛み止めや止血関係はヨモギを揉んで貼り付ける感覚に近い。
これでも貴族だから、お医者様に診てもらえるだけマシなのよね。魔法があって、すっと治ったら楽なのに。そんなことを考えながら、指先に触れるヘンリック様の冷たい手を何度も撫でた。
「全くお前は……いつもならケロリと立ち上がるだろうに」
お父様は苦笑いした。嫁ぐ前によくお転婆をして叱られたことを思い出す。口調が戻っているわよ。心の中で突っ込むものの、口を開くのも億劫だった。
お医者様の診断結果は、左足首の剥離骨折と左肩の脱臼、右手首の捻挫だ。他にも腰を含めた左側に打撲が複数ある。
「お姉様の転び方、怖かったわ」
ユリアーナが、左足首を冷やすタオルを交換しながら泣きそうな声を出す。転んだ時の状況が、皆の話で判明した。
踏み出した左足が宙を踏み、足首から着地したの。ぐにゃりと曲がって捻挫しながら、骨や靭帯を損傷した。咄嗟に右手を突いたため顔は激突を免れたが、代わりに左側へ派手に転がったようだ。腰や肩を階段へ強打したのはこの時だろう。
転がった状態で、左足首がぐにゃりと曲がっていたことが、周囲の悲鳴の原因だった。もっと高い場所から落ちていたら、開放骨折していた可能性があるそうよ。骨が飛び出さなくてよかったわ。
「失礼する。アマーリア、医師から詳しい治療方針を聞いてきた」
ノックして入室したヘンリック様は、顔が強張っていた。もしかして後遺症が残る、とか? 緊張しながら小さく頷いた。熱が出てきたようで、さきほどから寒気に襲われている。毛布を重ねがけしたが、足首だけは外へ出して冷やす必要があった。その隙間の風が冷たいのよね。
「剥離骨折は治っても癖になることが多いから、しっかり療養すること。無理をすれば歩けるが、しばらく歩かない方がいい。肩の脱臼は治したので、数日で腫れは治まるはずだ……」
「なか、ないで」
熱のせいか、ぼんやりする意識の中で手を伸ばす。触れたヘンリック様が冷たく感じられた。頬に触れた右手を優しくベッドの上に戻される。
「動かしてはダメだ」
「……私の、せいよ」
誰のせいでもないから、責任を感じたような顔はやめて。動こうとするたび、ズキンと痛みが走る。堪えて右側を向いた。レオンの黒髪が視界に入る。撫でてあげたいけれど、動くと叱られそうだわ。
「受け止めたかった。同行していたら……」
「公爵閣下、この子は大丈夫ですよ。明日になれば熱も少し下がるでしょうから、思い詰めないでください」
自分が同行していたら、防げたはずだ。そう考えて自分を責めるヘンリック様を、お父様が宥めた。だって、一緒にいても一緒に転んだかもしれないわ。その際にあなたを道連れにしたら、ものすごく後悔すると思うの。
この世界の痛み止めは薬草で、効き目がマイルドというか……はっきり言って気休め程度だ。病気は漢方薬っぽい薬が発展しているのに、痛み止めや止血関係はヨモギを揉んで貼り付ける感覚に近い。
これでも貴族だから、お医者様に診てもらえるだけマシなのよね。魔法があって、すっと治ったら楽なのに。そんなことを考えながら、指先に触れるヘンリック様の冷たい手を何度も撫でた。
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