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146.こんなに痛いなんて
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「きゃああぁああ!」
「奥様っ!」
叫んだのは私以外の人ばかり。声に驚くだろうレオン達を気遣う前に、私は玄関ホールに転がっていた。なんとか右手を突いたので、顔はぶつけずに済んだ。だが全身が痛くて、一人で起き上がれない。
「なんてこと! 誰か、手を貸して」
叫ぶ声は、手紙を届けた管理人の奥さんだ。リリーが駆け寄って抱き起こすが、立ち上がるのは無理だった。
「お姉様?!」
「うわっ、姉様……痛そう」
慌てるユリアーナの隣で、ユリアンは顔を歪めた。そんなにひどい状態なのかしら。全身が痛くて、どこにケガをしたのか判断できない。
「動かないでください。いま、お医者様を……」
この声は誰? 顔を上げようとしたら、首も痛い。腰も肩も……私、どんな格好で転んだのよ。ひっくり返った記憶はないんだけど。
「何があった! アマーリア?」
これはヘンリック様だ。大丈夫ですと答えようとして、抱えたリリーに首を横に振られた。大丈夫に見えないみたい。抱き起こされた状態で動かずにいると、指先に冷たい感触があった。
「おか、ぁしゃま……おか……うわあああぁん」
レオンなの? 大泣きするレオンを慰めたくて左側を向こうとするも、体がすごく痛かった。状況が理解できないわ。上から覗き込む形で、ヘンリック様と距離が近づく。
「痛むかもしれないが、触れるぞ」
「……っ、はい」
もしかして、手足が変な方向を向いている、とか? 服の上から触れるヘンリック様の手は温かい。左足と腰、それから左の肩や肘が顔を顰めるほど痛かった。それ以外は我慢できるわ。
「医者の手配だ。彼女は俺が運ぶ……レオン、泣くな」
ふわりと体が浮いた。ヘンリック様の顔がものすごく近づき、少し離れた。騎士ではないけれど、鍛えた男性の腕力に驚く。私は痩せている方じゃないのに。抱き上げて歩く後ろから、鼻を啜る音がついてくる。
声を出して慰めようと思うが、動くと首が痛い。運ばれた先は、寝室のようだった。優しく下され、ベッドに沈む。普段なら柔らかいベッドさえ痛かった。
マーサに抱き上げられたレオンの鼻が、真っ赤になっている。頬が濡れていた。痛いけれど我慢して手を伸ばし、触れようとしたらヘンリック様に握られた。指先を掴まれ、動くなと叱られる。
双子はリリーが手を繋いでおり、すぐにお父様とエルヴィンも駆けつけた。二人とも顔色が青いわ。同じ姿勢でいると痛みが和らぐ気がした。
「ねえ……」
「話さなくていい。痛いだろう」
皆が一目見てひどいと判断する状況なのだ。ケガの全容が掴めないものの、反応から重傷なのは理解した。医者が駆けつけるまで、皆に見守られながらベッドで動かない。今の私にできるのは、このくらいね。
こんなに痛い思いをしたなら、よほどいいことが訪れるはず。そう思わないと、痛くて泣き喚きたくなるわ。
「奥様っ!」
叫んだのは私以外の人ばかり。声に驚くだろうレオン達を気遣う前に、私は玄関ホールに転がっていた。なんとか右手を突いたので、顔はぶつけずに済んだ。だが全身が痛くて、一人で起き上がれない。
「なんてこと! 誰か、手を貸して」
叫ぶ声は、手紙を届けた管理人の奥さんだ。リリーが駆け寄って抱き起こすが、立ち上がるのは無理だった。
「お姉様?!」
「うわっ、姉様……痛そう」
慌てるユリアーナの隣で、ユリアンは顔を歪めた。そんなにひどい状態なのかしら。全身が痛くて、どこにケガをしたのか判断できない。
「動かないでください。いま、お医者様を……」
この声は誰? 顔を上げようとしたら、首も痛い。腰も肩も……私、どんな格好で転んだのよ。ひっくり返った記憶はないんだけど。
「何があった! アマーリア?」
これはヘンリック様だ。大丈夫ですと答えようとして、抱えたリリーに首を横に振られた。大丈夫に見えないみたい。抱き起こされた状態で動かずにいると、指先に冷たい感触があった。
「おか、ぁしゃま……おか……うわあああぁん」
レオンなの? 大泣きするレオンを慰めたくて左側を向こうとするも、体がすごく痛かった。状況が理解できないわ。上から覗き込む形で、ヘンリック様と距離が近づく。
「痛むかもしれないが、触れるぞ」
「……っ、はい」
もしかして、手足が変な方向を向いている、とか? 服の上から触れるヘンリック様の手は温かい。左足と腰、それから左の肩や肘が顔を顰めるほど痛かった。それ以外は我慢できるわ。
「医者の手配だ。彼女は俺が運ぶ……レオン、泣くな」
ふわりと体が浮いた。ヘンリック様の顔がものすごく近づき、少し離れた。騎士ではないけれど、鍛えた男性の腕力に驚く。私は痩せている方じゃないのに。抱き上げて歩く後ろから、鼻を啜る音がついてくる。
声を出して慰めようと思うが、動くと首が痛い。運ばれた先は、寝室のようだった。優しく下され、ベッドに沈む。普段なら柔らかいベッドさえ痛かった。
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双子はリリーが手を繋いでおり、すぐにお父様とエルヴィンも駆けつけた。二人とも顔色が青いわ。同じ姿勢でいると痛みが和らぐ気がした。
「ねえ……」
「話さなくていい。痛いだろう」
皆が一目見てひどいと判断する状況なのだ。ケガの全容が掴めないものの、反応から重傷なのは理解した。医者が駆けつけるまで、皆に見守られながらベッドで動かない。今の私にできるのは、このくらいね。
こんなに痛い思いをしたなら、よほどいいことが訪れるはず。そう思わないと、痛くて泣き喚きたくなるわ。
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