【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
143 / 274

143.ようやく自覚した ***SIDE公爵

しおりを挟む
 髪を巻いたアマーリアに見惚れる。いつも綺麗な彼女だが、今日は格別だった。素直に手を伸ばすレオンが羨ましい。だが淑女の装いに、勝手に触れるのはマナー違反だろう。グッと堪えた。

 レオンに付き合って絵を描き、屋敷の風呂にはない湯の滝を説明する。興味があるようなので、誘ってしまった。あれは失敗だ、アマーリアも恥ずかしがっている。なぜ一緒に入ろうなどと……ああ、そうか。俺はレオンが触れたように、アマーリアに触れたい。

 髪も肌も、気高い心まで。すべて俺のものだと主張したいのだ。今さら気づいたとて、もう遅いのに。だが契約は状況の変化によって更新や変更もあり得る。国同士の外交や不戦協定ですら、変更が多々あった。ならば、申し出てみるか。

 そわそわしながら、相談役のフランクの不在を恨めしく思う。本邸を離れられない職務なのは理解するが、いまは居てほしかった。ベルントに相談するか? ちらりと視線を送り、一緒に部屋を出た。もちろんアマーリアとレオンに挨拶は忘れない。

 アマーリアは礼儀正しい人を好むようだ。義父上も同じだった。それに加えてお人好しなところも、そっくり同じだ。シュミット伯爵家が没落寸前だった理由が、ここにある。伯爵家に収入がないのは、領地が少ないから。男爵家並みの狭い領地しかなかった。

 義父上か、その上の代で誰かに掠め取られたのだろう。残った領地に派遣した管理人は驚いていた。伯爵家があれほど困窮した生活をしているのに、民は潤っていると。取るべき税を減らし、民の生活の安定を図るのは優しさではない。

 領主に金がなければ、災害の復旧や道路の整備の資金をどこから捻出するのか。その点が考慮されていない。シュミット伯爵家のお人好しは悪い方へ働いていた。本来、人としては美徳であるのだが。

 ああ、考えが逸れた。まずは契約書の変更……いや、そのためには使用人達に、契約結婚の事実を話さなくてはならない。考えながら自室へ入り、扉を閉めたベルントと向き直った。

 己の過ちを認めたら、すぐに是正すべきだ。政の判断で当たり前に行なってきたのに、私的なことになると口が重い。アマーリアは使用人達の信頼を得ており、人気が高かった。軽蔑されるか、怒られるか。

 緊張しながら、乾いた唇を湿らせた。

「実は……だな、その……」

 言い淀んで、無駄に咳払いをする。軽蔑の眼差しがなんだ! それだけのことをしたのだから、覚悟を決めろ。自分に言い聞かせ、待っているベルントに視線を合わせた。大切な話をするのに、目を見ずに話すなど失礼だ。そんなことも忘れていた余裕のなさに、口元が歪んだ。

「アマーリアとの結婚は、契約に基づく……偽装夫婦だった、んだ」

 怖いが目を逸らさず、最後まで言い切った。ベルントは激昂するでも呆れるでもなく、静かに頷く。

「存じておりました」

「は? え、あ……いつ、から」

「結婚式まで、奥様との交流の話が一切ございません。当日も仕事を優先なさいました。家令も侍女長も、悲しんでおられましたよ」

 両親の代わりに話しかけ、使用人の範疇内で愛情を注いでくれた。あの二人を……俺は悲しませたのか。胸にじくじくとした痛みが広がった。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...