【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
141 / 274

141.思いがけない手紙に驚く

しおりを挟む
 楽しいことが終われば、次は面倒なこと。仕事だったり、掃除だったり、人によって面倒なことは違うけれど。今回の私達には、手紙だった。

 別宅に帰ると、すぐにレオンはお昼寝に向かった。マーサが付き添ったので任せる。半分くらい寝ていたので、文句は出なかった。お父様は気を利かせてくれ、温泉に行くと言って弟妹と出かけて行った。

 ベルントの付き添う部屋は、先先代が執務に使っていた書斎だ。ヘンリック様と向かい合って座り、間に置かれた手紙を眺めた。なかなか開こうとしないヘンリック様だったが、仕方なさそうにペーパーナイフを手に取る。封蝋を残して、さっと上部をカットした。

 机に置かれたペーパーナイフがカタンと乾いた音を立てる。静かな部屋にやけに大きく響いた。私ったら、緊張しているのかしら。取り出した手紙を読み進める彼の表情は動かない。どんな内容が書かれているのか、判断がつかなかった。

「君も読んだ方がいい」

「……はい」

 受け取った手紙に目を通す。最後まで読んで驚いた。思っていた内容と違う。それに署名が国王陛下じゃなくて、王妃マルレーネ様になっていた。

「マルレーネ様でしたのね」

「陛下が書いた手紙を、あの方が差し止めたのだろう」

 ヘンリック様は見てきたように、さらりと言い切った。療養休暇の承諾から始まり、陛下の我が侭を抑え込んだ経緯が簡単に纏められている。最後に美しい署名で締め括られた。

「ほっとしちゃった」

 自然と表情が和らぐ。口調が崩れたけれど、ベルントは何も言わなかった。代わりにハーブティが用意され、テーブルに置かれた。口をつけて、お礼を口にする。

「療養の許可があれば、予定通りゆっくり過ごせそうね」

「ああ、帰った後の始末は帰ってから考えよう」

 砂糖やミルクを用意していたベルントの手が止まる。ヘンリック様を不躾に凝視し、小声で詫びて壁際に下がった。驚くのは理解できるわ。結婚当初の彼が標準だったなら、現在の姿や発言は別人だもの。

「休暇を切り上げたら、レオンががっかりします」

「俺もがっかりするぞ」

「ふふっ、私もですわ」

 ヘンリック様は変わった。いいえ、きっとこれが本来の彼で、今までは押し込められてきたの。ようやく解放されて、自分の生き方を模索している。レオンと一緒よ。大きな子供は学び、育っていくんだわ。

「ヘンリック様、私達は家族です。不安や心配ごとは分け合いましょう。忘れないでくださいね」

 一人で背負い込んだりしないこと。そう伝え、私は微笑みかけた。目を見開いたまま動きを止めたヘンリック様は、長い時間をかけて「ああ」と短く返答をくれる。こういう時の表情もレオンにそっくり。

 ふとレオンが気になって立ち上がり、飲みかけのカップを倒してしまった。中身が溢れて、溜め息が口をつく。やってしまったわ。

 悪い手紙と決めつけて後回しにしたけれど、そうではなかった。その代わりに小さな悪いことが起きたのね。割れなくてよかった。カップを片付けるベルントに謝ろうとして、迷った。公爵夫人としてはダメなのよね? でも個人的には謝りたい。

「ベルント、こぼしてごめんなさいね。片付けもありがとう」

 我慢は体に悪い。だから自由にしよう。イルゼに叱られても、きちんと説明して向き合う。だって使用人と主人でも、人同士だもの。嫌な気分にならないはずよ。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...