【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
138 / 274

138.嫌なことは後回しにしたいわ

しおりを挟む
 私と手すりの間を往復するレオンは、温泉をめいっぱい楽しんだみたい。タオルで髪を乾かして着替えたら、レオンはあふっと欠伸をした。長湯しすぎたかしら。

 外へ出ると、そわそわしながらリリーとマーサが待っていて、タオルを回収された。マーサは手早くレオンの頭にタオルを巻く。建物の玄関ホールに置かれた椅子では、騎士を連れたヘンリック様が待っていた。

「お待たせしましたか」

「いや、今来たところだ」

 まだ濡れている黒髪に触れて、冷たさに苦笑いする。新しいタオルを受け取り、ヘンリック様の髪を拭いた。ヘンリック様が断れば、侍女は勝手に手を出せないものね。

 ボサボサになってしまった髪を、彼は手櫛で整える。リリーがブラシを差し出し、手早く梳かした。私は長いので、くるりと巻いて出てきた。その髪を侍女が気にしている。こういう場面では手を借りた方がいいのよね。

「お願いできるかしら、リリー」

「はい! 奥様」

 嬉しそうに髪を乾かし始めた。玄関ホール脇の小部屋に備え付けの暖炉は火が入り、部屋全体が暖かい。扉が開放されていたので、玄関ホールも暖かく感じられた。

「失礼致します。旦那様、王都より伝令が参りました」

 別宅の管理人が封筒を持って駆け寄る。嫌な予感がするわ。封筒の宛名を確認し、くるりと裏返したヘンリック様が眉根を寄せた。国王陛下からの手紙だったら、無視したいわね。

「ヘンリック様、緊急ですの?」

「いや、赤ラインは入っていない」

 赤い下線が入っていたら、緊急の知らせだ。つまり急げとは示されていない。

「では、まず別宅に戻りましょう」

 管理人が乗ってきた馬車があるが、荷物と彼だけ帰ってもらった。私達は手を繋いで、ゆっくり帰る。髪を巻いて帽子を被った私は、レオンの寄り道に付き合う。ヘンリック様も自然と歩調がゆっくりになった。

「これ!」

 あげると差し出されたのは、綺麗な黄色い銀杏の葉。見上げると、見事な紅葉だった。隣でヘンリック様ももらっている。

「銀杏があるかも」

「ぎん、なん?」

 首を傾げたヘンリック様の様子に、そういえば料理に入っているのを見たことがないと気づいた。

「これですわ。中に実があって……」

 説明するも、食べ物と認識されなかった。臭いもするし、癖がある味だから……貴族には流行らないのね。美味しいからではなく、季節の変化を楽しむ意味で食べた記憶しかない。拾った後の手間も面倒だし、食べなくてもいいわね。

 食糧難にでもなったら考えましょう。拾った実を木の根元に戻し、葉っぱに夢中のレオンを促した。考え事をしている間に、ヘンリック様までどんぐりを拾っている。レオンに渡すと、大喜びしていた。

 別宅に戻ったら手紙を読まないわけにいかない。読んで、帰ってこいと書いてあったら。真面目なヘンリック様は従おうとするでしょう。命令でなければ、無視できないかしら。

 同行したベルントは、微笑ましいと顔に書いて見守る姿勢だ。お昼の日差しがまだ暖かい時間、何度か立ち止まる。別宅までの道を、往路の二倍近くかけて歩いた。嫌なことはできるだけ後回しにしたいわ。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

処理中です...