131 / 274
131.甘いものは別腹よね
しおりを挟む
お昼前に勉強を切り上げ、家族皆で街に向かう。馬車が不要な距離だったので、久しぶりに歩くことにした。管理人夫婦には驚かれたけれど、屋敷から同行した使用人達は気にしない。
公爵夫人なのに、日傘や帽子もなしで散歩する私だもの。いまさら驚かないわよね。さすがに今日は帽子を被った。ツバ部分の大きな帽子は、肩幅ほどもある。
「抱っこしづらいわ」
この帽子はやめましょう、とリリーに返そうとした。しかしヘンリック様が止める。
「レオンなら俺が抱き上げるから、君は帽子を被った方がいい」
意味はわからないけれど、訳知り顔でベルントが同意する。公爵夫人が帽子なしはマズイみたい。お父様に買ってもらったシャツに、私が以前プレゼントしたスカーフを付けたエルヴィン。ユリアーナとユリアンはお揃いの上下だった。これはセーラーカラーっぽいわ。
セーラーカラーって、元は水夫の服だと聞いたことがある。じっと見つめたレオンが「あれ、ぼくも」と強請った。すぐは無理だろうから、注文すると約束する。ここに滞在している間に仕上げられるか、交渉しなくちゃね。
海辺の別荘なら似合うセーラーだが、山際の別荘でも可愛い。キャンプに来たボーイスカウトっぽいわ。想像だけで楽しくなった。
到着した街は、人が多く賑わっている。公爵領の一部なので、他の領地より管理が行き届いていた。この辺はヘンリック様の手腕かしら。王宮での仕事の合間に、領地の書類も片付けていたと聞いて納得する。それは忙しいわけだわ。
「あれ!」
「うわぁ、綺麗だね」
子供達が目敏く見つけたのは、綺麗なケーキのお店だった。洋菓子店と表現した方がいいかも。焼き菓子もいくつか並んでいるが、一番目を引くのはケーキ類だ。色鮮やかな果物がきらきら光っている。
「美味しそう、でも先にご飯を食べてからね」
残念そうにしながらも、レオンは我慢を選んだ。ご飯を食べたらまた寄ることにして、ベルントが予約した料理屋に入る。護衛の騎士もいるため、店は貸し切りとなった。きのこたっぷりのオムレツ、栗の入った蒸しパン、具沢山のスープは肉が猪だ。
普段は食べない食材も多く、驚きと感動の連続だった。とても美味しいし、色も鮮やかで素敵。盛り付けもセンスが良かった。老夫婦のお店でお腹を満たし、歩いて移動する。
レオンは右手を私と繋ぎ、左手をヘンリック様へ伸ばした。間でぶらぶらと足を揺らしたり、数歩先へ走って止まったり。すごく楽しそう。これは手を繋いでいないと、迷子になってしまうわね。
先ほどのケーキ店へ到着し、店内で席に着く。
「一緒に行こう、レオン様」
「うん! あにゃ……あ、な」
言い直している間に、手を繋いだユリアーナが引っ張っていく。この世界でガラスのショーケースはない。窓ガラスがそのままショーケースの代わりだった。室内にガラスの小部屋がある感じだ。
うわぁ、と声を上げながらケーキを見つめる。あれもこれもと欲張る子供達に、何も言わず好きにさせた。エルヴィンや双子はいつも我慢させてきたわ。お金がないって、そういうことだもの。買える時は自由にさせてあげたい。
レオンはお祭り以来の外出に大興奮で、姉や兄と慕う三人が一緒なのも嬉しいようだ。全部欲しいと欲張っている。こちらはさすがに止めた方がよさそう。一人一つまで、と条件をつけた。食べ終えたら、もう一つ頼んでもいいわ。
公爵夫人なのに、日傘や帽子もなしで散歩する私だもの。いまさら驚かないわよね。さすがに今日は帽子を被った。ツバ部分の大きな帽子は、肩幅ほどもある。
「抱っこしづらいわ」
この帽子はやめましょう、とリリーに返そうとした。しかしヘンリック様が止める。
「レオンなら俺が抱き上げるから、君は帽子を被った方がいい」
意味はわからないけれど、訳知り顔でベルントが同意する。公爵夫人が帽子なしはマズイみたい。お父様に買ってもらったシャツに、私が以前プレゼントしたスカーフを付けたエルヴィン。ユリアーナとユリアンはお揃いの上下だった。これはセーラーカラーっぽいわ。
セーラーカラーって、元は水夫の服だと聞いたことがある。じっと見つめたレオンが「あれ、ぼくも」と強請った。すぐは無理だろうから、注文すると約束する。ここに滞在している間に仕上げられるか、交渉しなくちゃね。
海辺の別荘なら似合うセーラーだが、山際の別荘でも可愛い。キャンプに来たボーイスカウトっぽいわ。想像だけで楽しくなった。
到着した街は、人が多く賑わっている。公爵領の一部なので、他の領地より管理が行き届いていた。この辺はヘンリック様の手腕かしら。王宮での仕事の合間に、領地の書類も片付けていたと聞いて納得する。それは忙しいわけだわ。
「あれ!」
「うわぁ、綺麗だね」
子供達が目敏く見つけたのは、綺麗なケーキのお店だった。洋菓子店と表現した方がいいかも。焼き菓子もいくつか並んでいるが、一番目を引くのはケーキ類だ。色鮮やかな果物がきらきら光っている。
「美味しそう、でも先にご飯を食べてからね」
残念そうにしながらも、レオンは我慢を選んだ。ご飯を食べたらまた寄ることにして、ベルントが予約した料理屋に入る。護衛の騎士もいるため、店は貸し切りとなった。きのこたっぷりのオムレツ、栗の入った蒸しパン、具沢山のスープは肉が猪だ。
普段は食べない食材も多く、驚きと感動の連続だった。とても美味しいし、色も鮮やかで素敵。盛り付けもセンスが良かった。老夫婦のお店でお腹を満たし、歩いて移動する。
レオンは右手を私と繋ぎ、左手をヘンリック様へ伸ばした。間でぶらぶらと足を揺らしたり、数歩先へ走って止まったり。すごく楽しそう。これは手を繋いでいないと、迷子になってしまうわね。
先ほどのケーキ店へ到着し、店内で席に着く。
「一緒に行こう、レオン様」
「うん! あにゃ……あ、な」
言い直している間に、手を繋いだユリアーナが引っ張っていく。この世界でガラスのショーケースはない。窓ガラスがそのままショーケースの代わりだった。室内にガラスの小部屋がある感じだ。
うわぁ、と声を上げながらケーキを見つめる。あれもこれもと欲張る子供達に、何も言わず好きにさせた。エルヴィンや双子はいつも我慢させてきたわ。お金がないって、そういうことだもの。買える時は自由にさせてあげたい。
レオンはお祭り以来の外出に大興奮で、姉や兄と慕う三人が一緒なのも嬉しいようだ。全部欲しいと欲張っている。こちらはさすがに止めた方がよさそう。一人一つまで、と条件をつけた。食べ終えたら、もう一つ頼んでもいいわ。
1,667
お気に入りに追加
4,249
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。
BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。
後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。
新しい兄は最悪だった。
事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。
それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか?
本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い

皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです


[完]僕の前から、君が消えた
小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』
余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。
残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。
そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて……
*ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる