127 / 274
127.山際の別邸はログハウス
しおりを挟む
何度か休憩を挟みながら、馬車は順調に進んだ。麦畑を横切り、白い花の咲き乱れる丘を越えて、一軒の大きな建物に到着する。
「うわぁ!」
レオンは嬉しそうに声を上げた。心境としては私も同じよ。立派なログハウスが建っているのだが、後ろに巨木が生えている。そのため別宅が大木の延長に見えた。
「すごい迫力だわ」
「祖父が祖母のために建てたらしい」
ヘンリック様の祖母、たしか王家から降嫁なさった方だわ。王女殿下を娶ったお祖父様は、彼女を愛しておられた。こんな素敵な家をプレゼントするんだもの。
「おかぁしゃ、ま! おと、ちゃまも」
早く行こうと急かすレオンに手を引かれ、ログハウスに向かった。近づいたら、山小屋と呼ぶには大きすぎる。丸太を組んだ造りなのに、二階建てなの。その上、横にも奥にも大きかった。
同行したベルントがベルを鳴らすと、内側から扉が開いた。先行して到着した侍女や侍従が出迎え、別宅の管理人も顔を見せる。挨拶を受けて中に入れば、中もログハウスだった。幅の広い板を使った豪華な建物だ。
天井付近に梁が見えていたら……と思ったが、さすがにそれはないわね。残念だわ。シャンデリアを使用するため天井は高く、吹き抜けのようで開放的だった。
団欒に使われる居間に当たる部屋に通されると、さらなる驚きが待っていた。建物の中央に中庭がある。二階の屋根に届きそうな丸い葉っぱの木と、赤や黄色の実を付けた低い茂みがいくつか。青い実はブルーベリーかしら。
「素敵ね」
「気に入ってもらえてよかった」
ヘンリック様がレオンを抱き上げ、中庭へ向かう。扉を開けた先に、サークル状に煉瓦が敷き詰められていた。歩いて横切るヘンリック様の後ろに続く。レオンはぽかんと口を開けたまま、上を眺めていた。
同じように上を向けば……広い空が切り取られて四角い絵のよう。ふらふらと歩いていた私は、煉瓦の角に躓いた。転ぶ、と思ったが誰かにぶつかる。
「っ、!」
「ケガはないか?」
「はい、ありがとうございます」
ヘンリック様はレオンを抱いたまま、器用に私を肩で受け止めた。抱きつく形になった私は、慌てて手を離す。シャツが皺になるほど掴んでしまったわ。
「祖父母が晩年を過ごした別邸だ。ゆっくり過ごそう」
「はい、温泉もあると聞きました」
他愛のない話をしながら、中庭を歩いた。果樹の茂みの奥に、ベンチがある。きちんと手入れのされた座面に腰掛け、並んで風景を楽しんだ。
「あれ! ほちぃ」
「レオン、欲しいのね?」
「うん、ほ、しい」
言い直したことで、言葉が直る。綺麗な言葉を使うようにしましょう。レオンに変な癖をつけたくないわ。二人の間に座らせたレオンは、足を前後に揺らした。足のつかない高さのベンチから降り、茂みに手を伸ばす。
「籠を用意してもらわないと」
ひとまず、ハンカチで包めば持てるかしら。レオンは頬を赤くして、紫の実を摘む。指先が赤紫に濡れても気にせず、一つを口に入れた。
隣の私もすぐに味を確かめる。見た目通り、葡萄の一種で間違いなさそう。でも酸っぱかった。ワイン用かしら。ヘンリック様も同じように口へ実を放り込んだ。ふふっ、指先が鮮やかに染まっているわ。
「うわぁ!」
レオンは嬉しそうに声を上げた。心境としては私も同じよ。立派なログハウスが建っているのだが、後ろに巨木が生えている。そのため別宅が大木の延長に見えた。
「すごい迫力だわ」
「祖父が祖母のために建てたらしい」
ヘンリック様の祖母、たしか王家から降嫁なさった方だわ。王女殿下を娶ったお祖父様は、彼女を愛しておられた。こんな素敵な家をプレゼントするんだもの。
「おかぁしゃ、ま! おと、ちゃまも」
早く行こうと急かすレオンに手を引かれ、ログハウスに向かった。近づいたら、山小屋と呼ぶには大きすぎる。丸太を組んだ造りなのに、二階建てなの。その上、横にも奥にも大きかった。
同行したベルントがベルを鳴らすと、内側から扉が開いた。先行して到着した侍女や侍従が出迎え、別宅の管理人も顔を見せる。挨拶を受けて中に入れば、中もログハウスだった。幅の広い板を使った豪華な建物だ。
天井付近に梁が見えていたら……と思ったが、さすがにそれはないわね。残念だわ。シャンデリアを使用するため天井は高く、吹き抜けのようで開放的だった。
団欒に使われる居間に当たる部屋に通されると、さらなる驚きが待っていた。建物の中央に中庭がある。二階の屋根に届きそうな丸い葉っぱの木と、赤や黄色の実を付けた低い茂みがいくつか。青い実はブルーベリーかしら。
「素敵ね」
「気に入ってもらえてよかった」
ヘンリック様がレオンを抱き上げ、中庭へ向かう。扉を開けた先に、サークル状に煉瓦が敷き詰められていた。歩いて横切るヘンリック様の後ろに続く。レオンはぽかんと口を開けたまま、上を眺めていた。
同じように上を向けば……広い空が切り取られて四角い絵のよう。ふらふらと歩いていた私は、煉瓦の角に躓いた。転ぶ、と思ったが誰かにぶつかる。
「っ、!」
「ケガはないか?」
「はい、ありがとうございます」
ヘンリック様はレオンを抱いたまま、器用に私を肩で受け止めた。抱きつく形になった私は、慌てて手を離す。シャツが皺になるほど掴んでしまったわ。
「祖父母が晩年を過ごした別邸だ。ゆっくり過ごそう」
「はい、温泉もあると聞きました」
他愛のない話をしながら、中庭を歩いた。果樹の茂みの奥に、ベンチがある。きちんと手入れのされた座面に腰掛け、並んで風景を楽しんだ。
「あれ! ほちぃ」
「レオン、欲しいのね?」
「うん、ほ、しい」
言い直したことで、言葉が直る。綺麗な言葉を使うようにしましょう。レオンに変な癖をつけたくないわ。二人の間に座らせたレオンは、足を前後に揺らした。足のつかない高さのベンチから降り、茂みに手を伸ばす。
「籠を用意してもらわないと」
ひとまず、ハンカチで包めば持てるかしら。レオンは頬を赤くして、紫の実を摘む。指先が赤紫に濡れても気にせず、一つを口に入れた。
隣の私もすぐに味を確かめる。見た目通り、葡萄の一種で間違いなさそう。でも酸っぱかった。ワイン用かしら。ヘンリック様も同じように口へ実を放り込んだ。ふふっ、指先が鮮やかに染まっているわ。
1,651
お気に入りに追加
4,249
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。
久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。
※一話完結です。
ゆるゆる設定です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる