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127.山際の別邸はログハウス
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何度か休憩を挟みながら、馬車は順調に進んだ。麦畑を横切り、白い花の咲き乱れる丘を越えて、一軒の大きな建物に到着する。
「うわぁ!」
レオンは嬉しそうに声を上げた。心境としては私も同じよ。立派なログハウスが建っているのだが、後ろに巨木が生えている。そのため別宅が大木の延長に見えた。
「すごい迫力だわ」
「祖父が祖母のために建てたらしい」
ヘンリック様の祖母、たしか王家から降嫁なさった方だわ。王女殿下を娶ったお祖父様は、彼女を愛しておられた。こんな素敵な家をプレゼントするんだもの。
「おかぁしゃ、ま! おと、ちゃまも」
早く行こうと急かすレオンに手を引かれ、ログハウスに向かった。近づいたら、山小屋と呼ぶには大きすぎる。丸太を組んだ造りなのに、二階建てなの。その上、横にも奥にも大きかった。
同行したベルントがベルを鳴らすと、内側から扉が開いた。先行して到着した侍女や侍従が出迎え、別宅の管理人も顔を見せる。挨拶を受けて中に入れば、中もログハウスだった。幅の広い板を使った豪華な建物だ。
天井付近に梁が見えていたら……と思ったが、さすがにそれはないわね。残念だわ。シャンデリアを使用するため天井は高く、吹き抜けのようで開放的だった。
団欒に使われる居間に当たる部屋に通されると、さらなる驚きが待っていた。建物の中央に中庭がある。二階の屋根に届きそうな丸い葉っぱの木と、赤や黄色の実を付けた低い茂みがいくつか。青い実はブルーベリーかしら。
「素敵ね」
「気に入ってもらえてよかった」
ヘンリック様がレオンを抱き上げ、中庭へ向かう。扉を開けた先に、サークル状に煉瓦が敷き詰められていた。歩いて横切るヘンリック様の後ろに続く。レオンはぽかんと口を開けたまま、上を眺めていた。
同じように上を向けば……広い空が切り取られて四角い絵のよう。ふらふらと歩いていた私は、煉瓦の角に躓いた。転ぶ、と思ったが誰かにぶつかる。
「っ、!」
「ケガはないか?」
「はい、ありがとうございます」
ヘンリック様はレオンを抱いたまま、器用に私を肩で受け止めた。抱きつく形になった私は、慌てて手を離す。シャツが皺になるほど掴んでしまったわ。
「祖父母が晩年を過ごした別邸だ。ゆっくり過ごそう」
「はい、温泉もあると聞きました」
他愛のない話をしながら、中庭を歩いた。果樹の茂みの奥に、ベンチがある。きちんと手入れのされた座面に腰掛け、並んで風景を楽しんだ。
「あれ! ほちぃ」
「レオン、欲しいのね?」
「うん、ほ、しい」
言い直したことで、言葉が直る。綺麗な言葉を使うようにしましょう。レオンに変な癖をつけたくないわ。二人の間に座らせたレオンは、足を前後に揺らした。足のつかない高さのベンチから降り、茂みに手を伸ばす。
「籠を用意してもらわないと」
ひとまず、ハンカチで包めば持てるかしら。レオンは頬を赤くして、紫の実を摘む。指先が赤紫に濡れても気にせず、一つを口に入れた。
隣の私もすぐに味を確かめる。見た目通り、葡萄の一種で間違いなさそう。でも酸っぱかった。ワイン用かしら。ヘンリック様も同じように口へ実を放り込んだ。ふふっ、指先が鮮やかに染まっているわ。
「うわぁ!」
レオンは嬉しそうに声を上げた。心境としては私も同じよ。立派なログハウスが建っているのだが、後ろに巨木が生えている。そのため別宅が大木の延長に見えた。
「すごい迫力だわ」
「祖父が祖母のために建てたらしい」
ヘンリック様の祖母、たしか王家から降嫁なさった方だわ。王女殿下を娶ったお祖父様は、彼女を愛しておられた。こんな素敵な家をプレゼントするんだもの。
「おかぁしゃ、ま! おと、ちゃまも」
早く行こうと急かすレオンに手を引かれ、ログハウスに向かった。近づいたら、山小屋と呼ぶには大きすぎる。丸太を組んだ造りなのに、二階建てなの。その上、横にも奥にも大きかった。
同行したベルントがベルを鳴らすと、内側から扉が開いた。先行して到着した侍女や侍従が出迎え、別宅の管理人も顔を見せる。挨拶を受けて中に入れば、中もログハウスだった。幅の広い板を使った豪華な建物だ。
天井付近に梁が見えていたら……と思ったが、さすがにそれはないわね。残念だわ。シャンデリアを使用するため天井は高く、吹き抜けのようで開放的だった。
団欒に使われる居間に当たる部屋に通されると、さらなる驚きが待っていた。建物の中央に中庭がある。二階の屋根に届きそうな丸い葉っぱの木と、赤や黄色の実を付けた低い茂みがいくつか。青い実はブルーベリーかしら。
「素敵ね」
「気に入ってもらえてよかった」
ヘンリック様がレオンを抱き上げ、中庭へ向かう。扉を開けた先に、サークル状に煉瓦が敷き詰められていた。歩いて横切るヘンリック様の後ろに続く。レオンはぽかんと口を開けたまま、上を眺めていた。
同じように上を向けば……広い空が切り取られて四角い絵のよう。ふらふらと歩いていた私は、煉瓦の角に躓いた。転ぶ、と思ったが誰かにぶつかる。
「っ、!」
「ケガはないか?」
「はい、ありがとうございます」
ヘンリック様はレオンを抱いたまま、器用に私を肩で受け止めた。抱きつく形になった私は、慌てて手を離す。シャツが皺になるほど掴んでしまったわ。
「祖父母が晩年を過ごした別邸だ。ゆっくり過ごそう」
「はい、温泉もあると聞きました」
他愛のない話をしながら、中庭を歩いた。果樹の茂みの奥に、ベンチがある。きちんと手入れのされた座面に腰掛け、並んで風景を楽しんだ。
「あれ! ほちぃ」
「レオン、欲しいのね?」
「うん、ほ、しい」
言い直したことで、言葉が直る。綺麗な言葉を使うようにしましょう。レオンに変な癖をつけたくないわ。二人の間に座らせたレオンは、足を前後に揺らした。足のつかない高さのベンチから降り、茂みに手を伸ばす。
「籠を用意してもらわないと」
ひとまず、ハンカチで包めば持てるかしら。レオンは頬を赤くして、紫の実を摘む。指先が赤紫に濡れても気にせず、一つを口に入れた。
隣の私もすぐに味を確かめる。見た目通り、葡萄の一種で間違いなさそう。でも酸っぱかった。ワイン用かしら。ヘンリック様も同じように口へ実を放り込んだ。ふふっ、指先が鮮やかに染まっているわ。
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