126 / 131
126.馬車の旅は初めて尽くし
しおりを挟む
家族と相談したところ、全員一緒に行くことになった。離れでも主人のいない屋敷に留まるのは、どことなく居心地が悪い。エルヴィンや双子が一緒なら、レオンと一緒にお風呂に入ってもらえるから安心ね。
ヘンリック様が体調不良になっても、ベルントとお父様がいれば頼りになる。馬車を追加し、国王陛下から邪魔が入る前に出発した。レオンはお気に入りの絵本を眺めているけれど、揺れる馬車で酔わないかしら。
「レオン、絵本は後にしましょうか」
「やぁ」
珍しい拒否に、自我が強くなる年齢ねと微笑む。その様子が不思議だったようで、向かいに座るヘンリック様に理由を尋ねられた。
「自我が育てば、イヤイヤ期が来るんですよ。なんでも自分でしてみたくて、親の手助けを嫌がります。きちんと成長している証ですわ。我が侭とは違いますの」
私も一般的な理解しかないが、ヘンリック様の知識に育児はないだろう。出来るだけ丁寧に伝えた。エルヴィンや双子も経験したのだと話したら、なるほどと納得していた。いずれ落ち着くけれど、知らないと驚くわよね。
「仕事は大丈夫だろうか」
窓の外を見ながら、ぽつりと呟く。ヘンリック様の不安を吹き飛ばすように、私は明るく言い放った。
「滞るなら仕組みが悪いのです。誰か一人が欠けたら動かなくなる仕組みなど、間違っていますわ。不慮の事故があっても、誰かが穴を埋める。それが正しい組織のあり方です」
私はそう考える。ヘンリック様がいなくて国政が止まるなら、国王陛下は不要だもの。あの方がきちんと仕事をすれば、ヘンリック様は補佐に徹する。そのくらいの役割なら、誰かが代行できるわ。
「ヘンリック様は国王陛下ではありません。今回はしっかり休むのがお仕事ですわ」
「そうか」
少し表情が明るくなった。レオンは絵本を閉じたものの、大事に膝に載せて撫でている。がたんと馬車が揺れた。道が悪いのか、その後もがたごとと左右に傾く。
「レオン、お膝に乗る?」
「……うん」
まだイヤイヤ期や反抗期じゃないのかも。絵本を持ったまま膝に座り、窓の外を眺め始めた。ベルント達に確認したところ、初めての外出らしい。見たことのない景色に、興味を惹かれたようだ。身を乗り出そうとするので、絵本を置いて靴を脱がせた。
「え、ほん」
「揺れた時に、窓の外に落としちゃうわ。ここに置いておくから安心して」
言い聞かせて、さっきまでレオンが座っていた場所に絵本を置く。じっと見つめた後、こくんと頷いた。納得してくれたのね。立ち上がって窓枠を掴み、興奮したレオンは景色に見入った。落ちないよう、お腹に腕を回して支える。
「大変だろう、俺が代わろうか」
ヘンリック様からの申し出で、レオンは抱っこで移動となった。向きが変わったけれど、レオンは気にしていない。誰に向けたのか、大きく手を振った。楽しそうでよかったわ。
レオンが膝からいなくなったら、緊張が解けたのか。私は口元を手で押さえた。前世と同じで乗り物酔いがひどいのよ……少ししたら休ませてもらいましょう。
ヘンリック様が体調不良になっても、ベルントとお父様がいれば頼りになる。馬車を追加し、国王陛下から邪魔が入る前に出発した。レオンはお気に入りの絵本を眺めているけれど、揺れる馬車で酔わないかしら。
「レオン、絵本は後にしましょうか」
「やぁ」
珍しい拒否に、自我が強くなる年齢ねと微笑む。その様子が不思議だったようで、向かいに座るヘンリック様に理由を尋ねられた。
「自我が育てば、イヤイヤ期が来るんですよ。なんでも自分でしてみたくて、親の手助けを嫌がります。きちんと成長している証ですわ。我が侭とは違いますの」
私も一般的な理解しかないが、ヘンリック様の知識に育児はないだろう。出来るだけ丁寧に伝えた。エルヴィンや双子も経験したのだと話したら、なるほどと納得していた。いずれ落ち着くけれど、知らないと驚くわよね。
「仕事は大丈夫だろうか」
窓の外を見ながら、ぽつりと呟く。ヘンリック様の不安を吹き飛ばすように、私は明るく言い放った。
「滞るなら仕組みが悪いのです。誰か一人が欠けたら動かなくなる仕組みなど、間違っていますわ。不慮の事故があっても、誰かが穴を埋める。それが正しい組織のあり方です」
私はそう考える。ヘンリック様がいなくて国政が止まるなら、国王陛下は不要だもの。あの方がきちんと仕事をすれば、ヘンリック様は補佐に徹する。そのくらいの役割なら、誰かが代行できるわ。
「ヘンリック様は国王陛下ではありません。今回はしっかり休むのがお仕事ですわ」
「そうか」
少し表情が明るくなった。レオンは絵本を閉じたものの、大事に膝に載せて撫でている。がたんと馬車が揺れた。道が悪いのか、その後もがたごとと左右に傾く。
「レオン、お膝に乗る?」
「……うん」
まだイヤイヤ期や反抗期じゃないのかも。絵本を持ったまま膝に座り、窓の外を眺め始めた。ベルント達に確認したところ、初めての外出らしい。見たことのない景色に、興味を惹かれたようだ。身を乗り出そうとするので、絵本を置いて靴を脱がせた。
「え、ほん」
「揺れた時に、窓の外に落としちゃうわ。ここに置いておくから安心して」
言い聞かせて、さっきまでレオンが座っていた場所に絵本を置く。じっと見つめた後、こくんと頷いた。納得してくれたのね。立ち上がって窓枠を掴み、興奮したレオンは景色に見入った。落ちないよう、お腹に腕を回して支える。
「大変だろう、俺が代わろうか」
ヘンリック様からの申し出で、レオンは抱っこで移動となった。向きが変わったけれど、レオンは気にしていない。誰に向けたのか、大きく手を振った。楽しそうでよかったわ。
レオンが膝からいなくなったら、緊張が解けたのか。私は口元を手で押さえた。前世と同じで乗り物酔いがひどいのよ……少ししたら休ませてもらいましょう。
1,201
お気に入りに追加
3,753
あなたにおすすめの小説
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。
はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。
周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。
婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。
ただ、美しいのはその見た目だけ。
心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。
本来の私の姿で……
前編、中編、後編の短編です。
夫が大変和やかに俺の事嫌い?と聞いてきた件について〜成金一族の娘が公爵家に嫁いで愛される話
はくまいキャベツ
恋愛
父親の事業が成功し、一気に貴族の仲間入りとなったローズマリー。
父親は地位を更に確固たるものにするため、長女のローズマリーを歴史ある貴族と政略結婚させようとしていた。
成金一族と揶揄されながらも社交界に出向き、公爵家の次男、マイケルと出会ったが、本物の貴族の血というものを見せつけられ、ローズマリーは怯んでしまう。
しかも相手も値踏みする様な目で見てきて苦手意識を持ったが、ローズマリーの思いも虚しくその家に嫁ぐ事となった。
それでも妻としての役目は果たそうと無難な日々を過ごしていたある日、「君、もしかして俺の事嫌い?」と、まるで食べ物の好き嫌いを聞く様に夫に尋ねられた。
(……なぜ、分かったの)
格差婚に悩む、素直になれない妻と、何を考えているのか掴みにくい不思議な夫が育む恋愛ストーリー。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません
片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。
皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。
もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。
【完結】政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる