117 / 274
117.失言が多い口は閉じないと
しおりを挟む
マルレーネ様にとって、ルイーゼ王女殿下は三人目だ。子育てに関してもある程度の知識はあるし、経験も豊かな方だろう。貴族夫人は二人しか産まない人が多いの。一般的に跡取りと、血縁を結ぶご令嬢を欲しがる。
大勢産むと体の線が崩れるため、嫌がるご婦人は多かった。これが平民の奥さんとなれば、子育て資金の心配がなければ何人でも産む。農家は食いっぱぐれがないから、子沢山なのよね。未来の働き手として子供に期待する親も多かった。
貴族の子女と平民の子が違う大きな点は、成人する割合かしら。病気に罹った際に生き残れる確率が違う。薬はもちろん、栄養たっぷりの食事と温かな部屋を供給できるかどうか。うちは運が良く、皆が健康だったけれど……それでも熱を出した時は慌てたわ。
懐かしく思いながら、マルレーネ様に心当たりを尋ねた。一般的に四歳なら、もっと流暢に話す。女児の方が発育がいい傾向が強いので、さらに違和感が募った。
「そうね……特に上の王子達と違う育て方はしていないわ。食べ物も運動も遊びも、好きにさせているの」
個人差で片付けるには、言葉だけが未発達でアンバランスだった。走り回る姿は問題ないし、レオンを引っ張って移動する様子は元気そのもの。変ね……首を傾げながら過ごした。
マルレーネ様は意外にも甘いものが得意ではなく、ルイーゼ王女殿下は大好きだった。両手にお菓子を持って、嬉しそうに頬張る。レオンは両手で一つを持ち、リスのように小さく齧って食べた。見事に正反対の性格だわ。だから仲良くなれるのでしょうね。
微笑ましく感じる私は、手でぱっぱと泥を払って腰掛けた。マーサが気を利かせ、長椅子にストールを敷いてくれたの。寒い時に肩に掛けるよう準備されたけれど、長椅子を汚すことを気にする私を見かねたのね。
マルレーネ様は汚したドレスを気にする。弁償すると言い出したので、そこは丁寧に辞退した。
「本当にお気になさらず。うちの洗濯係の下女は、有能ですから落とせます。それに汚したのはレオンも一緒ですわ」
「でも……」
「泥は意外と落ちるんですよ」
ドレスを水で丸洗いしていいか不明だけれど、笑って誤魔化した。弁償されたら、きらっきらの豪華な衣装が届きそうな気がしたの。それはそれで、着る場所に困るわ。
「レオンは迷わず飛び込んだわね。普段からそうなの?」
「はい、普段は汚れてもいいようワンピースで過ごしていますので……」
笑顔で返した私は、しまったと言葉を止めた。だが溢れてしまった言葉は取り戻せない。公爵夫人が屋敷内とはいえ、簡素な格好でいるのはマズイわよね。外で得意げに話すなんて、気が緩みすぎだわ。
「私もワンピースにしたら楽なのでしょうね」
羨ましいわとマルレーネ様は呟いた。王族の屋敷は王宮で、さまざまな高官や貴族とすれ違う。プライベートな空間はあるが、一日に何度も着替えるのは効率が悪いだろう。簡素なワンピースで過ごすのは、難しいと同情した。
「ドレスの飾りを少し減らすだけでも、洗うのが楽になりますわ。取り外し可能な……エプロンのような布を巻くとか」
提案してみたけれど、エプロン姿の王妃殿下を想像したら笑顔が引き攣った。また間違えたわ。
大勢産むと体の線が崩れるため、嫌がるご婦人は多かった。これが平民の奥さんとなれば、子育て資金の心配がなければ何人でも産む。農家は食いっぱぐれがないから、子沢山なのよね。未来の働き手として子供に期待する親も多かった。
貴族の子女と平民の子が違う大きな点は、成人する割合かしら。病気に罹った際に生き残れる確率が違う。薬はもちろん、栄養たっぷりの食事と温かな部屋を供給できるかどうか。うちは運が良く、皆が健康だったけれど……それでも熱を出した時は慌てたわ。
懐かしく思いながら、マルレーネ様に心当たりを尋ねた。一般的に四歳なら、もっと流暢に話す。女児の方が発育がいい傾向が強いので、さらに違和感が募った。
「そうね……特に上の王子達と違う育て方はしていないわ。食べ物も運動も遊びも、好きにさせているの」
個人差で片付けるには、言葉だけが未発達でアンバランスだった。走り回る姿は問題ないし、レオンを引っ張って移動する様子は元気そのもの。変ね……首を傾げながら過ごした。
マルレーネ様は意外にも甘いものが得意ではなく、ルイーゼ王女殿下は大好きだった。両手にお菓子を持って、嬉しそうに頬張る。レオンは両手で一つを持ち、リスのように小さく齧って食べた。見事に正反対の性格だわ。だから仲良くなれるのでしょうね。
微笑ましく感じる私は、手でぱっぱと泥を払って腰掛けた。マーサが気を利かせ、長椅子にストールを敷いてくれたの。寒い時に肩に掛けるよう準備されたけれど、長椅子を汚すことを気にする私を見かねたのね。
マルレーネ様は汚したドレスを気にする。弁償すると言い出したので、そこは丁寧に辞退した。
「本当にお気になさらず。うちの洗濯係の下女は、有能ですから落とせます。それに汚したのはレオンも一緒ですわ」
「でも……」
「泥は意外と落ちるんですよ」
ドレスを水で丸洗いしていいか不明だけれど、笑って誤魔化した。弁償されたら、きらっきらの豪華な衣装が届きそうな気がしたの。それはそれで、着る場所に困るわ。
「レオンは迷わず飛び込んだわね。普段からそうなの?」
「はい、普段は汚れてもいいようワンピースで過ごしていますので……」
笑顔で返した私は、しまったと言葉を止めた。だが溢れてしまった言葉は取り戻せない。公爵夫人が屋敷内とはいえ、簡素な格好でいるのはマズイわよね。外で得意げに話すなんて、気が緩みすぎだわ。
「私もワンピースにしたら楽なのでしょうね」
羨ましいわとマルレーネ様は呟いた。王族の屋敷は王宮で、さまざまな高官や貴族とすれ違う。プライベートな空間はあるが、一日に何度も着替えるのは効率が悪いだろう。簡素なワンピースで過ごすのは、難しいと同情した。
「ドレスの飾りを少し減らすだけでも、洗うのが楽になりますわ。取り外し可能な……エプロンのような布を巻くとか」
提案してみたけれど、エプロン姿の王妃殿下を想像したら笑顔が引き攣った。また間違えたわ。
1,723
お気に入りに追加
4,249
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。


結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです


出て行ってほしいと旦那様から言われたのでその通りにしたら、今になって後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
コルト第一王子と婚約者の関係にあったエミリア。しかし彼女はある日、コルトが自分の家出を望んでいる事を知ってしまう。エミリアはそれを叶える形で、静かに屋敷を去って家出をしてしまう…。コルトは最初こそその状況に喜ぶのだったが、エミリアの事を可愛がっていた国王の逆鱗に触れるところとなり、急いでエミリアを呼び戻すべく行動するのであったが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる