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115.温室での穏やかな時間

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 王宮に到着すると、お出迎えが大量に並んでいた。文官達はヘンリック様に丁寧に挨拶し、促して連れていく。名残惜しそうに振り返るたび、無情にもレオンが手を振った。

 ちょっと残酷かもしれないわね。ここしばらく一緒にいる時間が長かったので、一人だけ仕事に向かうのは嫌なのだろう。苦笑いして、また後でと声をかけた。その後ろで侍女や侍従が、大量の箱を下ろす。

 正装は靴や宝飾品も含むため、厳重に梱包されていた。万が一にも紛失すれば、一大事だもの。箱に番号が振られ、王宮の一室へ運ばれる。指揮をリリーに任せ、私はマーサを従えて歩き出した。

 先導する王宮の侍女は、人の少ない通路を選んだらしい。お陰で助かったわ。興奮したレオンは「うわぁ」や「しゅっごい」と声をあげた。注目を浴びてしまうもの。絨毯の色にマーサが驚いているから、何か意味があるのかもしれないわ。後で聞いてみましょう。

 途中で芝生の道を使い、薔薇が咲き乱れる一角を抜けると、温室が現れた。ガラス張りの立派な温室は、今日も快適な温度を保っている。中では、すでに王妃マルレーネ様がお待ちだった。

「お久しぶりです、マルレーネ様。お待たせしたでしょうか」

「あら、気になさらないで。アマーリア夫人、先にルイーゼを遊ばせていたの」

 穏やかな挨拶から始まり、抱いてきたレオンを下ろす。温室で会うなら、レオンとルイーゼ王女殿下が一緒に遊ぶという意味だ。当然、汚してしまうだろう。それでも王宮には格式があり、幼いからと略装は失礼だった。迷った末、遊ぶ時は上着を脱がせることにした。

 シャツの着替えは二枚も用意したし、これで大丈夫だと思いたいわ。

「れぉ! いっちょに、こっち」

 ルイーゼ王女殿下に誘われ、レオンは走り出した。しかし、すぐに立ち止まる。ちらりと私を振り返るから、笑顔で頷いた。

「気をつけて仲良く遊ぶのよ。ケガをしたらお母様を呼ぶこと、いいわね」

「うん」

 嬉しそうに走っていく後ろ姿が、茂みに隠れる。マーサが一礼して追いかけた。他にも数名の騎士や侍女が散らばっており、何かあれば知らせてくれるようだ。温室から出て行方不明になる心配も、池に落ちる懸念もない。安全な遊び場だった。

「アマーリア夫人、まずは謝らせて頂戴。陛下が無理を言ったようで、公爵が出仕を拒否したと聞いたの」

「お気になさらず。ヘンリック様は臨時休暇と仰って、楽しそうに過ごしていましたわ」

 逆に、陛下の方がご苦労なさったと思うの。普段は書類を処理していない人が、大量の決裁案件に囲まれた。相当ストレスだったんじゃないかしら。

「何度か手紙を出して断られたでしょう? ルイーゼが陛下にお願いをしたのよ。レオンと遊びたい、と……それも書いたのだけれど、仕事と一緒に却下されて」

 一度言葉を止めて、マルレーネ様は着座を勧めた。柔らかなクッションが積まれた籐細工の長椅子に座る。

「お父様なんて嫌い、とルイーゼに泣かれていたわ。ふふっ、あの時の顔がおかしくて……うふふ」

 笑っていいのか困る場面だけれど、私は頬を緩めた。陛下にも良い薬になったでしょうね。
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