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114.降参した陛下からのお伺い

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 ヘンリック様の三回目の返信で、ようやく落ち着いたのか。国王陛下からの連絡は翌日のお昼前に届いた。朝食を楽しんで、レオンと絵本を読んだ後ね。フランク経由で受け取った手紙をじっくり読み、ヘンリック様は溜め息を吐いた。

「陛下が反省されたようだ。五日後の晩餐に招待された」

「晩餐……ですか」

 先日、まとめて注文したドレスが届くのが三日後だから、なんとか間に合いそうだわ。王妃マルレーネ様のお茶会の服を作る際、一緒にお願いしていたのよ。フランク達の言葉の通り、常に数着は用意しておかないといけないわ。ドレスが当日に間に合わないなんて、公爵家の体面があるもの。

「当日、午後に王妃殿下がアマーリアを温室に誘いたいと」

 陛下の手紙に追記されていた部分を読み聞かせ、同封されていた便箋を受け取る。マルレーネ様の署名が入った手紙は、お茶会ではなく温室で私的な集まりを……と記されていた。外部の人はいない、私達だけで過ごすのね。

「わかりました。ドレスは二着必要ですか?」

「いや……どうだろう」

 否定しかけて、ヘンリック様は視線を上げた。部屋の壁になっていたフランクが手招きされ、一礼して説明してくれた。

 昼間と夜ではドレスの格式が違うため、二着用意した方がいいこと。マルレーネ様に温室へ誘われたのは、私とレオンだから侍女を伴うべき。着替えの場所は王宮側で用意するため、レオンを馬車で戻すか決めておいた方がいいこと。

 ドレスや宝飾品は用意できるとして、着替えも侍女を伴えば問題ない。最悪は王宮の侍女の手も借りられるだろう。大掛かりな荷物が必要になるが、馬車を複数準備すれば大丈夫。

「レオンよね」

 きょとんとした顔で私とヘンリック様を眺めるレオンは、ぼく? と首を傾げた。さらりと黒髪が揺れる。私かヘンリック様が同行しない状態で、一人で帰すのは不安だ。かといって、侍女に責任を負わせるのも違う気がした。

 安全を考えるなら王宮で待たせる? いっそ、晩餐へ連れて……は無理よね。あれこれ考える私をよそに、ヘンリック様は平然と言い放った。

「構わない。一緒に晩餐に出席させよう」

「ですが……」

「詫びるのは陛下だ。文句など言わせない」

 家族なのだから一緒にいて当然、そんな口ぶりだった。驚いたのより、頼もしさで気持ちが楽になる。そうね、謝罪に呼ばれるんだもの。こちらは要求を突きつけて、はねられたら帰ればいいのよ。

「では晩餐のドレスは楽なものを選びます」

 レオンを膝に乗せたり抱っこしたりする可能性があるので、汚れの目立たない深い色で締め付けないことを優先する。心得た様子のリリーやマーサは、ドレスや宝飾品、化粧品のリストが浮かんでいるだろう。

「またお揃いの服をいくつか……作ろう」

 今後のために、と前置いたヘンリック様の要望に頷いた。そうですね、頼もしい使用人達と旦那様がいる。私の小さな騎士様も、腕の中にいた。陛下相手でも怯んだりしないわ。

 晩餐会ってコース料理よね。レオンは慣れていないから、練習も必要かしら。
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