114 / 274
114.降参した陛下からのお伺い
しおりを挟む
ヘンリック様の三回目の返信で、ようやく落ち着いたのか。国王陛下からの連絡は翌日のお昼前に届いた。朝食を楽しんで、レオンと絵本を読んだ後ね。フランク経由で受け取った手紙をじっくり読み、ヘンリック様は溜め息を吐いた。
「陛下が反省されたようだ。五日後の晩餐に招待された」
「晩餐……ですか」
先日、まとめて注文したドレスが届くのが三日後だから、なんとか間に合いそうだわ。王妃マルレーネ様のお茶会の服を作る際、一緒にお願いしていたのよ。フランク達の言葉の通り、常に数着は用意しておかないといけないわ。ドレスが当日に間に合わないなんて、公爵家の体面があるもの。
「当日、午後に王妃殿下がアマーリアを温室に誘いたいと」
陛下の手紙に追記されていた部分を読み聞かせ、同封されていた便箋を受け取る。マルレーネ様の署名が入った手紙は、お茶会ではなく温室で私的な集まりを……と記されていた。外部の人はいない、私達だけで過ごすのね。
「わかりました。ドレスは二着必要ですか?」
「いや……どうだろう」
否定しかけて、ヘンリック様は視線を上げた。部屋の壁になっていたフランクが手招きされ、一礼して説明してくれた。
昼間と夜ではドレスの格式が違うため、二着用意した方がいいこと。マルレーネ様に温室へ誘われたのは、私とレオンだから侍女を伴うべき。着替えの場所は王宮側で用意するため、レオンを馬車で戻すか決めておいた方がいいこと。
ドレスや宝飾品は用意できるとして、着替えも侍女を伴えば問題ない。最悪は王宮の侍女の手も借りられるだろう。大掛かりな荷物が必要になるが、馬車を複数準備すれば大丈夫。
「レオンよね」
きょとんとした顔で私とヘンリック様を眺めるレオンは、ぼく? と首を傾げた。さらりと黒髪が揺れる。私かヘンリック様が同行しない状態で、一人で帰すのは不安だ。かといって、侍女に責任を負わせるのも違う気がした。
安全を考えるなら王宮で待たせる? いっそ、晩餐へ連れて……は無理よね。あれこれ考える私をよそに、ヘンリック様は平然と言い放った。
「構わない。一緒に晩餐に出席させよう」
「ですが……」
「詫びるのは陛下だ。文句など言わせない」
家族なのだから一緒にいて当然、そんな口ぶりだった。驚いたのより、頼もしさで気持ちが楽になる。そうね、謝罪に呼ばれるんだもの。こちらは要求を突きつけて、はねられたら帰ればいいのよ。
「では晩餐のドレスは楽なものを選びます」
レオンを膝に乗せたり抱っこしたりする可能性があるので、汚れの目立たない深い色で締め付けないことを優先する。心得た様子のリリーやマーサは、ドレスや宝飾品、化粧品のリストが浮かんでいるだろう。
「またお揃いの服をいくつか……作ろう」
今後のために、と前置いたヘンリック様の要望に頷いた。そうですね、頼もしい使用人達と旦那様がいる。私の小さな騎士様も、腕の中にいた。陛下相手でも怯んだりしないわ。
晩餐会ってコース料理よね。レオンは慣れていないから、練習も必要かしら。
「陛下が反省されたようだ。五日後の晩餐に招待された」
「晩餐……ですか」
先日、まとめて注文したドレスが届くのが三日後だから、なんとか間に合いそうだわ。王妃マルレーネ様のお茶会の服を作る際、一緒にお願いしていたのよ。フランク達の言葉の通り、常に数着は用意しておかないといけないわ。ドレスが当日に間に合わないなんて、公爵家の体面があるもの。
「当日、午後に王妃殿下がアマーリアを温室に誘いたいと」
陛下の手紙に追記されていた部分を読み聞かせ、同封されていた便箋を受け取る。マルレーネ様の署名が入った手紙は、お茶会ではなく温室で私的な集まりを……と記されていた。外部の人はいない、私達だけで過ごすのね。
「わかりました。ドレスは二着必要ですか?」
「いや……どうだろう」
否定しかけて、ヘンリック様は視線を上げた。部屋の壁になっていたフランクが手招きされ、一礼して説明してくれた。
昼間と夜ではドレスの格式が違うため、二着用意した方がいいこと。マルレーネ様に温室へ誘われたのは、私とレオンだから侍女を伴うべき。着替えの場所は王宮側で用意するため、レオンを馬車で戻すか決めておいた方がいいこと。
ドレスや宝飾品は用意できるとして、着替えも侍女を伴えば問題ない。最悪は王宮の侍女の手も借りられるだろう。大掛かりな荷物が必要になるが、馬車を複数準備すれば大丈夫。
「レオンよね」
きょとんとした顔で私とヘンリック様を眺めるレオンは、ぼく? と首を傾げた。さらりと黒髪が揺れる。私かヘンリック様が同行しない状態で、一人で帰すのは不安だ。かといって、侍女に責任を負わせるのも違う気がした。
安全を考えるなら王宮で待たせる? いっそ、晩餐へ連れて……は無理よね。あれこれ考える私をよそに、ヘンリック様は平然と言い放った。
「構わない。一緒に晩餐に出席させよう」
「ですが……」
「詫びるのは陛下だ。文句など言わせない」
家族なのだから一緒にいて当然、そんな口ぶりだった。驚いたのより、頼もしさで気持ちが楽になる。そうね、謝罪に呼ばれるんだもの。こちらは要求を突きつけて、はねられたら帰ればいいのよ。
「では晩餐のドレスは楽なものを選びます」
レオンを膝に乗せたり抱っこしたりする可能性があるので、汚れの目立たない深い色で締め付けないことを優先する。心得た様子のリリーやマーサは、ドレスや宝飾品、化粧品のリストが浮かんでいるだろう。
「またお揃いの服をいくつか……作ろう」
今後のために、と前置いたヘンリック様の要望に頷いた。そうですね、頼もしい使用人達と旦那様がいる。私の小さな騎士様も、腕の中にいた。陛下相手でも怯んだりしないわ。
晩餐会ってコース料理よね。レオンは慣れていないから、練習も必要かしら。
1,667
お気に入りに追加
4,249
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです


美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。
久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。
※一話完結です。
ゆるゆる設定です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる