112 / 274
112.契約違反ではない、わよね?
しおりを挟む
午後も勉強するお父様やエルヴィンと別れる。双子は仲良く庭へ飛び出した。雨が降ったら帰ってくるでしょう。特に心配はしない。レオンはすぐに眠くなり、今日は早めにお昼寝の時間にした。
「目を擦ってはダメよ」
眠くなって、手で目元を擦るのは子供がよくやるけれど。気をつけないと傷になったり、汚れが入ったりする。掴んでやめさせ、ハンカチを当てた。欠伸をするレオンの靴を脱がせ、シャツを緩めて横たわらせた。ほぼ毎日なので、慣れている。
いつもなら隣で本を読んだり、屋敷の管理書類を確認したりする時間だ。
「アマーリア」
「はい、ヘンリック様」
「……その……」
何かご相談でもあるのかしら。首を傾げるが、この部屋から出てしまうのは困る。入り口で話すのもおかしいので、部屋の中に招いた。なぜかフランクとベルントが嬉しそう。夫婦なので問題ないと思い、扉も閉めた。室内にいる使用人は侍女マーサだけ。
「疲れて、ないか」
「平気ですわ」
「あ、その……」
ヘンリック様は困ると「あの」や「その」を多用する。レオンが「あのね」や「えっと」を使うのと似ているわ。ふふっと笑って先を促した。どうぞ、いいや、を二回繰り返す。
「昼寝を……しないか」
「……はい、どうぞ?」
なんだ、レオンとお昼寝がしたかったのね。にこにことベッドを勧める。一緒に歩いてきたヘンリック様が「失礼」と一声かけ、私を抱き上げた。驚いて声も出ない間に、ベッドに降ろされる。レオンを挟んだ反対側に回り込み、ヘンリック様がベッドに座った。
え? 三人で横になりたいの? でも母親役として契約結婚したのだから、これもお仕事なのよね。契約違反ではない、はず。だからおかしくないわ。ドキドキする自分に言い聞かせ、目を閉じた。部屋にはマーサもいるし、問題はないはずよ。
ヘンリック様の視線を感じながら、深呼吸して天使を数える。レオンが一人、レオンが二人……やだ、そんなの素敵だわ。考えが逸れたら、いつの間にか眠っていたらしい。
夕方のベッドで、三人が川の字で並んでいる。一番最後に起きてしまい、慌てて飛び起きた。心臓に悪いわ……そう思ったのも二日目まで。三日目には慣れて、四日目に王宮から使者が来た。
国王陛下が正式に謝罪なさる、と。手紙を読んだヘンリック様は、返信を認めた。
呼び出しの日時が早すぎるから、やり直しですって。陛下は一日でも早くヘンリック様に復帰してほしいのね。
「目を擦ってはダメよ」
眠くなって、手で目元を擦るのは子供がよくやるけれど。気をつけないと傷になったり、汚れが入ったりする。掴んでやめさせ、ハンカチを当てた。欠伸をするレオンの靴を脱がせ、シャツを緩めて横たわらせた。ほぼ毎日なので、慣れている。
いつもなら隣で本を読んだり、屋敷の管理書類を確認したりする時間だ。
「アマーリア」
「はい、ヘンリック様」
「……その……」
何かご相談でもあるのかしら。首を傾げるが、この部屋から出てしまうのは困る。入り口で話すのもおかしいので、部屋の中に招いた。なぜかフランクとベルントが嬉しそう。夫婦なので問題ないと思い、扉も閉めた。室内にいる使用人は侍女マーサだけ。
「疲れて、ないか」
「平気ですわ」
「あ、その……」
ヘンリック様は困ると「あの」や「その」を多用する。レオンが「あのね」や「えっと」を使うのと似ているわ。ふふっと笑って先を促した。どうぞ、いいや、を二回繰り返す。
「昼寝を……しないか」
「……はい、どうぞ?」
なんだ、レオンとお昼寝がしたかったのね。にこにことベッドを勧める。一緒に歩いてきたヘンリック様が「失礼」と一声かけ、私を抱き上げた。驚いて声も出ない間に、ベッドに降ろされる。レオンを挟んだ反対側に回り込み、ヘンリック様がベッドに座った。
え? 三人で横になりたいの? でも母親役として契約結婚したのだから、これもお仕事なのよね。契約違反ではない、はず。だからおかしくないわ。ドキドキする自分に言い聞かせ、目を閉じた。部屋にはマーサもいるし、問題はないはずよ。
ヘンリック様の視線を感じながら、深呼吸して天使を数える。レオンが一人、レオンが二人……やだ、そんなの素敵だわ。考えが逸れたら、いつの間にか眠っていたらしい。
夕方のベッドで、三人が川の字で並んでいる。一番最後に起きてしまい、慌てて飛び起きた。心臓に悪いわ……そう思ったのも二日目まで。三日目には慣れて、四日目に王宮から使者が来た。
国王陛下が正式に謝罪なさる、と。手紙を読んだヘンリック様は、返信を認めた。
呼び出しの日時が早すぎるから、やり直しですって。陛下は一日でも早くヘンリック様に復帰してほしいのね。
1,798
お気に入りに追加
4,243
あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる