112 / 131
112.契約違反ではない、わよね?
しおりを挟む
午後も勉強するお父様やエルヴィンと別れる。双子は仲良く庭へ飛び出した。雨が降ったら帰ってくるでしょう。特に心配はしない。レオンはすぐに眠くなり、今日は早めにお昼寝の時間にした。
「目を擦ってはダメよ」
眠くなって、手で目元を擦るのは子供がよくやるけれど。気をつけないと傷になったり、汚れが入ったりする。掴んでやめさせ、ハンカチを当てた。欠伸をするレオンの靴を脱がせ、シャツを緩めて横たわらせた。ほぼ毎日なので、慣れている。
いつもなら隣で本を読んだり、屋敷の管理書類を確認したりする時間だ。
「アマーリア」
「はい、ヘンリック様」
「……その……」
何かご相談でもあるのかしら。首を傾げるが、この部屋から出てしまうのは困る。入り口で話すのもおかしいので、部屋の中に招いた。なぜかフランクとベルントが嬉しそう。夫婦なので問題ないと思い、扉も閉めた。室内にいる使用人は侍女マーサだけ。
「疲れて、ないか」
「平気ですわ」
「あ、その……」
ヘンリック様は困ると「あの」や「その」を多用する。レオンが「あのね」や「えっと」を使うのと似ているわ。ふふっと笑って先を促した。どうぞ、いいや、を二回繰り返す。
「昼寝を……しないか」
「……はい、どうぞ?」
なんだ、レオンとお昼寝がしたかったのね。にこにことベッドを勧める。一緒に歩いてきたヘンリック様が「失礼」と一声かけ、私を抱き上げた。驚いて声も出ない間に、ベッドに降ろされる。レオンを挟んだ反対側に回り込み、ヘンリック様がベッドに座った。
え? 三人で横になりたいの? でも母親役として契約結婚したのだから、これもお仕事なのよね。契約違反ではない、はず。だからおかしくないわ。ドキドキする自分に言い聞かせ、目を閉じた。部屋にはマーサもいるし、問題はないはずよ。
ヘンリック様の視線を感じながら、深呼吸して天使を数える。レオンが一人、レオンが二人……やだ、そんなの素敵だわ。考えが逸れたら、いつの間にか眠っていたらしい。
夕方のベッドで、三人が川の字で並んでいる。一番最後に起きてしまい、慌てて飛び起きた。心臓に悪いわ……そう思ったのも二日目まで。三日目には慣れて、四日目に王宮から使者が来た。
国王陛下が正式に謝罪なさる、と。手紙を読んだヘンリック様は、返信を認めた。
呼び出しの日時が早すぎるから、やり直しですって。陛下は一日でも早くヘンリック様に復帰してほしいのね。
「目を擦ってはダメよ」
眠くなって、手で目元を擦るのは子供がよくやるけれど。気をつけないと傷になったり、汚れが入ったりする。掴んでやめさせ、ハンカチを当てた。欠伸をするレオンの靴を脱がせ、シャツを緩めて横たわらせた。ほぼ毎日なので、慣れている。
いつもなら隣で本を読んだり、屋敷の管理書類を確認したりする時間だ。
「アマーリア」
「はい、ヘンリック様」
「……その……」
何かご相談でもあるのかしら。首を傾げるが、この部屋から出てしまうのは困る。入り口で話すのもおかしいので、部屋の中に招いた。なぜかフランクとベルントが嬉しそう。夫婦なので問題ないと思い、扉も閉めた。室内にいる使用人は侍女マーサだけ。
「疲れて、ないか」
「平気ですわ」
「あ、その……」
ヘンリック様は困ると「あの」や「その」を多用する。レオンが「あのね」や「えっと」を使うのと似ているわ。ふふっと笑って先を促した。どうぞ、いいや、を二回繰り返す。
「昼寝を……しないか」
「……はい、どうぞ?」
なんだ、レオンとお昼寝がしたかったのね。にこにことベッドを勧める。一緒に歩いてきたヘンリック様が「失礼」と一声かけ、私を抱き上げた。驚いて声も出ない間に、ベッドに降ろされる。レオンを挟んだ反対側に回り込み、ヘンリック様がベッドに座った。
え? 三人で横になりたいの? でも母親役として契約結婚したのだから、これもお仕事なのよね。契約違反ではない、はず。だからおかしくないわ。ドキドキする自分に言い聞かせ、目を閉じた。部屋にはマーサもいるし、問題はないはずよ。
ヘンリック様の視線を感じながら、深呼吸して天使を数える。レオンが一人、レオンが二人……やだ、そんなの素敵だわ。考えが逸れたら、いつの間にか眠っていたらしい。
夕方のベッドで、三人が川の字で並んでいる。一番最後に起きてしまい、慌てて飛び起きた。心臓に悪いわ……そう思ったのも二日目まで。三日目には慣れて、四日目に王宮から使者が来た。
国王陛下が正式に謝罪なさる、と。手紙を読んだヘンリック様は、返信を認めた。
呼び出しの日時が早すぎるから、やり直しですって。陛下は一日でも早くヘンリック様に復帰してほしいのね。
1,426
お気に入りに追加
3,753
あなたにおすすめの小説
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。
【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。
はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。
周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。
婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。
ただ、美しいのはその見た目だけ。
心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。
本来の私の姿で……
前編、中編、後編の短編です。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
共に伯爵家の令嬢と令息であるアミカとミッチェルは幸せな結婚式を挙げた。ところがその夜ミッチェルの体調が悪くなり、二人は別々の寝室で休むことに。
その翌日、アミカは偶然街でミッチェルと自分の友人であるポーラの不貞の事実を知ってしまう。激しく落胆するアミカだったが、侯爵令息のマキシミリアーノの助けを借りながら二人の不貞の証拠を押さえ、こちらの有責にされないように離婚にこぎつけようとする。
ところが、これは白い結婚だと不貞の相手であるポーラに言っていたはずなのに、日が経つごとにミッチェルの様子が徐々におかしくなってきて───
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる