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107.褒める時は名前を呼んでね
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離れのお父様達が出迎えてくれた。一緒に食堂へ向かい、美味しく食事をいただく。この頃、双子のテーブルマナーが良くなってきたわ。お父様が教えたのかと思ったら、なんとイルゼの指示で侍女が派遣されていたの。
「そんなことになっていたのね」
「勝手をして申し訳ございません」
「いいえ、助かったわ。ありがとう、イルゼ」
公爵のヘンリック様と同席する、双子のマナーが気になったのね。厳しく躾けなくてもいいけれど、不快感が減るようにと配慮してくれたみたい。お世辞ではなく、とても助かるわ。今後教えるべきことだもの。
派遣されたのはリリー達と同格のメイドで、元子爵家の三女だという。後で紹介してもらう約束をした。あの双子を手懐けた手腕といい、乳母もできそうよ。優秀な人材は把握しておくに限る。
「確かに、カトラリーの扱いが上手になっている」
「旦那様、褒める時は名前を呼ぶ方が効果的ですわ。誰が誰を褒めたのか、はっきりした方が嬉しさが増しますでしょう?」
「なるほど。気を付けよう。感謝する、アマーリア」
部下に対しても使えると思います。叱る時は名指ししなくてもいいですし、人目がないところで注意する方がいいでしょう。でも褒める時は人前で、その人の名前を呼ぶ。ヘンリック様の好感度アップに貢献しますよ。
雑談をしながら、美味しかった魚を食べきる。白身魚なのだけれど、オレンジのフルーツソースが掛かっていたわ。とても美味しいし、柔らかくて食べやすいの。レオンも喜んで食べていた。普段の倍は食べたかしら。
「ぼく、このおしゃかにゃ……お、さ、かにゃ……? お、さ、か、な! すき」
一言ずつ区切って発音したら言えた! 興奮して報告するレオンが可愛くて、ぎゅっと抱きしめる。こんなに可愛くて、どうしましょう。お魚は、子供に発音しづらいのよ。レオンは特にそうね。
「偉いわ、レオン。今のは完璧だったの。お母様も嬉しくなるわ」
「ほんと?」
「ええ、レオンに嘘なんてつかないから安心してね」
頬を擦り寄せると、レオンは手にしていたパンをお皿に置いた。胸元に掛けているナプキンを引っ張り、丁寧に手を拭く。待っていると、笑顔で抱きついた。
「ありがとう、レオン」
「うん」
手が汚れているから、拭いて抱きついた。簡単なことだけれど、こんな幼い子が気を遣うなんて。優しい子だわ。ちゅっと頬にキスをしたら、双子が「お姉様がよくしてくれたっけ」と笑った。
目を丸くしたヘンリック様は、じっと凝視している。固まっている感じで、私が首を傾げても動かなかった。
「ヘンリック様?」
「あ、いや……なんでも、ない」
何か気になるのかしら。ときどき、王宮へ仕事に行く話をして、その夜は別れた。お父様やエルヴィンは驚いて絶句し、双子は興奮して大喜び。レオンは釣られて、一緒に絨毯の部屋を走り回っていたわ。
お風呂上がりのレオンに絵本を読み聞かせ、眠ってしまった幼子の頬を撫でる。黒髪に縁取られた白い肌は、少し日焼けしていた。
「大好きよ、レオン」
額にキスをして、隣に横たわった。ヘンリック様におやすみなさいの挨拶を言い忘れたことに思い至り、身を起こしかける。……契約妻が夜の寝室へ行くと勘違いされそうだわ。明日、朝の挨拶をきちんとすればいいわよね。力を抜いて、柔らかなベッドに身を沈めた。
「そんなことになっていたのね」
「勝手をして申し訳ございません」
「いいえ、助かったわ。ありがとう、イルゼ」
公爵のヘンリック様と同席する、双子のマナーが気になったのね。厳しく躾けなくてもいいけれど、不快感が減るようにと配慮してくれたみたい。お世辞ではなく、とても助かるわ。今後教えるべきことだもの。
派遣されたのはリリー達と同格のメイドで、元子爵家の三女だという。後で紹介してもらう約束をした。あの双子を手懐けた手腕といい、乳母もできそうよ。優秀な人材は把握しておくに限る。
「確かに、カトラリーの扱いが上手になっている」
「旦那様、褒める時は名前を呼ぶ方が効果的ですわ。誰が誰を褒めたのか、はっきりした方が嬉しさが増しますでしょう?」
「なるほど。気を付けよう。感謝する、アマーリア」
部下に対しても使えると思います。叱る時は名指ししなくてもいいですし、人目がないところで注意する方がいいでしょう。でも褒める時は人前で、その人の名前を呼ぶ。ヘンリック様の好感度アップに貢献しますよ。
雑談をしながら、美味しかった魚を食べきる。白身魚なのだけれど、オレンジのフルーツソースが掛かっていたわ。とても美味しいし、柔らかくて食べやすいの。レオンも喜んで食べていた。普段の倍は食べたかしら。
「ぼく、このおしゃかにゃ……お、さ、かにゃ……? お、さ、か、な! すき」
一言ずつ区切って発音したら言えた! 興奮して報告するレオンが可愛くて、ぎゅっと抱きしめる。こんなに可愛くて、どうしましょう。お魚は、子供に発音しづらいのよ。レオンは特にそうね。
「偉いわ、レオン。今のは完璧だったの。お母様も嬉しくなるわ」
「ほんと?」
「ええ、レオンに嘘なんてつかないから安心してね」
頬を擦り寄せると、レオンは手にしていたパンをお皿に置いた。胸元に掛けているナプキンを引っ張り、丁寧に手を拭く。待っていると、笑顔で抱きついた。
「ありがとう、レオン」
「うん」
手が汚れているから、拭いて抱きついた。簡単なことだけれど、こんな幼い子が気を遣うなんて。優しい子だわ。ちゅっと頬にキスをしたら、双子が「お姉様がよくしてくれたっけ」と笑った。
目を丸くしたヘンリック様は、じっと凝視している。固まっている感じで、私が首を傾げても動かなかった。
「ヘンリック様?」
「あ、いや……なんでも、ない」
何か気になるのかしら。ときどき、王宮へ仕事に行く話をして、その夜は別れた。お父様やエルヴィンは驚いて絶句し、双子は興奮して大喜び。レオンは釣られて、一緒に絨毯の部屋を走り回っていたわ。
お風呂上がりのレオンに絵本を読み聞かせ、眠ってしまった幼子の頬を撫でる。黒髪に縁取られた白い肌は、少し日焼けしていた。
「大好きよ、レオン」
額にキスをして、隣に横たわった。ヘンリック様におやすみなさいの挨拶を言い忘れたことに思い至り、身を起こしかける。……契約妻が夜の寝室へ行くと勘違いされそうだわ。明日、朝の挨拶をきちんとすればいいわよね。力を抜いて、柔らかなベッドに身を沈めた。
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