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104.素敵な友人と温室で

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「ヘンリック様?」

「……アマーリアが嫌でなければ、お受けしたらどうだろう」

 ヘンリック様は後押しする。ならば、政治的な意図や問題はないのね。先ほどの驚いた顔の理由は、あとで尋ねることにした。さすがに人前で聞く内容でもないし。

「よろしくお願いいたします、マルレーネ様」

「ああ、よかったわ。ありがとう、アマーリア夫人」

 心から安心した表情で、ほわりと微笑む。マルレーネ様は美しい方だわ。お顔やスタイルだけじゃなくて、内面も美しく優しいのでしょう。王妃殿下として、貴族然とした部分もお持ちだけれど。それは私も同じなので気にならなかった。

 貴族の夫人や令嬢は、素の顔を家族にも見せない人が多いから。複数の仮面を常備するのが、貴族の嗜みよ。同時に貴族のごうでもあると思う。

「友人を突然呼びつけた無礼、本当にごめんなさいね」

 王族は謝ってはいけないのではなくて? 驚いた私に、ヘンリック様は小さく頷く。

「王族は謝ってはならない。このルールも側近や乳兄弟、友人には適用されないんだ」

「そう、なのですか。マルレーネ様の呼び出しではございませんし、怒っておりません」

 マルレーネ様ではなく、呼び出したのは陛下ですものね。にっこり笑って主犯を示す。私の口調から察したのか、マルレーネ様は苦笑いした。そこで庇う気はないみたい。

「では、俺は仕事に行くので失礼します。アマーリア、レオンを頼む」

「はい、いってらっしゃいませ。ヘンリック様」

 軽い会釈で送り出した。じっと見つめるマルレーネ様は、私が腰掛けるのを待って話しかける。

「毎日、ああしてお見送りするの?」

「そうですね。結婚当初はしませんでしたが、今は日常です」

 嘘はつかない。そんな友人関係は必ず拗れてしまうから。言えない話なら我慢してもらい、事実は柔らかく伝えればいいわ。

 温室は居心地の良い空間で、公爵家にはないので羨ましくなる。ここなら雨の日もお散歩ができるし、一年中花を咲かせられるわ。場所はあるのだし、ヘンリック様に相談してみようかしら。

 走り回る幼子を、乳母と侍女がサポートする。転ばないよう手を出した侍女を見て、「あっ」と声が漏れた。マルレーネ様は何も感じなかったのか、不思議そうにしている。

「失礼します」

 立ち上がって近づき、スカートへ飛びつくレオンを受け止める。それから侍女にお願いの形で指示を出した。

「レオンが転びそうになっても、手を貸さないでほしいの。転んでも構いません。抱き起こすのはお願いしますね」

「はい」

 公爵夫人からの指示として、侍女は了承を返した。王宮の使用人はしっかりしているわ。転ぶ前に手を出してしまう。だから必要な指示だった。戻った私に、マルレーネ様は理由を尋ねる。

「どうして手助けはダメなの?」

「自分でバランスよく歩く機会を奪うからですわ。転んで泣いても、転んだ記憶と痛みは無駄になりません。私はそう考えております」

 言外に「王女殿下は別です」と匂わせた。これはケンプフェルト公爵家のやり方ではなく、弟妹を育て前世で他人の子を預かった私の育児方法だ。王族が同じ行為をする必要も理由もない。

 転んで痛い思いをすれば、転ばないよう工夫する。この頃の失敗はたくさんした方がいい。私はそう考えていた。顔から転ぶ場合は別だけれど……レオンはちゃんと手をつけるから。成長のチャンスを奪うのは、レオンが可哀想だわ。

「アマーリア夫人と、もっと親しく話したいわ」

 えっと、それは何かの比喩表現でしょうか。
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