【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
103 / 274

103.王妃殿下の事情とお願い

しおりを挟む
 お迎えは驚くほど豪華だった。到着したアプローチに、王妃殿下がお待ちだ。隣で乳母らしき女性が、王女殿下を抱いていた。さらに第二王子殿下も同行されており、なぜか侍従や侍女が並んでいる後ろに文官らしき制服も見えた。

 ヘンリック様が先に降り、続いて手を差し伸べられて私が続く。レオンが両手を伸ばして「だっこ」と強請るので、ヘンリック様が抱き上げた。王妃殿下は申し訳なさそうに会釈する。どうやら何も知らなかったみたいね。

 マルレーネ様へご挨拶し、ヘンリック様同伴で温室へ向かった。王女殿下はこの頃、草木や土に興味があるとのこと。手を繋いだ幼子が二人、走っていく姿は愛らしい。頭が大きいので、不安定な走り方も好きよ。ぽてぽてと擬音を付けたくなる。

「こちらへどうぞ」

 勧められた椅子に腰掛けると、ふわっとしたクッションに支えられた。応接室のソファーに似ているが、草の蔓で編み込まれているようだ。子供に与えたら、毟られちゃいそうね。ふっとそんな思いが過った。猫が爪研ぎした跡のように、指先で毟る子って多いのよ。

「お招きいただき……」

「待って。まずはお詫びをさせて頂戴」

 決まり文句を口にしようとした私の表情は、無だった。嬉しさも怒りも出していない。すまし顔と呼べなくもないけれど、ヘンリック様は驚いた顔をしていた。隣に座ってらっしゃるけれど、お仕事に行かなくていいのかしら。

「今回の件は、私も今朝知ったのです。王子と違い、王女を溺愛しているのは知っていましたが……度が過ぎます。きっちりと言い聞かせましたので、今後も仲良くしてくださると嬉しいわ」

 ごめんなさい、申し訳ありません。こういった謝罪を、王族は軽々しく口にできない。もちろん子供同士は構わないが、公の立場で私に謝罪するのは難しいのね。限りなく謝罪に近い心遣いをもらい、私は固まっていた表情を緩めた。

「マルレーネ様、まずは事情をお聞かせください」

 王妃殿下と呼びかける関係に戻りかねない暴挙、それを行ったのが国王陛下であることが問題だった。誰も諌められず、暴走する可能性があるわ。王妃殿下がきちんと忠言できるなら、私も一安心です。

 一般的には迷惑をかけられたこちらの事情を捲し立てる場面だけれど、私はマルレーネ様に促した。だって私が怒ったら、言い訳も口に出せなくなるもの。

「陛下は悪い人ではないのだけれど少し、いいえ、かなり自分が可愛い人よ。王子二人に続いて生まれた王女が可愛くて、あの子に懐いて甘えてほしくて、なんでも叶えようとするわ。それが誰かの迷惑になるとしても」

 マルレーネ様は困ったように手で口元を押さえた。これ以上余計な発言をしないよう戒めたのか、うっかり本音が出たことを後悔しているか。どちらでもいいわ。

「アマーリア夫人はとても話しやすくて……つい。不躾なお願いになるけれど、私とお友達になっていただけないかしら」

「……お友達、ですか?」

 どういう意味だろう。伯爵家では王族との付き合いも薄く、意味を捉えかねた。迷ってヘンリック様を見上げる。彼は驚いた顔をしていた。
しおりを挟む
感想 636

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

処理中です...