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103.王妃殿下の事情とお願い

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 お迎えは驚くほど豪華だった。到着したアプローチに、王妃殿下がお待ちだ。隣で乳母らしき女性が、王女殿下を抱いていた。さらに第二王子殿下も同行されており、なぜか侍従や侍女が並んでいる後ろに文官らしき制服も見えた。

 ヘンリック様が先に降り、続いて手を差し伸べられて私が続く。レオンが両手を伸ばして「だっこ」と強請るので、ヘンリック様が抱き上げた。王妃殿下は申し訳なさそうに会釈する。どうやら何も知らなかったみたいね。

 マルレーネ様へご挨拶し、ヘンリック様同伴で温室へ向かった。王女殿下はこの頃、草木や土に興味があるとのこと。手を繋いだ幼子が二人、走っていく姿は愛らしい。頭が大きいので、不安定な走り方も好きよ。ぽてぽてと擬音を付けたくなる。

「こちらへどうぞ」

 勧められた椅子に腰掛けると、ふわっとしたクッションに支えられた。応接室のソファーに似ているが、草の蔓で編み込まれているようだ。子供に与えたら、毟られちゃいそうね。ふっとそんな思いが過った。猫が爪研ぎした跡のように、指先で毟る子って多いのよ。

「お招きいただき……」

「待って。まずはお詫びをさせて頂戴」

 決まり文句を口にしようとした私の表情は、無だった。嬉しさも怒りも出していない。すまし顔と呼べなくもないけれど、ヘンリック様は驚いた顔をしていた。隣に座ってらっしゃるけれど、お仕事に行かなくていいのかしら。

「今回の件は、私も今朝知ったのです。王子と違い、王女を溺愛しているのは知っていましたが……度が過ぎます。きっちりと言い聞かせましたので、今後も仲良くしてくださると嬉しいわ」

 ごめんなさい、申し訳ありません。こういった謝罪を、王族は軽々しく口にできない。もちろん子供同士は構わないが、公の立場で私に謝罪するのは難しいのね。限りなく謝罪に近い心遣いをもらい、私は固まっていた表情を緩めた。

「マルレーネ様、まずは事情をお聞かせください」

 王妃殿下と呼びかける関係に戻りかねない暴挙、それを行ったのが国王陛下であることが問題だった。誰も諌められず、暴走する可能性があるわ。王妃殿下がきちんと忠言できるなら、私も一安心です。

 一般的には迷惑をかけられたこちらの事情を捲し立てる場面だけれど、私はマルレーネ様に促した。だって私が怒ったら、言い訳も口に出せなくなるもの。

「陛下は悪い人ではないのだけれど少し、いいえ、かなり自分が可愛い人よ。王子二人に続いて生まれた王女が可愛くて、あの子に懐いて甘えてほしくて、なんでも叶えようとするわ。それが誰かの迷惑になるとしても」

 マルレーネ様は困ったように手で口元を押さえた。これ以上余計な発言をしないよう戒めたのか、うっかり本音が出たことを後悔しているか。どちらでもいいわ。

「アマーリア夫人はとても話しやすくて……つい。不躾なお願いになるけれど、私とお友達になっていただけないかしら」

「……お友達、ですか?」

 どういう意味だろう。伯爵家では王族との付き合いも薄く、意味を捉えかねた。迷ってヘンリック様を見上げる。彼は驚いた顔をしていた。
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