【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
101 / 274

101.君はそれでいいのか?

しおりを挟む
 厳しすぎないかと、ヘンリック様は階段を見上げる。螺旋を描く階段は美しく、その手すりや支える柱も彫刻が施されていた。帰宅したばかりのヘンリック様を連れ、階段の手すりを指さす。

「この傷はユリアンのチャンバラごっこが原因です」

「ちゃんばら、ごっこ?」

 しまった、通じないわね。

「騎士の真似事ですわ」

 すまし顔で訂正した。なるほどとヘンリック様が頷く。それから二階の客間の絨毯のシミを示した。

「こちらはユリアーナですわ」

「そうか」

「ここのシミはユリアン、それから……」

「まだあるのか」

「はい」

 修繕費は私の予算から出していただくとしても、元はヘンリック様が働いたお金です。僅か二日間で起きた惨事を、淡々と説明した。これって事前に説明しても、納得してくれないと思うの。

 レオンが幼くて、ここまで家を傷つけたり汚したりしないから、余計に理解しづらいわ。幼い子なら侍従や侍女がついて、手取り足取り面倒をみる。乳母がいれば尚更だった。その感覚では、八歳の子がいかに怪獣なのか、説明してもわからないでしょう。

 ヘンリック様が出した許可を、勝手に取り下げるのは失礼だ。妻としての権限も逸脱する。だから一度は受け入れた。その上で、ヘンリック様に納得してもらって許可の撤回が望ましいの。フランクに相談したら、夫の顔を潰さずに済むので問題ないと同意された。

「明日から離れに戻します。女主人である私との約束を守れなかったのですから、仕方ありません」

「屋敷のことは任せる……が、いいのか?」

 家族と暮らしたいんじゃないか? 随分と省略されていたが、言いたいことは伝わる。気遣ってくださったことにお礼を伝え、その上でダメなものはダメと重ねた。

「物を壊したことももちろんですが、約束を守れない方が問題です。罰は絶対に必要ですわ。それと、永遠に一緒に暮らさないと決めたわけではございませんから」

 いずれ、あの二人も落ち着く日が来る。ユリアーナは淑女らしく、ユリアンも騎士か文官を目指すだろう。その頃には言動が穏やかになるはず。ヘンリック様は驚いたように目を瞬かせ、何度も頷いた。

 王宮に仕える文官や武官に、こんな乱暴者は少ないでしょう。自分の職場環境や他の貴族家の状況を知っていれば、想像しやすいはずよ。ヘンリック様は賢いのだけれど、物事を知らないのよね。世間知らずのお坊ちゃんの表現が似合った。

「君の……アマーリアのいいようにしてくれ」

「はい、ヘンリック様」

 階段を降りようとしたら、当然のように手を差し伸べられた。手すりを掴もうとした手を引っ込め、代わりにヘンリック様のエスコートを受ける。ゆっくりと降りる私に合わせ、ヘンリック様も一歩ずつ足をそろえて歩いた。まるで、結婚式の再現みたいだわ。

 ふっと笑った私に、ヘンリック様はこてりと首を傾ける。その仕草がレオンそっくりで、口元の笑みはさらに深くなった。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

処理中です...