上 下
98 / 206

98.贅沢な休日の過ごし方

しおりを挟む
 普段は落ち着いて、すまし顔で仕事をこなす家令フランクも、今日ばかりは忙しそうだ。ベルント同伴の旦那様を見送り、すぐさま踵を返した。

 このところ、ヘンリック様は定時で仕事を終えて戻られる。夕食の少し前よ。のんびり作業していたら、帰宅時間までに引っ越しが終わらないの。レオンも私も荷物が少なかったので、半日もあれば終わった。ずっと住んでいたヘンリック様の荷物は多いし、使う予定の部屋も掃除したり整えたり。

 皆の邪魔にならないよう、絨毯の部屋で積み木遊びに付き合う。昨晩読んだ絵本をもう一度と強請られ、膝に乗せたレオンに読み聞かせた。悪い魔女が猫を拾って、いい魔女になるお話よ。街の人との交流などが描かれて、華やかな絵本だった。

 二人きりなのが珍しいのか、レオンはしきりに部屋を見回す。

「ふたり?」

「そうよ、今日は二人なの。上手に発音できているわ」

 嬉しそうなレオンは、また積み木を横に並べ始めた。今日は何ができるのかしらね。作ったら、これは何? と説明を求めるの。絵も同じで、何をどう描いたのか尋ねた。説明する過程で言葉を覚えるし、人に何かを伝える能力が発達するわ。

 ご機嫌で作った長細いものは、レオンによると屋敷の壁だそうよ。壁だけを作ったの。子供に見える世界は、大人の思う世界と違うから楽しいわ。よくできたと褒めたところで、リリーが昼食を運んできた。

 今日はこの部屋に閉じ籠ると伝えたので、パンに肉や野菜を挟んでいる。レオンと窓際に移動し、並んで食べた。もちろん、椅子じゃなくて床で。レオンはこれが特別な秘密だと思っているみたい。ピクニックと同じ、小さな冒険ね。

 食べたら手を拭いて、今度は絵を描いてもらった。鮮やかな色が多く使われ、とてもカラフルだ。指さして説明するレオンに頷き、午後を過ごした。眠くなったのか、クレヨンを持ったまま顔を擦ってしまい……笑いながら拭ってあげる。

「お行儀悪いけれど、内緒よ。二人の秘密なの」

 二人の秘密がいっぱいと喜ぶレオンと一緒に、柔らかな絨毯の上に寝転んだ。誰かが入ってくる時は、ノックされるから安心ね。忙しいから双子が飛び込んでくる心配もいらない。今頃、何を本邸に持ってくるか悩んでいる頃よ。

 すぐ取りに帰れる距離だけれど、荷造りはいい経験になるわ。バッグに入る量は決まっていて、溢れないよう必要なものを選んだり諦めたりする。お父様やエルヴィンはすぐに終わって、双子は夕方まで悩むでしょうね。

 何もしない一日は罪悪感もあるが、こんな日も悪くないわ。すごく贅沢な過ごし方をした。可愛いレオンと遊んで、二人でたくさん秘密を作り、一緒にお昼寝。最高の休日ね。

「奥様、よろしいでしょうか」

 ノックの音で、うっかり寝てしまっていた自分に気づく。レオンを抱いて横になった後、寝ていたらしい。飛び起きて髪を手で整え、許可を出した。入ってきたのはフランクで、ヘンリック様の引っ越しが終わったと。

「もうすぐ旦那様がお帰りになりますので」

「ええ、レオンを起こして出迎えの支度をしましょう」

 よく寝ているけれど、お昼寝はここで終わり。起きて、私の可愛い天使。
しおりを挟む
感想 511

あなたにおすすめの小説

【短編】お姉さまは愚弟を赦さない

宇水涼麻
恋愛
この国の第1王子であるザリアートが学園のダンスパーティーの席で、婚約者であるエレノアを声高に呼びつけた。 そして、テンプレのように婚約破棄を言い渡した。 すぐに了承し会場を出ようとするエレノアをザリアートが引き止める。 そこへ颯爽と3人の淑女が現れた。美しく気高く凛々しい彼女たちは何者なのか? 短編にしては長めになってしまいました。 西洋ヨーロッパ風学園ラブストーリーです。

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。

雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」 妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。 今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。 私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。 「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」 シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。 妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。 でも、それなら側妃でいいのではありませんか? どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

邪魔者は消えようと思たのですが……どういう訳か離してくれません

りまり
恋愛
 私には婚約者がいるのですが、彼は私が嫌いのようでやたらと他の令嬢と一緒にいるところを目撃しています。  そんな時、あまりの婚約者殿の態度に両家の両親がそんなに嫌なら婚約解消しようと話が持ち上がってきた時、あれだけ私を無視していたのが嘘のような態度ですり寄ってくるんです。  本当に何を考えているのやら?

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

処理中です...