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93.変なマナーがあるのね
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マルレーネ様は夜会で紹介されるのがいいと仰った。その話を帰りの馬車ですると、ヘンリック様は満足げに頷いた。
「そうだ、我が国独自のマナーで、愛する妻の披露は夜会が相応しいとされる」
これは男性側が覚えるマナーのようで、私はまったく知らなかった。お父様に聞けば、教えてもらえたかもしれない。ただ、お金のための結婚だったので、黙っていたのだろう。頷いた私に、理由も教えてくれた。
夜会は正式な夫婦でなければ参加できないが、お茶会は愛人も連れていくことができる。そのため、夜会で紹介されるパートナーは妻か家族の女性に限られた。さらに夜会では正装する。綺麗に着飾った、一番美しい状態でお披露目するのは、愛情深い証拠となるらしい。
マナーとして全員が同じことをしたら、愛情深いか伝わらないと思うけれど。実際、政略結婚の夫婦が夜会ではなく、お茶会でお披露目することもあるのだとか。私のように社交自体を控えるパターンは少なく、王室主催の大きな夜会まで隠していると勘違いされていた。
正確には、今日の王妃様の振る舞いで公爵家に勘違いさせたらしい。そんな意味があったなんて。
膝の上のレオンは、眠りの中にいる。王女殿下と遊んで疲れたのね。楽しかったと手を振って別れたから、また会いたいとも。お友達ができて安心したわ。大人に対する人見知りもかなり軽減された。
「レオンは重くないか?」
「平気ですわ、ヘンリック様も本日はお疲れ様でした」
「仕事より楽しかった」
「それはよかったです」
レオンとの時間が楽しかったなら、それは私も嬉しい。笑顔で告げると、ヘンリック様の頬が赤くなった。最近よく赤くなるけれど、体調が悪いのかしら。でも元気そうだったし……。
屋敷が見えて、玄関前に出迎えの人影が現れる。フランクとベルント、あれはイルゼかしら? お父様達もいらっしゃるのね。手の空いた使用人が揃って出迎えるため、徐々に人が増えた。その中に降り立ち、レオンを抱え直した。
寝ている子供って、ぐにゃりと柔らかくて落ちそうなの。ヘンリック様が横から腕を伸ばし、レオンを受け取る。縦に抱っこすると、レオンはむにゃむにゃ何か言いながら首に手を回した。何の夢を見ているのかしら。
頬を突きたくなるのを我慢して、絨毯の部屋に移動した。元は寛ぎの間だったが、私の改造ですっかり遊び場になっている。壁際に並ぶ扉付き収納の内側は、びっしりと玩具が入っていた。
外からお茶の道具を持ち込むリリーが、手早く準備を始める。お父様が素朴な焼き菓子を並べた。
「懐かしい! お母様が作ってくださったお菓子?」
「ああ、そうだ。久しぶりに食べたくなって作ったんだが、リア……公爵夫人より上手にできなくてな」
「お父様、リアと呼んでください」
「……だが」
「構わないので、妻の願う通りに」
ヘンリック様の許可を得て、お父様はようやくリアと呼んでくれた。親が子に謙るのは、居心地悪くて困っちゃうのよ。
「そうだ、我が国独自のマナーで、愛する妻の披露は夜会が相応しいとされる」
これは男性側が覚えるマナーのようで、私はまったく知らなかった。お父様に聞けば、教えてもらえたかもしれない。ただ、お金のための結婚だったので、黙っていたのだろう。頷いた私に、理由も教えてくれた。
夜会は正式な夫婦でなければ参加できないが、お茶会は愛人も連れていくことができる。そのため、夜会で紹介されるパートナーは妻か家族の女性に限られた。さらに夜会では正装する。綺麗に着飾った、一番美しい状態でお披露目するのは、愛情深い証拠となるらしい。
マナーとして全員が同じことをしたら、愛情深いか伝わらないと思うけれど。実際、政略結婚の夫婦が夜会ではなく、お茶会でお披露目することもあるのだとか。私のように社交自体を控えるパターンは少なく、王室主催の大きな夜会まで隠していると勘違いされていた。
正確には、今日の王妃様の振る舞いで公爵家に勘違いさせたらしい。そんな意味があったなんて。
膝の上のレオンは、眠りの中にいる。王女殿下と遊んで疲れたのね。楽しかったと手を振って別れたから、また会いたいとも。お友達ができて安心したわ。大人に対する人見知りもかなり軽減された。
「レオンは重くないか?」
「平気ですわ、ヘンリック様も本日はお疲れ様でした」
「仕事より楽しかった」
「それはよかったです」
レオンとの時間が楽しかったなら、それは私も嬉しい。笑顔で告げると、ヘンリック様の頬が赤くなった。最近よく赤くなるけれど、体調が悪いのかしら。でも元気そうだったし……。
屋敷が見えて、玄関前に出迎えの人影が現れる。フランクとベルント、あれはイルゼかしら? お父様達もいらっしゃるのね。手の空いた使用人が揃って出迎えるため、徐々に人が増えた。その中に降り立ち、レオンを抱え直した。
寝ている子供って、ぐにゃりと柔らかくて落ちそうなの。ヘンリック様が横から腕を伸ばし、レオンを受け取る。縦に抱っこすると、レオンはむにゃむにゃ何か言いながら首に手を回した。何の夢を見ているのかしら。
頬を突きたくなるのを我慢して、絨毯の部屋に移動した。元は寛ぎの間だったが、私の改造ですっかり遊び場になっている。壁際に並ぶ扉付き収納の内側は、びっしりと玩具が入っていた。
外からお茶の道具を持ち込むリリーが、手早く準備を始める。お父様が素朴な焼き菓子を並べた。
「懐かしい! お母様が作ってくださったお菓子?」
「ああ、そうだ。久しぶりに食べたくなって作ったんだが、リア……公爵夫人より上手にできなくてな」
「お父様、リアと呼んでください」
「……だが」
「構わないので、妻の願う通りに」
ヘンリック様の許可を得て、お父様はようやくリアと呼んでくれた。親が子に謙るのは、居心地悪くて困っちゃうのよ。
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