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92.赤ちゃんでもいいの
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参加したのは公爵家が三つ、ケンプフェルト家、バルシュミューデ家、リースフェルト家だ。第二王子殿下は、同年齢の令息がいるバルシュミューデ公爵の席に着いた。だが、すぐにリースフェルト公爵のテーブルへ移ったらしい。
リースフェルト公爵家には八歳になる令嬢がいる。くるんとカールした髪が愛らしい金茶の髪の彼女が、お気に召したようだ。お澄ましして隣に座る第二王子殿下だが、普段はやんちゃで手が付けられないのよとマルレーネ様は笑った。
「第二王子殿下の初恋でしょうか」
「淡い初恋は実らないと聞くけれど……」
ふふふと大人の余裕で、マルレーネ様と笑い合う。ヘンリック様は二つのテーブルへ挨拶のために向かった。私も一緒にと申し出ようとしたけれど、マルレーネ様をお一人で残してしまう。それはさすがに失礼だと判断した。
正式な紹介はお茶会より夜会の方がいいと教えてもらい、マルレーネ様にお礼を伝える。目を丸くして驚くので首を傾げると、理由を教えてくれた。上位の貴族は礼を口にする機会が少ないのだと。そういえば、フランクにも言われたわね。
「私は逆の考えを持っております。上に立つ者ほどお礼を口にするべきと思いますわ。民の納める税で暮らし、彼らの献身で生活しているんですもの」
言ってから、失礼に当たるのでは? と焦る。ところが、マルレーネ様は私の考え方を受け入れた。それどころか褒められてしまう。
「素晴らしいわ、その考えは私も大切にいたしましょう。誰だってお礼や褒め言葉は嬉しいはずよ。積極的に使っていくようにするわね」
まさかの大絶賛に、固まってしまった。ちらりと周囲を窺えば、注意がこちらに向いている。
「おかしゃま、これ……ほちぃ」
指さされたお菓子を、侍女に指示する。屋敷内なら私が取り分けるけれど、今回は正式な社交の場だから。勝手な振る舞いは公爵家の名に泥を塗る。綺麗な金縁の絵皿に取り分けたお菓子を受け取り、レオンの前に置いた。
じっと見つめるレオンが、ぱくっと口を開ける。
「あーっ!」
しまった。この対策を忘れていたわ。いつも私が食べさせるから、レオンにとって食事は口を開けて待つ行為になっている。動揺した私に、助け舟を出したのはヘンリック様だった。
「レオン、俺が食べさせてやろう」
「おとちゃまが? うん」
椅子の上で器用に向きを変え、レオンはヘンリック様に向き直る。切り分けた焼き菓子がレオンの口に入った。
「赤ちゃんみたいだ」
飛んできた子供の声に、傷ついてしまうのでは? そう心配した私をよそに、レオンはまったく気にしていない。図太いというか、逞しいと表現するべきか。きょとんとした様子で、声を上げたリースフェルト公爵令息を見つめた。
こてりと首を傾けて考え、今度は反対に首を傾げる。私を振り返り、至極真面目に尋ねた。
「ぼく、おかしい?」
「いいえ。成長はそれぞれよ。まだ三歳になったばかりだもの。レオンはこれでいいの」
「うん。ぼく、いいの」
笑顔でそう言い放ち、また口を開けた。ヘンリック様の手が動かないので、ぺちぺちと叩いて促す。リースフェルト公爵家を睨んでいたヘンリック様がはっとして、レオンに二口目を運んだ。
「……陛下もこのくらい子煩悩ならよかったのに」
マルレーネ様は小さく息を吐き、羨ましいわと付け加えた。
リースフェルト公爵家には八歳になる令嬢がいる。くるんとカールした髪が愛らしい金茶の髪の彼女が、お気に召したようだ。お澄ましして隣に座る第二王子殿下だが、普段はやんちゃで手が付けられないのよとマルレーネ様は笑った。
「第二王子殿下の初恋でしょうか」
「淡い初恋は実らないと聞くけれど……」
ふふふと大人の余裕で、マルレーネ様と笑い合う。ヘンリック様は二つのテーブルへ挨拶のために向かった。私も一緒にと申し出ようとしたけれど、マルレーネ様をお一人で残してしまう。それはさすがに失礼だと判断した。
正式な紹介はお茶会より夜会の方がいいと教えてもらい、マルレーネ様にお礼を伝える。目を丸くして驚くので首を傾げると、理由を教えてくれた。上位の貴族は礼を口にする機会が少ないのだと。そういえば、フランクにも言われたわね。
「私は逆の考えを持っております。上に立つ者ほどお礼を口にするべきと思いますわ。民の納める税で暮らし、彼らの献身で生活しているんですもの」
言ってから、失礼に当たるのでは? と焦る。ところが、マルレーネ様は私の考え方を受け入れた。それどころか褒められてしまう。
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まさかの大絶賛に、固まってしまった。ちらりと周囲を窺えば、注意がこちらに向いている。
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指さされたお菓子を、侍女に指示する。屋敷内なら私が取り分けるけれど、今回は正式な社交の場だから。勝手な振る舞いは公爵家の名に泥を塗る。綺麗な金縁の絵皿に取り分けたお菓子を受け取り、レオンの前に置いた。
じっと見つめるレオンが、ぱくっと口を開ける。
「あーっ!」
しまった。この対策を忘れていたわ。いつも私が食べさせるから、レオンにとって食事は口を開けて待つ行為になっている。動揺した私に、助け舟を出したのはヘンリック様だった。
「レオン、俺が食べさせてやろう」
「おとちゃまが? うん」
椅子の上で器用に向きを変え、レオンはヘンリック様に向き直る。切り分けた焼き菓子がレオンの口に入った。
「赤ちゃんみたいだ」
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こてりと首を傾けて考え、今度は反対に首を傾げる。私を振り返り、至極真面目に尋ねた。
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「うん。ぼく、いいの」
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「……陛下もこのくらい子煩悩ならよかったのに」
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