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89.気さくな王妃殿下でひと安心
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※王妃殿下の表現について
この作品では国王の妻であり、政に直接関与しない女性であるため、王妃陛下の表記は用いません。
*********************
美しい風景画のようなカップを手に取り、王妃殿下が口をつける。それを合図に、周囲の貴族から小さな物音が聞こえ始めた。上位者が手をつけたから、お茶や茶菓子が解禁された形よ。
私が手を伸ばすより早く、ヘンリック様がジャムを取ってくれた。手元に寄せてもらったので、お礼を言ってレオンのカップに沈める。崩して混ぜてしまうのではなく、ただ沈めて甘さを楽しむの。贅沢でもったいない行為だった。
苺や柑橘のジャムが多いけれど、私ならジャムを最後に飲み込むか。または完全に溶かして飲んでしまいたい。ジャムの実は残し、周囲が溶ける程度に混ぜるのがマナーだった。なんて無駄なお作法なのかしらね。
「あぃがと」
にっこり笑ったレオンは、覚えた通りにカップを口元に運んだ。作法では両手で持ってはいけないの。でも幼子なので、危険だわ。
「王妃殿下、御前失礼致します」
一言断りを入れて、レオンのカップを支える。その際に横を向く形になるので、断りを入れたの。ぐらりと傾いていたカップを包むようにして、レオンが飲みやすい角度で固定する。ふぅと小さな音で吹いて、ちょっと温度を確かめて、レオンはごくりと一口飲んだ。
一度カップをソーサーへ戻す。溢れていないし、よくできたわと褒めた。
「ケンプフェルト公爵夫人」
「はい、王妃殿下」
叱られるのが私なら問題ないわ。そう思って正面へ向き直ったら、王妃殿下は笑顔だった。厳しい表情を覚悟したのに、叱責もない。
「そちらは嫡子のレオンね。仲が良くて安心したわ」
王家の血を濃く継いでいるケンプフェルト公爵家は、王家にとっても重要な家門だ。ヘンリック様の仕事で王宮や国政も動いているし、家柄も古くて第二の王家と呼ばれていた。この話はフランクに教わったのよ。他の二つの公爵家を従え、貴族の頂点に立つ立場らしいわ。
「アマーリアはよくやってくれています」
「ヘンリック様……」
まさか人前でこんな言葉を頂けるなんて。驚いた私に、王妃殿下はおほほと品よく笑った。
「安心しました。二人が名前で呼び合う仲だなんて、陛下に素敵な報告ができそうね」
王妃殿下は気さくな方のようで、堅苦しい作法は程々でいいと仰った。もちろん丸ごと信じて失敗したりしないわ。ただ、小さなミスは目溢しする、と受け取れた。
雑談が進み、退屈そうなレオンが足を揺らし始める。大人のフリは飽きちゃったのね。どうしようかと迷う私に、王妃殿下から提案があった。子供達を一緒に遊ばせようと。
「レオンは発育がゆっくりなので……」
ご迷惑になるかも。濁したら、王妃殿下はそれでいいと優しい目を向けた。大人しく座っている王女殿下が椅子から滑り降り、とことこと近づく。きょとんとしたレオンへ手を伸ばした。
「いっちょ、しまちょ!」
あら、レオンと似たり寄ったり。まだ言葉がお上手じゃないのね。瞬いた私を振り返り、レオンは「いい?」と尋ねた。もちろんと頷いたら、お尻で椅子から滑り降りる。そのまま手を繋いで走り、少し先の花壇の前に並んで座った。
この作品では国王の妻であり、政に直接関与しない女性であるため、王妃陛下の表記は用いません。
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美しい風景画のようなカップを手に取り、王妃殿下が口をつける。それを合図に、周囲の貴族から小さな物音が聞こえ始めた。上位者が手をつけたから、お茶や茶菓子が解禁された形よ。
私が手を伸ばすより早く、ヘンリック様がジャムを取ってくれた。手元に寄せてもらったので、お礼を言ってレオンのカップに沈める。崩して混ぜてしまうのではなく、ただ沈めて甘さを楽しむの。贅沢でもったいない行為だった。
苺や柑橘のジャムが多いけれど、私ならジャムを最後に飲み込むか。または完全に溶かして飲んでしまいたい。ジャムの実は残し、周囲が溶ける程度に混ぜるのがマナーだった。なんて無駄なお作法なのかしらね。
「あぃがと」
にっこり笑ったレオンは、覚えた通りにカップを口元に運んだ。作法では両手で持ってはいけないの。でも幼子なので、危険だわ。
「王妃殿下、御前失礼致します」
一言断りを入れて、レオンのカップを支える。その際に横を向く形になるので、断りを入れたの。ぐらりと傾いていたカップを包むようにして、レオンが飲みやすい角度で固定する。ふぅと小さな音で吹いて、ちょっと温度を確かめて、レオンはごくりと一口飲んだ。
一度カップをソーサーへ戻す。溢れていないし、よくできたわと褒めた。
「ケンプフェルト公爵夫人」
「はい、王妃殿下」
叱られるのが私なら問題ないわ。そう思って正面へ向き直ったら、王妃殿下は笑顔だった。厳しい表情を覚悟したのに、叱責もない。
「そちらは嫡子のレオンね。仲が良くて安心したわ」
王家の血を濃く継いでいるケンプフェルト公爵家は、王家にとっても重要な家門だ。ヘンリック様の仕事で王宮や国政も動いているし、家柄も古くて第二の王家と呼ばれていた。この話はフランクに教わったのよ。他の二つの公爵家を従え、貴族の頂点に立つ立場らしいわ。
「アマーリアはよくやってくれています」
「ヘンリック様……」
まさか人前でこんな言葉を頂けるなんて。驚いた私に、王妃殿下はおほほと品よく笑った。
「安心しました。二人が名前で呼び合う仲だなんて、陛下に素敵な報告ができそうね」
王妃殿下は気さくな方のようで、堅苦しい作法は程々でいいと仰った。もちろん丸ごと信じて失敗したりしないわ。ただ、小さなミスは目溢しする、と受け取れた。
雑談が進み、退屈そうなレオンが足を揺らし始める。大人のフリは飽きちゃったのね。どうしようかと迷う私に、王妃殿下から提案があった。子供達を一緒に遊ばせようと。
「レオンは発育がゆっくりなので……」
ご迷惑になるかも。濁したら、王妃殿下はそれでいいと優しい目を向けた。大人しく座っている王女殿下が椅子から滑り降り、とことこと近づく。きょとんとしたレオンへ手を伸ばした。
「いっちょ、しまちょ!」
あら、レオンと似たり寄ったり。まだ言葉がお上手じゃないのね。瞬いた私を振り返り、レオンは「いい?」と尋ねた。もちろんと頷いたら、お尻で椅子から滑り降りる。そのまま手を繋いで走り、少し先の花壇の前に並んで座った。
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