【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
89 / 274

89.気さくな王妃殿下でひと安心

しおりを挟む
※王妃殿下の表現について
 この作品では国王の妻であり、内政に直接関与しない女性であるため、王妃陛下の表記は用いません。

*********************






 美しい風景画のようなカップを手に取り、王妃殿下が口をつける。それを合図に、周囲の貴族から小さな物音が聞こえ始めた。上位者が手をつけたから、お茶や茶菓子が解禁された形よ。

 私が手を伸ばすより早く、ヘンリック様がジャムを取ってくれた。手元に寄せてもらったので、お礼を言ってレオンのカップに沈める。崩して混ぜてしまうのではなく、ただ沈めて甘さを楽しむの。贅沢でもったいない行為だった。

 苺や柑橘のジャムが多いけれど、私ならジャムを最後に飲み込むか。または完全に溶かして飲んでしまいたい。ジャムの実は残し、周囲が溶ける程度に混ぜるのがマナーだった。なんて無駄なお作法なのかしらね。

「あぃがと」

 にっこり笑ったレオンは、覚えた通りにカップを口元に運んだ。作法では両手で持ってはいけないの。でも幼子なので、危険だわ。

「王妃殿下、御前失礼致します」

 一言断りを入れて、レオンのカップを支える。その際に横を向く形になるので、断りを入れたの。ぐらりと傾いていたカップを包むようにして、レオンが飲みやすい角度で固定する。ふぅと小さな音で吹いて、ちょっと温度を確かめて、レオンはごくりと一口飲んだ。

 一度カップをソーサーへ戻す。溢れていないし、よくできたわと褒めた。

「ケンプフェルト公爵夫人」

「はい、王妃殿下」

 叱られるのが私なら問題ないわ。そう思って正面へ向き直ったら、王妃殿下は笑顔だった。厳しい表情を覚悟したのに、叱責もない。

「そちらは嫡子のレオンね。仲が良くて安心したわ」

 王家の血を濃く継いでいるケンプフェルト公爵家は、王家にとっても重要な家門だ。ヘンリック様の仕事で王宮や国政も動いているし、家柄も古くて第二の王家と呼ばれていた。この話はフランクに教わったのよ。他の二つの公爵家を従え、貴族の頂点に立つ立場らしいわ。

「アマーリアはよくやってくれています」

「ヘンリック様……」

 まさか人前でこんな言葉を頂けるなんて。驚いた私に、王妃殿下はおほほと品よく笑った。

「安心しました。二人が名前で呼び合う仲だなんて、陛下に素敵な報告ができそうね」

 王妃殿下は気さくな方のようで、堅苦しい作法は程々でいいと仰った。もちろん丸ごと信じて失敗したりしないわ。ただ、小さなミスは目溢しする、と受け取れた。

 雑談が進み、退屈そうなレオンが足を揺らし始める。大人のフリは飽きちゃったのね。どうしようかと迷う私に、王妃殿下から提案があった。子供達を一緒に遊ばせようと。

「レオンは発育がゆっくりなので……」

 ご迷惑になるかも。濁したら、王妃殿下はそれでいいと優しい目を向けた。大人しく座っている王女殿下が椅子から滑り降り、とことこと近づく。きょとんとしたレオンへ手を伸ばした。

「いっちょ、しまちょ!」

 あら、レオンと似たり寄ったり。まだ言葉がお上手じゃないのね。瞬いた私を振り返り、レオンは「いい?」と尋ねた。もちろんと頷いたら、お尻で椅子から滑り降りる。そのまま手を繋いで走り、少し先の花壇の前に並んで座った。
しおりを挟む
感想 636

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

処理中です...