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84.着飾れば公爵夫人みたいだわ

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 ヘンリック様をお仕事に送り出し、レオンにお勉強名目で遊ばせてお昼寝もする。そんな平和な日常が繰り返され、ついにお茶会当日となった。

 お茶会に備えて、レオンにはお勉強と食事の時間にマナーを教える。挨拶の仕方はフランクが、歩き方の指導はベルント。お茶会の作法は、私も一緒にイルゼに教わった。いずれ外部から教師を雇うとしても、今は付け焼き刃程度の知識があればいいの。

 三歳なので、よほどの無礼でなければ咎められない。レオンの指導より、私の再教育の方が苦労させてしまったわ。カトラリーの持ち方は問題ないけれど、細かな作法で躓いた。

 目上の人が手を付ける前にカップに触れない、だったり。お菓子はお茶を半分ほど飲むまで食べない、だったり。知らない作法がずらり。上位貴族の集まりに出る機会のなかった私には、初耳の作法が多かった。

 詰め込み教育で一気に仕上げてもらい、侍女長のイルゼに及第点をもらえたのは昨夜だった。間に合ったと安堵の表情を浮かべる彼女には、心労の分だけ何かお返ししなくては。

 衣装は一昨日納品されたが、実はまだ見ていない。作法を覚えるのに必死だったのよ。ヘンリック様とフランク、イルゼがチェックしてくれたから、問題はなかったのね。

「奥様、お着替えなさってください」

 お茶会はお昼過ぎ、穏やかな午後の日差しの中で行われる。天幕を張るため、女性も帽子はなしと連絡があった。私の着替えの間、エルヴィンがレオンの面倒を見てくれる。着替えさせないといけないし、ベルントもレオンについた。

 朝食を終えたヘンリック様は、二階への階段で肩を落としていたけれど。どうしたのかしら。何か忘れ物に気づいた、とか? もしかして手土産が必要だったり……慌てて確認するも、フランクに問題ありませんと話を切られた。早く着替えてくださいと視線で促され、慌てて自室へ向かう。

 コルセットは柔らかなタイプを選び、紐も強く締めない。レオンを抱き上げる可能性があるので、息が止まってしまうわ。幸い、私は貴族女性の中でも細い方だった。いつも食費を切り詰めていたから、肉や魚が少なかったの。

 ここ最近、すこしふっくらしてきたところよ。それでも乗り切れそうね。

 深く青い絹を身に纏う。肩を出すドレスなので、下から上へ着用した。全体に同じ色の糸でびっしりと刺繍が施され、裾や胸元の刺繍は金糸が使われる。同じ絹に裏地をしっかり当てた上着を羽織った。こちらは刺繍のほとんどが金糸だ。

 昼間の集まりなので、宝石は光を弾かない半貴石を選ぶ。ヘンリック様が用意した紫の縞瑪瑙の耳飾りだった。胸元に大粒のブローチをつけ、首飾りはしない。縞瑪瑙は鮮やかな紫ではなく、白が混じった優しい色合いになっていた。

 この国で瑪瑙は産出しないので、すごく高いのではないかと不安になる。ブローチは蝶の形をしていた。同じ縞瑪瑙を花のブローチにしたのがレオン、ヘンリック様も同じ石で蜂を作らせている。タイピンにしたのよ。

 グラデーションで水色になるドレスの裾は、ストンと落ちるエンパイア風にした。整えた髪とメイクのお陰で、それなりに美人に見えるわ。

「お綺麗です」

「ありがとう」

 私じゃないみたいだわ。ちゃんと公爵夫人に見えるもの。
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