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83.完成が楽しみだわ
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仕立て屋のご夫婦には、レオンを真ん中にした私達を凝視されてしまった。さすがに貴族御用達の彼らは、無礼を詫びてるように頭を下げ視線を逸らす。誤った言葉尻を捉えられないよう、上手に振る舞ってくれた。お陰で、私も何もなかったように微笑んで誤魔化せる。
「何か追加のご指示がありましたでしょうか」
すでにデザインを描いていたようで、不安そうに尋ねられる。突然来たんだもの。そう思わせてしまったのは申し訳ないわ。ヘンリック様は、穏やかに切り出した。
「俺の留守に決まった話なので、どんなデザインか確認したい」
ほっとした様子で、仕立て屋のご主人はデザインの紙を運んできた。奥さんが勧めてくれた椅子に腰かけ、テーブルの上に広げられた大判のデザイン画を確認する。男性、子供、女性の順番で描かれていた。並べて差し出され、ヘンリック様は手にとって眺める。
「この……肩が出るのは……」
「こちらの上着を着用なさることで、上品に着こなしていただけます」
私のドレスの肩が出ているのが気になったのね。アームカバーに似た上着があり、がっちり肩を覆っている。そちらの図を説明され、納得したみたい。お茶会で肩出しはおかしいもの。その辺は私より、家令のフランクや仕立て屋さんの方が詳しいと思うわ。
続いて色や生地について質問が始まった。一段落すると、共布で仕立てるヘンリック様の……じゃなくて。レオンの半ズボンとシャツを真剣に確認した。私のドレスに使用する金刺繍を、レオンの襟や袖に利用している。
大人しくお座りするレオンの前に紙をかざし、見比べて満足そうに頷いた。刺繍の一部を変更するよう指示しただけね。最後にご自分の衣装を確認する。夜会なら公爵はマントを着用するんですって。でも今回は昼間のお茶会なので、省略していた。
金刺繍は控えめに、その代わりに生地と同じ色に染めた糸で刺繍が施されている。派手にせず上品に装飾を施した結果だ。私のドレスにも同色糸の刺繍が入っていた。
「妻のドレスの金刺繍を少し減らそう。この辺と、ここは金で構わない」
お金を出すのはヘンリック様なので、私は隣で大人しく聞いていた。特に口出しする必要はない。だって、その方が品よく仕上がると思うもの。この辺のセンスは、私よりヘンリック様の方が洗練されているはずよ。
生まれた時から上質なものを見慣れているし、顔を合わせることが多い王族の好みもご存じだわ。変更点が多くないから、仕立て屋の作業も間に合うみたい。
「アマーリアはこれでいいか?」
「ええ、ヘンリック様にお任せしますわ」
にっこり笑って応じる。聞いてくれるなんて親切ね。勝手に決めても文句なんて言わないのに。
先ほどのレストランでは、可愛い二人目のお子様だったけれど、今は完全に公爵閣下ね。大型犬の雰囲気が少し残るヘンリック様は、ほっとした顔で指示を付け加えた。私のドレスに施す刺繍を入れたハンカチを、胸元に飾りたいんですって。
お揃い感が増して、素敵ね。ここでフランクに言われた話を思い出し、二枚目のドレスを注文した。ヘンリック様の意見を参考に選んだ夜会用で、仕立てに半月ほど。完成が楽しみだわ。
「何か追加のご指示がありましたでしょうか」
すでにデザインを描いていたようで、不安そうに尋ねられる。突然来たんだもの。そう思わせてしまったのは申し訳ないわ。ヘンリック様は、穏やかに切り出した。
「俺の留守に決まった話なので、どんなデザインか確認したい」
ほっとした様子で、仕立て屋のご主人はデザインの紙を運んできた。奥さんが勧めてくれた椅子に腰かけ、テーブルの上に広げられた大判のデザイン画を確認する。男性、子供、女性の順番で描かれていた。並べて差し出され、ヘンリック様は手にとって眺める。
「この……肩が出るのは……」
「こちらの上着を着用なさることで、上品に着こなしていただけます」
私のドレスの肩が出ているのが気になったのね。アームカバーに似た上着があり、がっちり肩を覆っている。そちらの図を説明され、納得したみたい。お茶会で肩出しはおかしいもの。その辺は私より、家令のフランクや仕立て屋さんの方が詳しいと思うわ。
続いて色や生地について質問が始まった。一段落すると、共布で仕立てるヘンリック様の……じゃなくて。レオンの半ズボンとシャツを真剣に確認した。私のドレスに使用する金刺繍を、レオンの襟や袖に利用している。
大人しくお座りするレオンの前に紙をかざし、見比べて満足そうに頷いた。刺繍の一部を変更するよう指示しただけね。最後にご自分の衣装を確認する。夜会なら公爵はマントを着用するんですって。でも今回は昼間のお茶会なので、省略していた。
金刺繍は控えめに、その代わりに生地と同じ色に染めた糸で刺繍が施されている。派手にせず上品に装飾を施した結果だ。私のドレスにも同色糸の刺繍が入っていた。
「妻のドレスの金刺繍を少し減らそう。この辺と、ここは金で構わない」
お金を出すのはヘンリック様なので、私は隣で大人しく聞いていた。特に口出しする必要はない。だって、その方が品よく仕上がると思うもの。この辺のセンスは、私よりヘンリック様の方が洗練されているはずよ。
生まれた時から上質なものを見慣れているし、顔を合わせることが多い王族の好みもご存じだわ。変更点が多くないから、仕立て屋の作業も間に合うみたい。
「アマーリアはこれでいいか?」
「ええ、ヘンリック様にお任せしますわ」
にっこり笑って応じる。聞いてくれるなんて親切ね。勝手に決めても文句なんて言わないのに。
先ほどのレストランでは、可愛い二人目のお子様だったけれど、今は完全に公爵閣下ね。大型犬の雰囲気が少し残るヘンリック様は、ほっとした顔で指示を付け加えた。私のドレスに施す刺繍を入れたハンカチを、胸元に飾りたいんですって。
お揃い感が増して、素敵ね。ここでフランクに言われた話を思い出し、二枚目のドレスを注文した。ヘンリック様の意見を参考に選んだ夜会用で、仕立てに半月ほど。完成が楽しみだわ。
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