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82.見られてしまったわ!
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二回のあーんをクリアしたところで、ヘンリック様は自分で食べ始めた。正直、ほっとしたわ。二人に食べさせながら、私も食べるのは忙しすぎるんだもの。
デザートはプリンに似た蒸し物で、ほんのり甘くて美味しい。レオンは右手にスプーンを握り、当然のように口を開けた。そろそろ使い方を教えるべきかしら。笑顔で口に運び、ちらりと視線を向けた先で、こちらの様子を窺うヘンリック様に気づく。
そう、気づいちゃったの。無視はできないわ。尻尾も耳も垂れて、くーんと鼻を鳴らすイメージが浮かんだ。
「ヘンリック様も」
どうぞと、スプーンで掬って差し出す。咥えたタイミングで、間の悪い給仕がお茶を運んできてしまった。驚き過ぎて声もでない給仕を視線に捉えつつも、ヘンリック様は平然としている。王族って何をするときも侍従や侍女がいて、すべて見られて育つのよね。
羞恥心が薄いと聞いたけれど、公爵にも当てはまるのかしら。王族と血が繋がっているのが、公爵家だから合ってるかも。忙しく考えながら、手元のスプーンで私も頂く。うん、美味しいわ。
凝視する給仕の目が、スプーンに釘付けだ。私も釣られてスプーンを眺め、はっとした。レオン、ヘンリック様、私……この順番で食べたということは!
間接キス――よね? でも旦那様で夫だし、だけど契約で繋がっているだけ。これは性的接触じゃないから、セーフだと思う。何もなかった風を装い、給仕が動き出すのを待った。そうか、先ほどのヘンリック様が平然としていたのもコレね?
動揺を内側に隠したんだわ。さすが上位貴族! 違和感がなくて、見抜けなかったわ。感心しながら、袖を引くレオンに残りを食べさせた。ようやく復活した給仕がお茶を淹れ、丁寧に並べて「ごゆっくりお過ごしください」と帰っていく。
ご飯食べただけなのに、妙に疲れてしまった。それでも、この後は仕立て屋に寄るのよね。新しく仕立てる服を話題にして、穏やかな雰囲気で店を出た。ヘンリック様がレオンを抱き上げ、私は後ろからついていく。外はやや曇り空で、過ごしやすい天気だった。
「仕立て屋まで歩いて行こうか」
街を歩くのは久しぶりだ。弟妹の世話に忙しかったので、日常の買い物ぐらいだけど。こうして歩くと、雑貨屋も宝飾店も賑わっていた。人が集まる店を冷やかしながら、仕立て屋の近くまで来た時……レオンが興奮した様子で「あれ、ぼくも」と声をあげる。
指さしそうになって、自分で慌てて握りしめた。その拳が前方に突き出されたので、何を示しているのか気づく。三人家族の仲の良い光景だった。真ん中の女の子が、両親の間で手を繋ぐ。その足が地面から浮いて、ブランコのように見えた。
浮いているのが楽しいようで、声をあげて笑う。羨ましいと素直に強請るレオンに、私はヘンリック様の様子を窺った。私はいいけれど、彼は?
「よし、やろう」
あっさりとレオンの要望を受け入れ、手を繋いだ。私もレオンの手を握り……レオンが足を縮める。浮き上がった足をじたばた揺らし、レオンは甲高い声で大笑いした。
「重くないか」
「ええ、まだ平気ですわ」
貴族の奥様としては失格なくらい、逞しい腕を持っている。三歳でも小柄なレオンなら、仕立て屋まで行けそう。微笑んでそう伝え、私達は歩き出した。まるで普通の家族のように。
デザートはプリンに似た蒸し物で、ほんのり甘くて美味しい。レオンは右手にスプーンを握り、当然のように口を開けた。そろそろ使い方を教えるべきかしら。笑顔で口に運び、ちらりと視線を向けた先で、こちらの様子を窺うヘンリック様に気づく。
そう、気づいちゃったの。無視はできないわ。尻尾も耳も垂れて、くーんと鼻を鳴らすイメージが浮かんだ。
「ヘンリック様も」
どうぞと、スプーンで掬って差し出す。咥えたタイミングで、間の悪い給仕がお茶を運んできてしまった。驚き過ぎて声もでない給仕を視線に捉えつつも、ヘンリック様は平然としている。王族って何をするときも侍従や侍女がいて、すべて見られて育つのよね。
羞恥心が薄いと聞いたけれど、公爵にも当てはまるのかしら。王族と血が繋がっているのが、公爵家だから合ってるかも。忙しく考えながら、手元のスプーンで私も頂く。うん、美味しいわ。
凝視する給仕の目が、スプーンに釘付けだ。私も釣られてスプーンを眺め、はっとした。レオン、ヘンリック様、私……この順番で食べたということは!
間接キス――よね? でも旦那様で夫だし、だけど契約で繋がっているだけ。これは性的接触じゃないから、セーフだと思う。何もなかった風を装い、給仕が動き出すのを待った。そうか、先ほどのヘンリック様が平然としていたのもコレね?
動揺を内側に隠したんだわ。さすが上位貴族! 違和感がなくて、見抜けなかったわ。感心しながら、袖を引くレオンに残りを食べさせた。ようやく復活した給仕がお茶を淹れ、丁寧に並べて「ごゆっくりお過ごしください」と帰っていく。
ご飯食べただけなのに、妙に疲れてしまった。それでも、この後は仕立て屋に寄るのよね。新しく仕立てる服を話題にして、穏やかな雰囲気で店を出た。ヘンリック様がレオンを抱き上げ、私は後ろからついていく。外はやや曇り空で、過ごしやすい天気だった。
「仕立て屋まで歩いて行こうか」
街を歩くのは久しぶりだ。弟妹の世話に忙しかったので、日常の買い物ぐらいだけど。こうして歩くと、雑貨屋も宝飾店も賑わっていた。人が集まる店を冷やかしながら、仕立て屋の近くまで来た時……レオンが興奮した様子で「あれ、ぼくも」と声をあげる。
指さしそうになって、自分で慌てて握りしめた。その拳が前方に突き出されたので、何を示しているのか気づく。三人家族の仲の良い光景だった。真ん中の女の子が、両親の間で手を繋ぐ。その足が地面から浮いて、ブランコのように見えた。
浮いているのが楽しいようで、声をあげて笑う。羨ましいと素直に強請るレオンに、私はヘンリック様の様子を窺った。私はいいけれど、彼は?
「よし、やろう」
あっさりとレオンの要望を受け入れ、手を繋いだ。私もレオンの手を握り……レオンが足を縮める。浮き上がった足をじたばた揺らし、レオンは甲高い声で大笑いした。
「重くないか」
「ええ、まだ平気ですわ」
貴族の奥様としては失格なくらい、逞しい腕を持っている。三歳でも小柄なレオンなら、仕立て屋まで行けそう。微笑んでそう伝え、私達は歩き出した。まるで普通の家族のように。
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