【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
80 / 274

80.部下の頼もしい助言 ***SIDE公爵

しおりを挟む
 家族でお揃いの服を仕立てる。そんな一大事業なのに、仕事に行くよう促された。今まで服にこだわったことはなく、執事や家令が用意した服に袖を通してきた。だが、今回はお揃い……。

 初めての経験だった。誰かとデザインや色を揃えることもない。単独で、俺に似合うかどうかだけ判断すればよかった。それが、アマーリアやレオンと同じ色やデザインを施す。感情が暴れるような、落ち着きのない状態で仕事場についた。

 当然、仕事はそっちのけになる。何枚か処理すると手を止め、溜め息が漏れた。なぜ、こんな書類を処理しているのか。一緒に選んでみたかったし、意見を出してみたい。国王陛下臨席の会議より重要な案件だろう。

「公爵閣下、その……何かございましたか」

 心配そうに声をかける部下に、頭の中で整理した感情を吐き出す。一緒に選びたいのに、仕事に送り出された。その話を真剣に聞いた後、文官は眼鏡をくいっと上げた。

「公爵閣下は先日まで、奥様やご子息様に対して親しく接しておられませんでした」

「そうだな」

 否定のしようがない事実だ。現在は違うぞと反論したいのを呑み込み、彼の話に頷いた。

「それが原因でしょう。仕事を休んで付き合ってほしいと、奥様が口になさるのは勇気が必要です」

「ほぅ」

 そういうものか。非常に参考になる。結婚生活においては、部下の方が経験豊かだった。他の文官も手を止めて、集まってくる。こうして力を貸してもらえるのは助かるな。

「お子様に対してはどう接してこられましたか」

「奥様に反論してはいけませんよ」

「撫でたり腕を組んだりするスキンシップは大事です」

「たまに外へ連れ出して楽しませて差し上げてはいかがかと」

 俺が知らない知識を、惜しげもなく共有してくれる。部下達をこれほどありがたく、頼もしく思ったことはなかった。

 子供は頭を撫でてやると喜ぶ。だが学友ができる年齢になったら、回数を減らした方がいい。男の子は尊厳を傷つけないよう、気を遣うのだとか。年齢を聞かれて三歳と答えれば、肩車などの遊び方も教えてもらえた。

 可能な限り妻には反論せず、だが外では夫として彼女を守る必要がある。外出を喜ぶ女性は多いから、食事や買い物に付き合うこと。その際に小さな文句は呑み込む。片手では足りない注意事項をすべて記憶した。ここで、側近でもある伯爵に肩を叩かれる。

「よし、帰って奥様とご子息様を外食に誘いましょう。そのまま仕立て屋に顔を出し、デザインを確認して希望を追加で伝えれば……スマートですよ」

 スマート。それはとてもカッコいい言葉に思えた。妻アマーリアもそう感じてくれるだろうか。想像したら気分が高揚し、仕事の束を左に押し除ける。立ち上がり、上着を掴んで部屋の扉に手をかけ、慌てて振り返った。

「今日は帰る。あとは頼む」

「承知しました」

 頼もしい返事を背中で聞いて、そのまま廊下を足早に抜ける。可能なら走り出したい気分だった。





「いやぁ、あの公爵閣下が仕事より、家族を優先する日が来るなんて……」

「想像できませんでしたね」

 部下達は顔を見合わせて笑い、優先事項の高い仕事を片付けて定時前に切り上げた。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

処理中です...