【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
73 / 274

73.まだまだ赤ちゃんね

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

『それで、何もせずとも国王、王太子、宰相それぞれからこちら側に接触があると言ったか?』

 笑いを収めて、声も表情も引き締めてきたテオドル大公に、私も『はい』と頷いた。

『この後会議だって仰ってましたし、、本人じゃなく派閥の誰かかも知れませんけどね?いずれにせよ、探りを入れにくる筈ですよ?』

『うん?あの会議の話は嘘だと?』

『ああ、いや、嘘じゃないとは思います。ただ、わざわざ、夕食は共に出来ないかも知れないと釘を刺すからには、本当は、会議は夕食を兼ねていて、今は派閥で集まる時間にしている可能性もあるんじゃないかと』

『ううむ……それだと、それぞれの思惑はともかく、王と王太子の意見が対立している可能性もあるが……』

『そうとも限りませんよ?国王陛下が、それぞれに情報網や意見、派閥がある事を承知した上で「それぞれの意見を持ち寄って、夕方再度集まろう」とでも仰られたなら、対立と言うよりは、合議制に重きを置いていらっしゃると言うだけの話になりますから』

 裏を返せば、そこに意見を出せなければ、王太子として、あるいは宰相として失格の烙印を、周囲からも国王からも押される事になり、前段階での情報収集含め、法に外れた事でもやらかしてしまえば、それも同様と見做される。

 穏健派と言われている国王ではあるけれど、良い意味で緊張感のある政治を行っているんじゃないだろうか。

 テオドル大公も『うむ、あの陛下であればその方がしっくりくるな』と頷いていた。

『問題は、探りが入った時に、くだんの王弟の存在をそれぞれに明かすか否かだが――』

 その時、不意に部屋の扉がノックされて、侍女と思われる女性の声が来客を告げた。

「大公殿下、失礼致します。ジーノ・フォサーティ宰相令息が、殿下にお会いしたいとの事なのですが……」

「……ほう?」

 僅かに眉を動かしたテオドル大公に視線を向けると、大公は「ふむ…」と、こちらに説明するように顔を向け、口元に手をやった。

彼奴あやつは現宰相の養子であると同時に、王太子殿下の将来の側近候補と言われておってな。恐らくは王太子殿下の意を受けて来たのだろうとは思うが……後から宰相にも話の内容を問い質される可能性はあろうな』

『……ややこしいですね。それだと、結局最後に誰を立てるのか、あるいは上を共倒れさせたいのか、判断が難しいと言うか』

 一見すると宰相家の人間ではあるけれど、養子である時点で、宰相家と言う枠の中に入れてしまって良いのかが、酷く曖昧だ。

 かと言って、ミラン王太子の将来の側近候補だとしても、宰相の養子と言う時点で全幅の信頼を寄せて良いのかが見えづらい。

 宰相家と王太子とが対立をしていないのであれば、確かに心強い側近候補ではあるだろうけど、ビリエル・イェスタフの処遇から推察するに、どうも「そうではない」感が拭えない。

『うむ。実は宰相にはもう一人、愛妾が産んだ息子がいるにはいるのだが、コレがちと問題大アリでな。そう言う意味では養子を取っておる事は王宮にいる大半の人間が納得をしておるのだ。ただ、愛妾はそれでは納得せんと言う訳でな。機会は平等に与える――と、宰相はしておるのだよ。故に、今ジーノが来たなら、後からもう一人の息子であるグイドが押しかけてくるやも知れん。その点は皆も承知しておいてくれるか』

『…まあでも、父親から情報を貰わないと動かないもう一人と、今既に扉の前にいる一人とでは、能力差含めて色々お察しですけどね』

 その時点で、既に機会は不平等だ。
 愛妾の子とは言え、実子の後押しをしていると取られてしまっても不思議じゃない。

『父の心子知らず――と、確かに言いたいところではあるが、宰相フォサーティとしては、不出来な実子を推す声を潰してしまいたいが故に、敢えて「ここまでお膳立てしてやっても出来ない」事を周囲に知らしめたいんじゃないかと、儂なんかは思っとるがな。宰相アレは、あまり家庭を顧みる男ではないし、何よりも宰相家の存続と発展を至上としておるしな』

『…それはそれで「宰相家おいえでやってくれ。王宮よそを巻き込むな」と言いたくなる気もしますけどね』

 バッサリと切って捨てた私に、テオドル大公は呵々と笑った。

『まあ、所詮バリエンダールの事。アンジェスに実害が及ばぬ内は、遠巻きに見ているのが良かろうて。とりあえずジーノには、くだんの王弟の話は「聞かれればする」の立場でいこうと思っておるよ』

 バリエンダール側からアンジェスへの訪問を約束させる事は、今回の渡航における帰国の為の必須要件であり、その為には、必要以上に情報を出し惜しむ訳にもいかないのだ。

「……殿下?」
「うむ、待たせて済まぬな。中に案内してくれて構わぬぞ」

 侍女からの再確認に答えたテオドル大公の声に前後しつつ、扉は静かに開かれた。

「――おお、王太子殿下もそうだったが、其方も大きくなったな、ジーノ!見違えたぞ」

 深々と〝ボウ・アンド・スクレープ〟の礼儀を遵守する青年に、テオドル大公も大きく頷いている。

 気持ちは分かります。見た目に成長したって言うだけの話じゃないですよね。

 サレステーデの王子サマ方は、ちょっと酷かったですからね。
 これが本来の高位貴族のあるべき姿だと、思わず頷いてしまったんだろうな…。

「お久しぶりです、テオドル大公殿下。アンジェスからお越しになられたばかりで、お疲れであろうところ、お時間を頂戴してしまい申し訳ございません」

 バリエンダールの宰相サマは、多少は王家の血があるのか、年齢故か、見事なグレイヘアだった。

 一方で目の前のこの青年は、晴れた空の色を思わせる水色の髪をしており、養子と言われれば「なるほど」となる外見だった。

「良い良い、気にするな。今回は私的に来ておる訳でもないし、時間は有限だ。其方そなたこそ茶を飲む時間くらいはあるのか?儂を若者イジメをしておるような頑固ジジイにはしてくれるな?」

 暗に「座れ」と大公が言っているのを、この場の全員が察した。

 私とマトヴェイ外交部長はすぐさま、少し離れたソファの方へと移動をし、それを目にしたジーノ青年も「殿下には敵いません」と首を振りつつ、入口付近から部屋の中へと近付いてきた。

「それで今日は其方そなた使者としてここへ来た?あまり駆け引きはせんでくれると有難いんだがな」

 単刀直入なテオドル大公の言葉に「ははは」と、ジーノ青年は乾いた笑い声を洩らした。

 明らかに「どの口が仰るか」と言っている目だ。

 なるほど、無意味にテオドル大公の肩書に委縮したりおもねったりしてこない辺り、優秀さを買われて宰相家の養子になったと言うのも、あながち過大評価ではないんだろう。

「ああ、でも今回は四日間しかいらっしゃらないんでしたね。であれば、確かに昔の様に手ほどきをして頂く訳にもいきませんね」

「まあ、其方そなたやミラン殿下があまりに無鉄砲ヤンチャすぎて、口を挟みたくなっただけの事よ。さすがに少しは成長したのだろう?」

 …何を手ほどきしたのかちょっと、いやだいぶ気になる。
 後で聞いてみよう。

 多分、私のそんな興味津々な視線に気が付いたんだろう。
 テオドル大公が、ちょっと大きめの咳払いをして、ジーノ青年も「すみません、話がそれました」と微笑わらった。

「私は、ミラン王太子殿下からの命でこちらに参りました。大公殿下に、さっき出来なかった質問がある――との事で」

 そしてジーノ青年は浮かべていた笑顔を消して、背筋もピンと伸ばし直した。

「――テオ殿、私に事はないか?――だ、そうです」

 聞き返さずとも、何の話かアンジェス側は全員察しがついていた。
しおりを挟む
感想 636

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

処理中です...