【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
68 / 274

68.元気が溢れて突然眠るの

しおりを挟む
 申し訳ないことに、靴は修復不可能で廃棄となった。踵の低い靴も欲しいと伝えたら、侍女達は不思議そうな顔をする。一般的に貴族夫人や令嬢は、踵の高い靴でカツカツ音をさせて歩く。わざわざ平民のような靴を履きたがるなんて、おかしいのかも。

 今日の失敗を話して、庭に出る専用にするのよと伝えた。今度はあっさり納得され、手配がされる。芝生専用の歩きやすい靴をオーダーするのは、公爵夫人らしい行いに見えたのかしら。使い道を限定すれば、確かに贅沢だわ。

「レオンの着替えは終わった?」

「はい、まだ髪のお手入れが」

 お風呂は寝る前に入るからと後回しにした。そのため汚れを拭いて着替えるだけなのだけれど、芝生の間を転げ回ったので髪に絡んだみたい。レオンの黒髪からちらほら顔を覗かせる芝生の欠片は、丁寧に一つずつ回収された。

 自分の髪なら、私は櫛で落としちゃうけど……こういうところ、時代や貴族の考え方が贅沢なのよね。人の手による作業が一番安い。だからたくさんの使用人を雇って、一つずつ手作業で丁寧に仕上げてもらう。実質三人しかいない公爵家で、料理人が両手に余る数いるのよ? 贅沢すぎるわ。

「おかしゃま。きれい、にした」

 得意げに回るレオンはまだ元気そう。体力がついて安心するべきなのか、今後の大変さを嘆くのが先か。考えるまでもなく、元気なのはいいことよ。貴族家の嫡子なら、剣術を習ったり馬術を覚えたり。外へ出る機会が増えるはずだ。体力勝負で負けないのは大事よ。

 レオンは同じ年頃の平均より体が小さかったから、よい事なのだけれど。

「だっこ、して」

「いらっしゃい」

 手を広げて屈む私に走り寄る。こうしてみると、まだまだ幼い。先の心配をしても仕方ないわ。今は元気になったことを素直に喜びましょう。

「そろそろヘンリック様が戻られる時間ね」

 あれほど名残惜しそうに出ていく姿を見れば、定時で帰ってくる予想はつく。にっこりと笑みを浮かべ、抱き上げたレオンに頬をすり寄せた。

「へん、いー?」

「お父様よ」

「おとちゃま」

 にこにこと繰り返す言葉は、それでもぎこちなさが抜け始めている。この可愛らしい舌足らずも、徐々に消えてしまうのね。このまま育つと困るのに、なくなるのも寂しいと思う。やっぱりまだ先なのだけれど。

 一階の部屋にしたことで、門からアプローチまでの景色は見えなくなった。帰宅時間の予想に合わせ、玄関ホールへ向かった。途中で、馬車の音が聞こえる。

「おかえりなさいませ、ヘンリック様」

「ああ。いま戻った」

「おとちゃま、おかぁりちゃい」

 また省略しちゃったわね。これは覚える気がないのかしら? ぷにぷにした頬を指で突くと、きゃっきゃと笑い声を立てて手を振り回す。元気なレオンの姿に目を細め、ヘンリック様は着替えに向かった。

 この後はお食事ね。先に食堂へ向かった私は、ふと重くなった腕の中を覗き込む。扉を開けて待つベルントが、おやおやと口元を緩めた。くてんと首を傾けて、レオンは寝息を立てている。幼子って突然眠るけど、これから夕飯だったのに。おやつも食べていないし、困ったわね。
しおりを挟む
感想 636

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

処理中です...