【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
65 / 274

65.天気がいい日は外へ出るのよ

しおりを挟む
 机の拭き取りは侍従にお願いした。ごめんなさいね、私がしたらいいのだけれど……ベルントに叱られちゃうの。

「汚してしまって……綺麗になるかしら」

 お願いしてはいけない、謝ってもダメ。貴族夫人って難しいわね。一般的には「片付けておきなさい」と命じるらしい。確認した侍従が、問題ございませんと請け負ってくれたので安心した。

 つい「お願いね」と付け足したくなるわ。レオンを抱き上げ、庭へ出る。ご飯もお昼寝も、庭に準備してもらった。リリーがレオンの靴を持って後ろにつく。お父様達も誘って、芝生がある東側へ向かった。

 事前に伝えたので、侍従や騎士が協力してテントを張ってくれた。護衛にも天幕を用意するよう命じたので、彼らも日陰で見守ることができる。この世界ではあまり聞かないが、熱中症や脱水もあると思うの。屋外で鎧なんて着用していたら、絶対に暑いわ。

 よいお天気で、空は青く澄んでいる。季節は夏に差し掛かる頃、暑さの増す時期だった。白い天幕の奥に野営用のテントがある。眠る時はテントの中、ご飯は天幕の下で食べる予定だ。地面の上に天幕と同じシートを敷いて、絨毯を重ねてもらった。

 降ろしたレオンが早くも走り回り、きゃあ! と興奮した声を上げる。

「うわぁ、ピクニックみたいだね」

 エルヴィンが嬉しそうに笑うと、レオンは立ち止まって首を傾けた。黒髪がさらりと揺れて、そのまま横に倒れちゃいそう。

「いくにっく? えるぅ」

 それなあに? 繰り返しながら疑問系にして、エルヴィンに駆け寄る。名前をきちんと覚えているのは、頭がいいのかしら。話し方が幼いレオンは、両手を前に出してエルヴィンへ走る。

 絨毯は平らに敷かれたとはいえ、芝生の上だ。床と違い、凹みもあるようで……躓いた。周囲が一斉に手を出そうとする中、距離の近いエルヴィンが受け止める。膝をついて座り、その上にレオンが飛び込んだ。

「びっくりした。ケガはありませんか? レオン様」

「あい! あぃがと!」

 自発的に礼を口にして、小さな頭が縦に揺れる。ぺこりとお辞儀のように動いた黒髪を、エルヴィンが優しく撫でた。

「よくできました。ご無事でよかったです」

「ありがとう、エルヴィン。助かったわ」

 レオンはエルヴィンの膝の上に座り直す。嬉しそうなので、そのままご飯を食べることにした。様子を見ながら離れた場所に座ろうとしたら、レオンが「ここ」と絨毯を指さす。隣がいいのね、笑って移動した。

 お父様や双子も揃ったところで、リリーとマーサにも座るよう命じる。ここで伝えてもダメなのよね。私の命令なら、同席はギリギリセーフ。屋外でしかも家族しかいない状況だから、問題ないと判断した。叱られたら、そう返すつもりよ。

 用意された食事は、手で掴んで食べられる物ばかり。きちんと手を拭いて、野菜から食べた。スティック状に切られ、小さなピンが刺さっている。中華の花巻に似たパンを開き、間にソースのかかった肉を挟んでもらう。

 侍従や侍女が同行するからできる食事ね。リリーが手際よくパンに挟んで用意し、飲み物はマーサの担当らしい。中央に置いたトレイをテーブル代わりに、しっかり頂いた。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

処理中です...