【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
61 / 274

61.遮って話してはいけないの

しおりを挟む
 団欒の中心は話を聞くこと。まずは双子が勉強の進捗状況を報告した。もう少し頑張りましょうと告げて、エルヴィンを促す。ちらりとレオンを確認すると、窓の外に夢中だった。

 歴史の授業で覚えた部分を、自分なりの解釈で話す。覚えたことを口に出せば、考えが纏まりやすいし忘れにくいのよ。頷きながら説明を聞いて、最後に褒めた。我が家で繰り返してきた慣習に、お父様も口を開く。

 それぞれの伸びた部分と課題点、屋敷で気付いた小さなことを教えてもらう。今日は玄関ホールの大きな鉢植えが交換された。庭師が頑張って、離れにある鉢植えも替えてくれたらしい。洗濯物を干す下女の歌が上手だったと締めくくられた。

「素敵ね。旦那様は何かございましたか?」

「ああ。今日は……」

「おかしゃま! あきゃいおはな、あれ」

 興奮状態で駆け寄るレオンを受け止め、膝に乗せる。話を続けようとしたレオンの唇を、指先でぴっと押さえた。これは黙っての合図、そう教えている。遊びや絵本を読んだ際の「おしまい」と一緒だ。レオンはそう覚えていた。

 黙ったレオンにきちんと教える。

「今は、お母様とお父様が話しているの。終わったら聞くから少し待ってね」

「うん」

 レオンは順番を守らなかったから、最後よ。そう伝えると、納得した。ただ叱りつけたら、お話をしなくなってしまう。幼いからと優先していたら、ただの我が侭なクソガキ様に育つから要注意ね。

「ごめんなさい、旦那様。今日のお話を聞かせてくださる?」

「……いいのか?」

 視線がレオンに向けられる。膝の上で大人しくお座りし、両手をもじもじしていた。レオンは自分が悪いことは察したけれど、謝るべきか迷っているみたいね。

「構いません。順番を飛ばしたレオンが悪いですし、何より旦那様の言葉を遮ってはいけません」

 親子だから、という理由ではない。誰かの話を最後まで聞けない者は、友人も作れないから。そう付け加えると、旦那様は痛そうな顔をした。何か心当たりがあるのかしら?

「おと、ちゃま。ごめんちゃい」

 旦那様が迷っていると、ぺこりと頭を下げた。旦那様が話さないのは、自分が邪魔したからと思ったのね。頭を撫でて、頬にちゅっとキスをした。

「許すわ、謝れて偉いわね。レオン」

 にこっとして、レオンはその笑顔を旦那様へ向けた。ぱちぱちと瞬いて、旦那様はぎこちなく笑う。笑顔を作ろうとした旦那様に再度促した。ようやく仕事での小さなやりとりを話し始める。

 仕事場で文官達の顔色が良くなったこと。夜休めることが嬉しいとお礼を告げられたこと。今まで無理をさせたと謝ったこと。

「まあ。文官達に謝ったのですか? それは良いことをなさいましたね」

 自分の非を認めて謝ることは難しい。それも旦那様のように、階級が上なら余計に……謝らなくても済む状況だった。公爵なら王族以外に頭を下げる義務はないのに、きちんと言葉にする。今後の仕事が潤滑に進むでしょうと褒めた。

「なかなか出来ることではありませんな。さすが公爵閣下だ」

「……ありが、とう。その……」

 言いづらそうな旦那様は、迷った末に言葉を呑み込んでしまった。

「次はレオンの順番だったな」

 嬉しそうにレオンは話し始めた。さっき口にした赤い花のことは忘れたようで、おやつが美味しかったことを身振り手振りで伝える。皆で話を聞き終えたので、最後は私ね。
しおりを挟む
感想 636

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

処理中です...