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61.遮って話してはいけないの
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団欒の中心は話を聞くこと。まずは双子が勉強の進捗状況を報告した。もう少し頑張りましょうと告げて、エルヴィンを促す。ちらりとレオンを確認すると、窓の外に夢中だった。
歴史の授業で覚えた部分を、自分なりの解釈で話す。覚えたことを口に出せば、考えが纏まりやすいし忘れにくいのよ。頷きながら説明を聞いて、最後に褒めた。我が家で繰り返してきた慣習に、お父様も口を開く。
それぞれの伸びた部分と課題点、屋敷で気付いた小さなことを教えてもらう。今日は玄関ホールの大きな鉢植えが交換された。庭師が頑張って、離れにある鉢植えも替えてくれたらしい。洗濯物を干す下女の歌が上手だったと締めくくられた。
「素敵ね。旦那様は何かございましたか?」
「ああ。今日は……」
「おかしゃま! あきゃいおはな、あれ」
興奮状態で駆け寄るレオンを受け止め、膝に乗せる。話を続けようとしたレオンの唇を、指先でぴっと押さえた。これは黙っての合図、そう教えている。遊びや絵本を読んだ際の「おしまい」と一緒だ。レオンはそう覚えていた。
黙ったレオンにきちんと教える。
「今は、お母様とお父様が話しているの。終わったら聞くから少し待ってね」
「うん」
レオンは順番を守らなかったから、最後よ。そう伝えると、納得した。ただ叱りつけたら、お話をしなくなってしまう。幼いからと優先していたら、ただの我が侭なクソガキ様に育つから要注意ね。
「ごめんなさい、旦那様。今日のお話を聞かせてくださる?」
「……いいのか?」
視線がレオンに向けられる。膝の上で大人しくお座りし、両手をもじもじしていた。レオンは自分が悪いことは察したけれど、謝るべきか迷っているみたいね。
「構いません。順番を飛ばしたレオンが悪いですし、何より旦那様の言葉を遮ってはいけません」
親子だから、という理由ではない。誰かの話を最後まで聞けない者は、友人も作れないから。そう付け加えると、旦那様は痛そうな顔をした。何か心当たりがあるのかしら?
「おと、ちゃま。ごめんちゃい」
旦那様が迷っていると、ぺこりと頭を下げた。旦那様が話さないのは、自分が邪魔したからと思ったのね。頭を撫でて、頬にちゅっとキスをした。
「許すわ、謝れて偉いわね。レオン」
にこっとして、レオンはその笑顔を旦那様へ向けた。ぱちぱちと瞬いて、旦那様はぎこちなく笑う。笑顔を作ろうとした旦那様に再度促した。ようやく仕事での小さなやりとりを話し始める。
仕事場で文官達の顔色が良くなったこと。夜休めることが嬉しいとお礼を告げられたこと。今まで無理をさせたと謝ったこと。
「まあ。文官達に謝ったのですか? それは良いことをなさいましたね」
自分の非を認めて謝ることは難しい。それも旦那様のように、階級が上なら余計に……謝らなくても済む状況だった。公爵なら王族以外に頭を下げる義務はないのに、きちんと言葉にする。今後の仕事が潤滑に進むでしょうと褒めた。
「なかなか出来ることではありませんな。さすが公爵閣下だ」
「……ありが、とう。その……」
言いづらそうな旦那様は、迷った末に言葉を呑み込んでしまった。
「次はレオンの順番だったな」
嬉しそうにレオンは話し始めた。さっき口にした赤い花のことは忘れたようで、おやつが美味しかったことを身振り手振りで伝える。皆で話を聞き終えたので、最後は私ね。
歴史の授業で覚えた部分を、自分なりの解釈で話す。覚えたことを口に出せば、考えが纏まりやすいし忘れにくいのよ。頷きながら説明を聞いて、最後に褒めた。我が家で繰り返してきた慣習に、お父様も口を開く。
それぞれの伸びた部分と課題点、屋敷で気付いた小さなことを教えてもらう。今日は玄関ホールの大きな鉢植えが交換された。庭師が頑張って、離れにある鉢植えも替えてくれたらしい。洗濯物を干す下女の歌が上手だったと締めくくられた。
「素敵ね。旦那様は何かございましたか?」
「ああ。今日は……」
「おかしゃま! あきゃいおはな、あれ」
興奮状態で駆け寄るレオンを受け止め、膝に乗せる。話を続けようとしたレオンの唇を、指先でぴっと押さえた。これは黙っての合図、そう教えている。遊びや絵本を読んだ際の「おしまい」と一緒だ。レオンはそう覚えていた。
黙ったレオンにきちんと教える。
「今は、お母様とお父様が話しているの。終わったら聞くから少し待ってね」
「うん」
レオンは順番を守らなかったから、最後よ。そう伝えると、納得した。ただ叱りつけたら、お話をしなくなってしまう。幼いからと優先していたら、ただの我が侭なクソガキ様に育つから要注意ね。
「ごめんなさい、旦那様。今日のお話を聞かせてくださる?」
「……いいのか?」
視線がレオンに向けられる。膝の上で大人しくお座りし、両手をもじもじしていた。レオンは自分が悪いことは察したけれど、謝るべきか迷っているみたいね。
「構いません。順番を飛ばしたレオンが悪いですし、何より旦那様の言葉を遮ってはいけません」
親子だから、という理由ではない。誰かの話を最後まで聞けない者は、友人も作れないから。そう付け加えると、旦那様は痛そうな顔をした。何か心当たりがあるのかしら?
「おと、ちゃま。ごめんちゃい」
旦那様が迷っていると、ぺこりと頭を下げた。旦那様が話さないのは、自分が邪魔したからと思ったのね。頭を撫でて、頬にちゅっとキスをした。
「許すわ、謝れて偉いわね。レオン」
にこっとして、レオンはその笑顔を旦那様へ向けた。ぱちぱちと瞬いて、旦那様はぎこちなく笑う。笑顔を作ろうとした旦那様に再度促した。ようやく仕事での小さなやりとりを話し始める。
仕事場で文官達の顔色が良くなったこと。夜休めることが嬉しいとお礼を告げられたこと。今まで無理をさせたと謝ったこと。
「まあ。文官達に謝ったのですか? それは良いことをなさいましたね」
自分の非を認めて謝ることは難しい。それも旦那様のように、階級が上なら余計に……謝らなくても済む状況だった。公爵なら王族以外に頭を下げる義務はないのに、きちんと言葉にする。今後の仕事が潤滑に進むでしょうと褒めた。
「なかなか出来ることではありませんな。さすが公爵閣下だ」
「……ありが、とう。その……」
言いづらそうな旦那様は、迷った末に言葉を呑み込んでしまった。
「次はレオンの順番だったな」
嬉しそうにレオンは話し始めた。さっき口にした赤い花のことは忘れたようで、おやつが美味しかったことを身振り手振りで伝える。皆で話を聞き終えたので、最後は私ね。
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