上 下
61 / 131

61.遮って話してはいけないの

しおりを挟む
 団欒の中心は話を聞くこと。まずは双子が勉強の進捗状況を報告した。もう少し頑張りましょうと告げて、エルヴィンを促す。ちらりとレオンを確認すると、窓の外に夢中だった。

 歴史の授業で覚えた部分を、自分なりの解釈で話す。覚えたことを口に出せば、考えが纏まりやすいし忘れにくいのよ。頷きながら説明を聞いて、最後に褒めた。我が家で繰り返してきた慣習に、お父様も口を開く。

 それぞれの伸びた部分と課題点、屋敷で気付いた小さなことを教えてもらう。今日は玄関ホールの大きな鉢植えが交換された。庭師が頑張って、離れにある鉢植えも替えてくれたらしい。洗濯物を干す下女の歌が上手だったと締めくくられた。

「素敵ね。旦那様は何かございましたか?」

「ああ。今日は……」

「おかしゃま! あきゃいおはな、あれ」

 興奮状態で駆け寄るレオンを受け止め、膝に乗せる。話を続けようとしたレオンの唇を、指先でぴっと押さえた。これは黙っての合図、そう教えている。遊びや絵本を読んだ際の「おしまい」と一緒だ。レオンはそう覚えていた。

 黙ったレオンにきちんと教える。

「今は、お母様とお父様が話しているの。終わったら聞くから少し待ってね」

「うん」

 レオンは順番を守らなかったから、最後よ。そう伝えると、納得した。ただ叱りつけたら、お話をしなくなってしまう。幼いからと優先していたら、ただの我が侭なクソガキ様に育つから要注意ね。

「ごめんなさい、旦那様。今日のお話を聞かせてくださる?」

「……いいのか?」

 視線がレオンに向けられる。膝の上で大人しくお座りし、両手をもじもじしていた。レオンは自分が悪いことは察したけれど、謝るべきか迷っているみたいね。

「構いません。順番を飛ばしたレオンが悪いですし、何より旦那様の言葉を遮ってはいけません」

 親子だから、という理由ではない。誰かの話を最後まで聞けない者は、友人も作れないから。そう付け加えると、旦那様は痛そうな顔をした。何か心当たりがあるのかしら?

「おと、ちゃま。ごめんちゃい」

 旦那様が迷っていると、ぺこりと頭を下げた。旦那様が話さないのは、自分が邪魔したからと思ったのね。頭を撫でて、頬にちゅっとキスをした。

「許すわ、謝れて偉いわね。レオン」

 にこっとして、レオンはその笑顔を旦那様へ向けた。ぱちぱちと瞬いて、旦那様はぎこちなく笑う。笑顔を作ろうとした旦那様に再度促した。ようやく仕事での小さなやりとりを話し始める。

 仕事場で文官達の顔色が良くなったこと。夜休めることが嬉しいとお礼を告げられたこと。今まで無理をさせたと謝ったこと。

「まあ。文官達に謝ったのですか? それは良いことをなさいましたね」

 自分の非を認めて謝ることは難しい。それも旦那様のように、階級が上なら余計に……謝らなくても済む状況だった。公爵なら王族以外に頭を下げる義務はないのに、きちんと言葉にする。今後の仕事が潤滑に進むでしょうと褒めた。

「なかなか出来ることではありませんな。さすが公爵閣下だ」

「……ありが、とう。その……」

 言いづらそうな旦那様は、迷った末に言葉を呑み込んでしまった。

「次はレオンの順番だったな」

 嬉しそうにレオンは話し始めた。さっき口にした赤い花のことは忘れたようで、おやつが美味しかったことを身振り手振りで伝える。皆で話を聞き終えたので、最後は私ね。
しおりを挟む
感想 335

あなたにおすすめの小説

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈 
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

夫が大変和やかに俺の事嫌い?と聞いてきた件について〜成金一族の娘が公爵家に嫁いで愛される話

はくまいキャベツ
恋愛
父親の事業が成功し、一気に貴族の仲間入りとなったローズマリー。 父親は地位を更に確固たるものにするため、長女のローズマリーを歴史ある貴族と政略結婚させようとしていた。 成金一族と揶揄されながらも社交界に出向き、公爵家の次男、マイケルと出会ったが、本物の貴族の血というものを見せつけられ、ローズマリーは怯んでしまう。 しかも相手も値踏みする様な目で見てきて苦手意識を持ったが、ローズマリーの思いも虚しくその家に嫁ぐ事となった。 それでも妻としての役目は果たそうと無難な日々を過ごしていたある日、「君、もしかして俺の事嫌い?」と、まるで食べ物の好き嫌いを聞く様に夫に尋ねられた。 (……なぜ、分かったの) 格差婚に悩む、素直になれない妻と、何を考えているのか掴みにくい不思議な夫が育む恋愛ストーリー。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

処理中です...