【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
60 / 274

60.なぜ正座?

しおりを挟む
 旦那様が王宮に詰めていた頃は、夕食後に絨毯の部屋で寛いだ。侍女達の目があるから、寝転んだりはしないけれど。靴を脱いだ状態で、足を伸ばして座ったわね。

 迷ったのは一瞬だけ。旦那様は絨毯の部屋で靴を脱ぐのも平気だったし、誘ってみよう。ダメならそう言ってくれると思う。冷たい人と思っていたけれど、話をすればきちんと聞いてくれた。何も知らない子供みたいに、新しいことに興味も持つ。普通の人なのよ、ただ人との接し方が不器用なだけ。

「旦那様、夕食後は絨毯のお部屋で寛ぎますの。ご一緒にいかがでしょう?」

「……いいのか」

「ええ、旦那様をお誘いしましたのよ」

 他でもないあなたに声をかけた。そう伝えたら、僅かに口元が緩んだ。喜んでもらえたみたい。言動も不器用だけれど、この整ったお顔も不器用なのね。表情を作って不機嫌そうにしているより、今のぎこちない笑顔の方がずっと素敵だわ。

「だん、にゃ……ちゃま」

「レオンのお父様よ」

 私の言葉を真似ようと、自分で頬を摘みながら頑張る幼子に、あなたの父親よと教える。

「おとちゃま!」

「ちゃんと覚えたのね、えらいわ」

 褒めるたびに、レオンは嬉しそうに笑う。この子は褒めると頑張れるタイプだから、たくさん褒めてあげたいわ。エルヴィンと同じタイプなのよ。逆に双子は叱らないと動かない。

「旦那様、絨毯のお部屋に移動しますわ」

 同行を躊躇う父達も一緒にと促して、立ち上がった。絨毯の部屋で、順番に靴を脱ぐ。伯爵家では、脱いだ靴は自分で整える。部屋を出る時に履きやすいよう、逆向きに並べた。私も同じように靴の向きを直す。

 きょとんとした旦那様も、見様見真似で靴を並べた。あたふたする侍女をよそに、フランクは満足げだ。いつもは家計や管理の書類に追われる家令も、今日は旦那様の付き添いに専念するようね。

 お茶の用意を頼み、私はやや奥の方へ座った。窓が近いため、抱っこから降りたレオンは窓へ走っていく。頭が大きいから不安定だけれど、転ばずに窓へ手をついた。ぺたりと手のひらを当てて、じっと外を眺める。

 ここは団欒用の部屋として用意されたため、庭を眺めるには最高の位置だった。水瓶を持つ乙女の像があり、下の噴水池に水が落ちる。手前に花壇があり、色とりどりの花が揺れていた。庭師渾身の眺めね。

「いつも通りでいいわよ」

 なぜか正座して座るエルヴィンと、真似て足の痺れた双子が転がっている。お父様も胡座をかかずに正座だった。畏まらなくていいと伝え、旦那様を見ると……。

「なぜ……正座?」

「せいざ……と言うのか。疲れる格好だ」

 皆がしたから真似したのでしょうけれど、正座ができなかった。普段しない姿勢で、前屈みに手をついて堪えている。私の崩した座り方は、スカートに阻まれて見えなかったのね。こうですよとスカートの足を上から押さえて、形を確認してもらった。

 横に崩して座ったが、まだ転がりそう。私が足を伸ばして座り、侍女にクッションを運んでもらった。その姿を確認し、旦那様は壁際に移動する。受け取ったクッションを壁に立て掛け、手前に座った。

 応用力がすごいわ。教えていないのに、転ばないよう壁を利用するなんて。勉強ができる人は違うわね。感心しながら、運ばれたお茶をいただいた。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...