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55.漠然とした不安があるみたい
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お昼までお勉強というお絵描きをして、レオンははふっと大きな欠伸をした。お昼寝まで時間があるけれど、先に寝かせちゃおうかしら。
まだ時間に縛られない生活の許されるレオンは、日当たりのいい絨毯の上に寝転ぶ。うとうとする姿を見守っていると、ぱっと目を開いた。むくりと起き上がり、周囲を見回す。
「どうしたの?」
「……いないくない?」
痛くないと尋ねられたの? ひとまず「いいえ」と答えて、もう一度言葉を頭の中で確認する。いなくならない? と聞いたのね。
「ここにいるわ」
「……て、ぎゅっとして」
言われるまま手を握る。何か不安になっているみたい。眠い子供って温かいわね。しっかり手を握り、頬に押し当てた。にこりと笑って、レオンはまた目を閉じる。やっぱり寝ちゃうのかな。
隣に寝転び、レオンの顔を正面から見つめる。紫の瞳が見えないと、人形みたいだわ。長いまつ毛が頬に落ちて、不思議と大人びて見えた。一般的には目を閉じると幼く見えるんだけど。将来は丸い頬がしゅっとして、赤い唇は少し色が薄くなるのよね。
あら、絶世の美少年じゃないの。傾国になっちゃいそう。ふふっと笑う私に、レオンの寝息が聞こえてきた。後ろから忍び寄ったリリーが、上掛けをレオンに掛ける。
「奥様、ベッドに移動しましょうか」
「そうね……いえ、このままでいいわ」
抱き上げたら起こしてしまいそう。ぽかぽかする日差しの柔らかな午後、お腹がいっぱいだと眠気を誘われるわ。レオンと繋いだ手が、ふと気になった。
ここ最近は落ち着いていたのに、どうして不安になったのかしら。一人でお昼寝したこともあるのに、急に起きてまで手を繋ごうとするなんて。考えてみたものの、特に理由も思いつかない。
可愛い寝顔をしっかり堪能し、私も少しだけ休んだ。午後からお散歩したいと言っていたし、体力を回復しておかないとね。
「おか、しゃま! おきてぇ」
ぺちぺちと頬を叩かれ、目を開ける。驚く距離にレオンの顔があって、ぼやけて見えた。
「レオン? もう起きたのね」
「うん。おにわ、いく」
散歩に行こうと誘うレオンは、まだ手を繋いでいた。しっかり握っていたのが嬉しいようで、その手をゆらゆら左右に揺らす。起きたら、リリーにスカートを直された。結構しっかり寝てしまったようで、肩が痛いわ。
屋敷の敷地から出ないし、着替えるほどではない。彼女達にそう告げて、一緒に庭へ出た。並んで靴を履くと、また手を繋ぎたがる。快く受け入れ、庭の花を眺めながら木陰まで移動した。
疲れたようで足取りが重くなったレオンを抱き上げ、少し先の林まで行く。手前で戻る私の首にレオンが手を回した。ぎゅっと抱きつく姿は、年齢以上に幼く感じる。
変ね、赤ちゃん返りに似た行動の原因は何かしら。考えながらぽんぽんと背中を叩く。きっと漠然とした不安だろうから、聞いても原因がわからないでしょう。
「レオン、お母様はずっとレオンが好きよ。一緒にいるわ」
「……じゅっと?」
「ええ、ずっと」
不安を和らげるのが先決よね。ゆっくりした口調で言い聞かせながら、歩調も緩めた。レオンは私の髪を一房握り、小さく頷く。伝わったみたいね。
まだ時間に縛られない生活の許されるレオンは、日当たりのいい絨毯の上に寝転ぶ。うとうとする姿を見守っていると、ぱっと目を開いた。むくりと起き上がり、周囲を見回す。
「どうしたの?」
「……いないくない?」
痛くないと尋ねられたの? ひとまず「いいえ」と答えて、もう一度言葉を頭の中で確認する。いなくならない? と聞いたのね。
「ここにいるわ」
「……て、ぎゅっとして」
言われるまま手を握る。何か不安になっているみたい。眠い子供って温かいわね。しっかり手を握り、頬に押し当てた。にこりと笑って、レオンはまた目を閉じる。やっぱり寝ちゃうのかな。
隣に寝転び、レオンの顔を正面から見つめる。紫の瞳が見えないと、人形みたいだわ。長いまつ毛が頬に落ちて、不思議と大人びて見えた。一般的には目を閉じると幼く見えるんだけど。将来は丸い頬がしゅっとして、赤い唇は少し色が薄くなるのよね。
あら、絶世の美少年じゃないの。傾国になっちゃいそう。ふふっと笑う私に、レオンの寝息が聞こえてきた。後ろから忍び寄ったリリーが、上掛けをレオンに掛ける。
「奥様、ベッドに移動しましょうか」
「そうね……いえ、このままでいいわ」
抱き上げたら起こしてしまいそう。ぽかぽかする日差しの柔らかな午後、お腹がいっぱいだと眠気を誘われるわ。レオンと繋いだ手が、ふと気になった。
ここ最近は落ち着いていたのに、どうして不安になったのかしら。一人でお昼寝したこともあるのに、急に起きてまで手を繋ごうとするなんて。考えてみたものの、特に理由も思いつかない。
可愛い寝顔をしっかり堪能し、私も少しだけ休んだ。午後からお散歩したいと言っていたし、体力を回復しておかないとね。
「おか、しゃま! おきてぇ」
ぺちぺちと頬を叩かれ、目を開ける。驚く距離にレオンの顔があって、ぼやけて見えた。
「レオン? もう起きたのね」
「うん。おにわ、いく」
散歩に行こうと誘うレオンは、まだ手を繋いでいた。しっかり握っていたのが嬉しいようで、その手をゆらゆら左右に揺らす。起きたら、リリーにスカートを直された。結構しっかり寝てしまったようで、肩が痛いわ。
屋敷の敷地から出ないし、着替えるほどではない。彼女達にそう告げて、一緒に庭へ出た。並んで靴を履くと、また手を繋ぎたがる。快く受け入れ、庭の花を眺めながら木陰まで移動した。
疲れたようで足取りが重くなったレオンを抱き上げ、少し先の林まで行く。手前で戻る私の首にレオンが手を回した。ぎゅっと抱きつく姿は、年齢以上に幼く感じる。
変ね、赤ちゃん返りに似た行動の原因は何かしら。考えながらぽんぽんと背中を叩く。きっと漠然とした不安だろうから、聞いても原因がわからないでしょう。
「レオン、お母様はずっとレオンが好きよ。一緒にいるわ」
「……じゅっと?」
「ええ、ずっと」
不安を和らげるのが先決よね。ゆっくりした口調で言い聞かせながら、歩調も緩めた。レオンは私の髪を一房握り、小さく頷く。伝わったみたいね。
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