49 / 274
49.家族の範囲はどこまで?
しおりを挟む
結婚式後もすぐに王宮へ向かったし、滅多に屋敷に戻らない。だから平和な生活が送れると安心していたのに……。
玄関ホールでレオンを抱いて待つ。何が起きているかわからないレオンは、周囲を見回して人が多いことに目を丸くした。
「おまちゅい?」
ふふっと笑い、勘違いを正す。
「違うわ、レオンのお父様が帰ってきたの」
「ふーん」
興味はなさそうね。まあ、向こうが興味を示さなかったんだし、今までのツケだわ。旦那様が無視されるのはいいけれど、レオンが叱られないように教えないと困るわ。
「お父様はこのお屋敷のお金やご飯のお金を出してくれる人よ。仲良しでなくても、お礼は言いましょうね」
以前も私を真似ていたから、手本を示せば大丈夫よね。紫の大きな目をぱちくりと瞬き、レオンは素直に頷いた。
「おかえりなさいませ、旦那様」
扉が開いて、家令フランクが代表で声をかける。使用人達が一様に腰を折った。私は妻なので、深く頭を下げる必要はない。レオンを抱いているから、危ないし。
「旦那様、お仕事お疲れ様でした」
同じ言葉を復唱するのも芸がないので、表現を変えてみる。お帰りなさいと歓迎する意図はない。疲れたでしょうと労うだけ。微笑んでの会釈に、レオンは首だけぺこりと下げた。
言葉が長いから? ぎゅっと私の首に手を回す仕草からして、怖いのね。以前にそんなことを言っていたわ。旦那様のお邪魔でしょうから、早めに立ち去りましょう。
夕食は部屋で取ろうかしら。ベルントかフランクに尋ねて、旦那様が自室で食べるなら食堂を使おうと考えた。踵を返して数歩で、後ろから声がかかる。
「夕食は家族で摂ろう」
「家族、ですか?」
どこまで含んでの意味か。私を除いてレオンだけの可能性もある。
「ああ」
短い返事だけで、旦那様は階段を登る。踊り場で止まり、不思議そうに振り返った。小首を傾げれば、何も言わずにそのまま二階へ消える。
「フランク」
「はい、奥様」
「家族で食事と言ったわよね?」
「はい」
沈黙が落ちる。フランクも初めての事態に混乱しているのか、いつも打てば響く対応がなかった。無言で見つめ合う。
旦那様がいなくなって気楽になったのか、レオンは私の耳たぶを弄り始めた。指先で摘んだり引っ張ったり、その刺激で我に返る。
「家族って、どこまでかしら」
「……申し訳ございません、わかりかねます」
旦那様の家族……書類上なら妻の私、息子のレオンまで。違う意味がある? でも礼儀作法の勉強中の双子は呼べない。エルヴィンも緊張するだろうし、お父様だけ呼ぶのも変よね。
「三人で用意しましょう」
全員集めてしまって、後で文句を言われるよりマシだった。ケンプフェルト公爵家の家名を持つ者という意味なら、お父様達は巻き込まないで済む。
料理長への伝言を頼み、私は絨毯が敷かれた居間へ向かった。靴を脱がせたレオンが、元気に走る。隅に置いた積み木の箱を引き寄せ、中身を取り出し始めた。手招きされて隣で積み木を弄る。もう角取りと色塗りが終わったのね。あとでフランクにお礼を言わなくちゃ。
玄関ホールでレオンを抱いて待つ。何が起きているかわからないレオンは、周囲を見回して人が多いことに目を丸くした。
「おまちゅい?」
ふふっと笑い、勘違いを正す。
「違うわ、レオンのお父様が帰ってきたの」
「ふーん」
興味はなさそうね。まあ、向こうが興味を示さなかったんだし、今までのツケだわ。旦那様が無視されるのはいいけれど、レオンが叱られないように教えないと困るわ。
「お父様はこのお屋敷のお金やご飯のお金を出してくれる人よ。仲良しでなくても、お礼は言いましょうね」
以前も私を真似ていたから、手本を示せば大丈夫よね。紫の大きな目をぱちくりと瞬き、レオンは素直に頷いた。
「おかえりなさいませ、旦那様」
扉が開いて、家令フランクが代表で声をかける。使用人達が一様に腰を折った。私は妻なので、深く頭を下げる必要はない。レオンを抱いているから、危ないし。
「旦那様、お仕事お疲れ様でした」
同じ言葉を復唱するのも芸がないので、表現を変えてみる。お帰りなさいと歓迎する意図はない。疲れたでしょうと労うだけ。微笑んでの会釈に、レオンは首だけぺこりと下げた。
言葉が長いから? ぎゅっと私の首に手を回す仕草からして、怖いのね。以前にそんなことを言っていたわ。旦那様のお邪魔でしょうから、早めに立ち去りましょう。
夕食は部屋で取ろうかしら。ベルントかフランクに尋ねて、旦那様が自室で食べるなら食堂を使おうと考えた。踵を返して数歩で、後ろから声がかかる。
「夕食は家族で摂ろう」
「家族、ですか?」
どこまで含んでの意味か。私を除いてレオンだけの可能性もある。
「ああ」
短い返事だけで、旦那様は階段を登る。踊り場で止まり、不思議そうに振り返った。小首を傾げれば、何も言わずにそのまま二階へ消える。
「フランク」
「はい、奥様」
「家族で食事と言ったわよね?」
「はい」
沈黙が落ちる。フランクも初めての事態に混乱しているのか、いつも打てば響く対応がなかった。無言で見つめ合う。
旦那様がいなくなって気楽になったのか、レオンは私の耳たぶを弄り始めた。指先で摘んだり引っ張ったり、その刺激で我に返る。
「家族って、どこまでかしら」
「……申し訳ございません、わかりかねます」
旦那様の家族……書類上なら妻の私、息子のレオンまで。違う意味がある? でも礼儀作法の勉強中の双子は呼べない。エルヴィンも緊張するだろうし、お父様だけ呼ぶのも変よね。
「三人で用意しましょう」
全員集めてしまって、後で文句を言われるよりマシだった。ケンプフェルト公爵家の家名を持つ者という意味なら、お父様達は巻き込まないで済む。
料理長への伝言を頼み、私は絨毯が敷かれた居間へ向かった。靴を脱がせたレオンが、元気に走る。隅に置いた積み木の箱を引き寄せ、中身を取り出し始めた。手招きされて隣で積み木を弄る。もう角取りと色塗りが終わったのね。あとでフランクにお礼を言わなくちゃ。
2,067
お気に入りに追加
4,249
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。
久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。
※一話完結です。
ゆるゆる設定です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる