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46.多少のお行儀悪さも楽しみのうち

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 飲み込むまでに時間がかかったけれど、味は美味しいわ。双子は違う肉に手を伸ばし、エルヴィンは菜っ葉に包んでぱくり。お父様はエールを楽しんでいる。そうよね、歩いて帰るわけじゃないし……飲みたいけれど。

 庶民のお酒であるエールを、お祭りで味見するのは叱られないと思う。ただ、私はお酒に弱い。前世は飲める方だったが、今は下戸に近かった。この世界の成人は男女ともに十六歳だ。私も成人してすぐにワインを口にした。

 結果は惨敗、まさかのグラス一杯で撃沈したの。翌日も軽い頭痛と吐き気が残り、最悪の気分だった。前世の記憶がワインよりエールの方が軽いと告げるけれど……無理だわ。抱っこしたレオンを落とす可能性があるもの。

 レオンの小さな口はまだ塞がっており、もぐもぐと顎が上下する。もしかして、噛みきれないから困っている? 私に背を向けた形のレオンを、横向きに抱き直した。それから顔の横に手を添えて隠し、尋ねる。

「無理ならぺっ、していいわよ」

 綿のハンカチを広げて、ほら、と促す。すると唇が尖った。レオンの目は、双子を捉えていた。次の肉を頬張り、噛むのもそこそこに飲み込む。あまり肉を買ってあげられなかったから、肉ってだけで興奮しているのね。

 レオンはまだ噛んでいる。あの子達くらいの年齢なら飲んでも平気だろう。でも、レオンは幼い。無理をして喉を詰まらせたら……想像だけでぞっとした。

「うっく」

 変な声がして、レオンの喉がごくりと動く。凝視する私の前に、ベルントがジュースのコップを置いた。小さなレオンの手がコップへ伸びる。

 入っているのは、ごく普通のオレンジジュースだ。一緒に口元まで運び、ゆっくり飲む姿に頬を緩める。大丈夫そうね。林檎とオレンジを見比べ、レオンの期待の眼差しに応えてオレンジを選んだ。

「おんなじ!」

「ええ、同じオレンジジュースよ」

 機嫌のいいレオンは、次の食べ物を目で探す。自由にさせながら、食べたい物を教えてもらおうと顔を寄せた。

「おかあちゃま! これぇ」

 大きな魚の串焼きを食べたいと強請り、ベルントが解すのを楽しそうに待つ。

「レオン様、お魚食べるの? 私も欲しいわ」

 ユリアーナが欲しがり、全員で分け合うことにした。私の肘から指先ほどもある大きな魚が、食べやすい大きさになって皿に並ぶ。目の前に運ばれた白身魚は、塩をまぶして焼いたのね。白い塩の粒が見えた。

 毒見の後に、今度は私が温度を確かめる。少し熱いかしら。ふーっと息を吹きかけて冷まし、フォークで掬った。

「レオン、あーん」

「あーっ、ん」

 一口で魚を頬張ったレオンは、両手で頬を押さえた。これは熱かったんじゃなく、美味しかった時の仕草ね。天使の笑顔を振り撒く幼子の唇が、魚の脂で艶々だ。拭こうと思ったが、その前にぺろりと舐められた。

 お行儀が悪いけれど……ここは叱る場面ではないわね。何より……ユリアンの真似をしたみたいだし。先にユリアンの作法を直さなくてはダメね。兄や姉が出来た認識のレオンは、三人の真似をしたがる。

 伯爵家以上のマナーを覚えてもらわないと……レオンが真似して覚えちゃうわ。くすくす笑いながら、二口目をレオンに差し出した。
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