【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
45 / 274

45.二度目のお祭りは串肉から

しおりを挟む
 着替えたレオンのシャツは柔らかなピンク色、半ズボンは青だった。空色とも違う、やや紫がかった深い青はピンクとの相性も最高だ。

 リリーの提案で、まさかのピンクワンピースを着用することになり、なんとなく人目が気になる。年齢的には十八歳なので、若いと思うけれど……子供のいる既婚者な訳だし。ドレスなら夜会に合わせてとか言い訳ができる。でも私服のワンピースだと、ちょっと……ね?

 そんな言い訳も、レオンの「おなし!」の一言で吹き飛んだ。ええ、レオンのためならピンクも問題なし。柔らかい桜色なので、おかしくないはず。結い上げた金髪は、キラキラ感がない。シュミット家は全員、色褪せた金髪だった。

 お母様は綺麗な金髪だったのに、家族は誰も受け継がなかったのよね。非常に残念だわ。お母様が絹糸の髪なら、私達は綿糸って感じだ。赤い宝玉の付いた髪留めで纏めた。レオンは、自分のシャツの赤いボタンを指差す。

「おかあ、しゃま! おなじ!」

 ゆっくり区切って話すレオンは、心から幸せそうに笑う。揺れる馬車で転がらないよう、抱っこしての移動だった。今日も馬車置き場で降りて、護衛に囲まれたまま歩く。レオンは歩きたいと言わないので、そのまま抱っこだった。

 すれ違う中に、貴族夫人や貴族令嬢の華やかな一行もいる。互いに目配せして軽い会釈、その後は挨拶せず離れた。事前にフランクに言われた通り、こういった場では見なかったことになるのね。

 知り合いなら言葉を交わすのかもしれない。貴族社会に知り合いはほぼいないので、気軽だった。公爵夫人としては問題かしら。

 何軒か出店を覗き、いくつか指示を出す。同行したベルントが注文をまとめて、料理を手配した。よくあるお忍びなら、買い食いも出来るんでしょうけれど。公爵家御一行様と看板を掲げたような状況では、さすがに無理だったわ。

 経験させてあげたいけれど、公爵家の面目を潰す事態は避けたい。護衛以外についてきた侍従が、手早く場所を整えた。広場にあるテーブルや椅子は自由に使える。その一角に、クッションやテーブルクロスを使用した豪勢な野外食堂が現れた。

 やり過ぎじゃないかしら。そう思ったけれど、見回すと他にも同様の場所がある。ベルントに尋ねると、伯爵令嬢御一行だったり、子爵家のご家族だったりした。問題なさそうね。テントを張られないだけ、よかったわ。

 手配された料理が届くと、順番に味見……ではなく、毒見がされる。私達シュミット伯爵家だけなら必要ないけれど、ケンプフェルト公爵家には省けない手順ね。大人しく待つレオンの黒髪を撫でた。

 温かいうちにと急がせたベルントのお陰で、串焼きが皿に並んだ。丁寧に串を抜かれ、カトラリーを添えて提供される。変な顔をしているのはエルヴィンと双子達。今までなら「気をつけるのよ」と串ごと渡されたのに。

「いただきましょう」

 微笑んで、一口サイズにカットした肉を、レオンへ運ぶ。ぱくりと口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。考え事をするように斜め上を見ながら、右へ左へ、頬が膨らんだ。噛み切れないんでしょう? ふふっと笑い、私も口に入れた。思ったより硬いわね。切る時はあまり感じなかったけど……。

 同様に家族も無言になり、必死に咀嚼する。周囲は騒がしいのに、テーブルは静まり返った。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

処理中です...