上 下
39 / 131

39.前提から確認しますわ

しおりを挟む
 屋敷に到着し、まずシュミット伯爵家の四人を離れに帰す。心配したお父様は付き添うと言ってくれたけれど、遠慮してもらう。これは私と旦那様の夫婦間の問題だもの。

 レオンも部屋に戻す。夫婦喧嘩……になるかどうか不明だけれど、両親の不仲を見せる必要はない。テキパキと采配し、頭を下げて待つフランクを手招きした。神妙な顔で近づく彼に、ぴしゃりと言い渡す。

「外へ出すよう命じたはずよ」

「旦那様がご帰宅され、屋敷内に留めるようにと申されました」

 家計の権限や人事権を持つのは女主人でも、一族の当主は旦那様だ。公爵である旦那様の命令には逆らえない。ならば別の方法で追い出すだけね。

「マーサ、レオンを任せます」

 お祭りで様々な食べ物を口にした。昼食はいらないけれど、お昼寝の時間だった。私以外の誰も入れないよう伝える。一礼してレオンの部屋に向かう彼女を見送り、顔色の青いイルゼにお茶を頼む。現在、居間は絨毯の部屋になっているため、食堂を指定した。

 旦那様の一言で、執務室へ変更になる。見まわした限り、前公爵の姿がない。なら、きっと旦那様の執務室ね。先を歩く旦那様について、執務室へ足を踏み入れた。普段は用がないので、掃除担当の侍女か執事くらいしか入らない。

「やっときたか、無礼な小娘が!」

「あら、女一人罵るのに援軍が必要でしたのね。それで、どちら様かしら」

 まだ名乗られていない前公爵が、怒鳴るように声を張り上げる。旦那様はむっとした顔ながら、まずは椅子に腰掛けることを優先した。この扱いで親子仲が想像つくわね。

「アマーリア、発言に気をつけろ」

「失礼ですが、旦那様。私はこの公爵邸の女主人です。そこはご理解いただいていますか?」

 前提条件から確認する。

「だからと言って、先代に無礼を働く理由にはならん」

「先代公爵と仰いますが、私は初対面ですわ」

 結婚式に、公爵家の親族はいなかった。私の父と上の弟は参加したが、ほとんど参列者もいない。その状況で見落としはないだろう。結婚前の家族同士の顔合わせも行っていない。

「突然屋敷に現れた、不審な老人を外へ出すよう命じるのは、私の役職の権限内ですわ」

 驚いた顔で固まったあと、何やら騒ぐ父親を睨む。旦那様もさすがにうるさいと思ったのね。無礼だの、失礼だの。こんな女は返せ、交換だと騒いでいますが、私には正当な理由がありますのよ。

「紹介していなかったか」

「ええ、その上で名乗りもしない方です。かつて閣下と呼ばれる地位にあったとは到底思えませんわ」

 ノックの音がして、お茶を運ぶイルゼが入室する。手早く全員分の紅茶を用意して壁際に控えた。さり気なく居座る気ね。

「それは……父上が悪い」

「ええ、可愛いレオンに危害を加えた経歴があり、怯える幼子を守るのに手一杯でした」

 危害を加えたの部分で、旦那様は目を見開く。驚いた表情を見る限り、ご存知なかったの? なんて怠慢でしょう。
しおりを挟む
感想 335

あなたにおすすめの小説

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈 
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。

鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
 共に伯爵家の令嬢と令息であるアミカとミッチェルは幸せな結婚式を挙げた。ところがその夜ミッチェルの体調が悪くなり、二人は別々の寝室で休むことに。  その翌日、アミカは偶然街でミッチェルと自分の友人であるポーラの不貞の事実を知ってしまう。激しく落胆するアミカだったが、侯爵令息のマキシミリアーノの助けを借りながら二人の不貞の証拠を押さえ、こちらの有責にされないように離婚にこぎつけようとする。  ところが、これは白い結婚だと不貞の相手であるポーラに言っていたはずなのに、日が経つごとにミッチェルの様子が徐々におかしくなってきて───

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

処理中です...