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37.楽しかったのに台無しよ
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お祭りへ行く準備を整え、護衛騎士を連れて馬車に乗り込む。公爵家の家紋が入った馬車は、私とレオン用で執事ベルントが同乗した。家族には別の馬車が用意される。
扉を閉める前に、留守番のフランクによく言い聞かせた。私達が戻る前に、前公爵を屋敷から追い出すこと。旦那様へは事後報告で連絡すること。承諾して恭しく頭を下げるフランクの見送りで、馬車はゆっくり動き出した。
お祭りがあるから、街の中心街まで馬車が入ることは出来ない。手前にある馬車置き場で降り、歩いて移動だった。馬車を守る衛兵がいるが、御者も残る。一緒に行かないのかと問うレオンは、屋敷での怯えた姿が嘘のよう。
「彼はお仕事なの」
きちんと説明する私に頷き、抱っこされたレオンは右手を振った。バイバイの仕草に、微笑んだ御者も小さく手を振り返す。大喜びで、レオンは両手を振った。
「落ちちゃうわ」
抱っこし直し、レオンの顔を正面に向ける。たくさんの人に目を見開いて驚いた顔をするレオンだが、泣き出すようなことはなかった。きょろきょろと忙しなく周囲を見回す。
「お姉様、私は飴が欲しいわ」
「僕はあれがいい」
ユリアーナはきらきらした飴細工に夢中で、ユリアンは木製の剣に興味を示した。両方立ち寄り、それぞれに買い与える。レオンは苺の飴を口に入れ、ご機嫌だった。蝶々や花の豪華な飴は、べルントが纏めて購入する。
綺麗な蝶々の飴を口に咥えて、揺れた際に刺さったら大変だもの。屋敷に戻ってゆっくり眺めたり味わったりできるよう、多めに選んだ。使用人へのお土産にしてもいいし。
木製の剣はレオンのお気に召さないみたいね。隣に並ぶ木製の馬に大喜びだった。これも購入してベルントに預ける。
「おう、ま!」
「屋敷に帰ったら遊んでいいわ。今は我慢ね」
木製の玩具って意外と重いのよね。落としたら可哀想だし、人にぶつかったら困るわ。後でと言い聞かせ、さらにお祭りを楽しむ。貴族が遊びに来ることが多いみたいで、街の人は慣れていた。護衛が取り巻く私達に会釈しながら、そっと避けてくれる。
治安がいい証拠だわ。小粒の金平糖に似た砂糖菓子やアクセサリー、鏡、花。いろんな品を見て歩いた。大道芸の人もいて、美しい声で歌う女性の周りは一際大きな輪が出来ている。
回り切るには広過ぎる会場で、大通りを抜けて一つ隣の通りへ抜けた。ここから戻って、馬車置き場へ向かおう。はしゃいで興奮するレオンが疲れる前に終わりにしたいわ。もう少し遊びたかったくらいの方が、楽しい思い出になるもの。
メインの大通りより落ち着いた人の波を抜ける私は、ベルントの叫びに立ち止まった。
「奥様っ! 旦那様が」
「え?」
足を止める私の肩を、男性の手が掴む。しかし、その手は執事ベルントではなかった。
「旦那、さま?」
ほとんど顔を合わせた覚えのない夫が、鬼の形相で私を睨んでいた。
扉を閉める前に、留守番のフランクによく言い聞かせた。私達が戻る前に、前公爵を屋敷から追い出すこと。旦那様へは事後報告で連絡すること。承諾して恭しく頭を下げるフランクの見送りで、馬車はゆっくり動き出した。
お祭りがあるから、街の中心街まで馬車が入ることは出来ない。手前にある馬車置き場で降り、歩いて移動だった。馬車を守る衛兵がいるが、御者も残る。一緒に行かないのかと問うレオンは、屋敷での怯えた姿が嘘のよう。
「彼はお仕事なの」
きちんと説明する私に頷き、抱っこされたレオンは右手を振った。バイバイの仕草に、微笑んだ御者も小さく手を振り返す。大喜びで、レオンは両手を振った。
「落ちちゃうわ」
抱っこし直し、レオンの顔を正面に向ける。たくさんの人に目を見開いて驚いた顔をするレオンだが、泣き出すようなことはなかった。きょろきょろと忙しなく周囲を見回す。
「お姉様、私は飴が欲しいわ」
「僕はあれがいい」
ユリアーナはきらきらした飴細工に夢中で、ユリアンは木製の剣に興味を示した。両方立ち寄り、それぞれに買い与える。レオンは苺の飴を口に入れ、ご機嫌だった。蝶々や花の豪華な飴は、べルントが纏めて購入する。
綺麗な蝶々の飴を口に咥えて、揺れた際に刺さったら大変だもの。屋敷に戻ってゆっくり眺めたり味わったりできるよう、多めに選んだ。使用人へのお土産にしてもいいし。
木製の剣はレオンのお気に召さないみたいね。隣に並ぶ木製の馬に大喜びだった。これも購入してベルントに預ける。
「おう、ま!」
「屋敷に帰ったら遊んでいいわ。今は我慢ね」
木製の玩具って意外と重いのよね。落としたら可哀想だし、人にぶつかったら困るわ。後でと言い聞かせ、さらにお祭りを楽しむ。貴族が遊びに来ることが多いみたいで、街の人は慣れていた。護衛が取り巻く私達に会釈しながら、そっと避けてくれる。
治安がいい証拠だわ。小粒の金平糖に似た砂糖菓子やアクセサリー、鏡、花。いろんな品を見て歩いた。大道芸の人もいて、美しい声で歌う女性の周りは一際大きな輪が出来ている。
回り切るには広過ぎる会場で、大通りを抜けて一つ隣の通りへ抜けた。ここから戻って、馬車置き場へ向かおう。はしゃいで興奮するレオンが疲れる前に終わりにしたいわ。もう少し遊びたかったくらいの方が、楽しい思い出になるもの。
メインの大通りより落ち着いた人の波を抜ける私は、ベルントの叫びに立ち止まった。
「奥様っ! 旦那様が」
「え?」
足を止める私の肩を、男性の手が掴む。しかし、その手は執事ベルントではなかった。
「旦那、さま?」
ほとんど顔を合わせた覚えのない夫が、鬼の形相で私を睨んでいた。
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