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35.幸せな朝を台無しにする敵
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お祭りがよほど楽しみだったのか、家族全員が早々に休んだ。お陰で、いつもより早い時間に目が覚める。
「おかあしゃま、おまちゅい!」
「お祭り、楽しみね」
今まで足りなかった言葉を浴びて、少しずつ自分から話すようになってきた。発音がおかしくても、舌足らずでも指摘はしない。まずは話せるようになることから始めるの。いっぱい話せるようになれば、徐々に発音は直ってくるでしょう。
私と一緒に眠るのが当たり前になったレオンは、ずりずりとお尻で移動してベッドから降りる。まだ高さが怖いのか、縁でうつ伏せになって降りるのよね。侍女のマーサやリリーにも可愛いと評判で、落ちないよう見守るだけにしていた。
抱っこして下ろしてしまったら、この可愛さが堪能できないでしょ? それに、自主的に行う行為は無理に止めない。無理なら手伝って、と言えるようにならないとね。
今日も頑張って足の先から下り、とたとた走って鏡の前に座る。低い椅子が用意してあるので、そこで顔を洗うのだ。手を濡らして、顔をちょっと撫でる。リリーが濡れタオルでしっかり拭き取った。
「若様、ご立派ですよ」
褒められて、嬉しそうに走って戻ってきた。受け止めて抱き上げ、部屋の隅にある絨毯に下ろす。ここで着替えをするのだ。衝立が用意された一角で、両手を挙げて脱がせてもらい、すぐにシャツやズボンを身につけた。
貴族の若様って、半ズボンが基本みたいね。ベルント達が用意した服は、ほとんどが半ズボンとシャツだった。女性用ブラウスのように、袖や襟が凝っている。さすがにレースは少ないけれど、刺繍は施されていた。
明らかに高そうな服だけど、抱っこで移動するから問題ないわね。水色のシャツと紺色のズボンを身につけたレオンに合わせ、私も紺色のワンピースにした。水色のリボンをウエストと髪に結ぶ。
「おなち! おなちいろ」
お揃いだと喜ぶレオンが可愛い。今日は家族も準備があるので、二人だけの朝食だ。食べ始めてすぐ、玄関が騒がしくなった。お父様達ならベルントもこちらへ通すはずだし、誰かお客様かしら?
まだ食べ終わっていないので、食堂から出られない。いえ、出てもいいのだけど……お行儀が悪いわ。緊急事態なら、誰かが呼びに来るでしょう。もぐもぐと口を動かすレオンは、外の騒動は気にしていなかった。大物になるわね……親バカを発揮しながら、パンを咀嚼する。
バタン、突然開いた扉に顔を上げる。部屋の一番奥、向かって右側に座っているため、出入り口は遠かった。見知らぬ男性が立っている。初老と表現するのが相応しい、白髪が半分の黒髪、キツイ印象を与える切れ長の目元。旦那様に少し似ているかも。
「どちら様?」
「義父への挨拶がそれかっ! 玄関まで出迎えぬのは何事だ」
首を傾げた私に、怒鳴り声が返ってきた。びくりと身を震わせたレオンが、ぎゅっとしがみ付く。義父……ああ、この方が旦那様のお父様ね。首に顔を埋めて震えるレオンの黒髪を撫でながら、ゆっくりと立ち上がった。
私の可愛いレオンを叱りつけ、怯えさせ、言葉を封じた……諸悪の根源! 完全に敵認定させてもらうわ。受けて立ってやろうじゃない。
「おかあしゃま、おまちゅい!」
「お祭り、楽しみね」
今まで足りなかった言葉を浴びて、少しずつ自分から話すようになってきた。発音がおかしくても、舌足らずでも指摘はしない。まずは話せるようになることから始めるの。いっぱい話せるようになれば、徐々に発音は直ってくるでしょう。
私と一緒に眠るのが当たり前になったレオンは、ずりずりとお尻で移動してベッドから降りる。まだ高さが怖いのか、縁でうつ伏せになって降りるのよね。侍女のマーサやリリーにも可愛いと評判で、落ちないよう見守るだけにしていた。
抱っこして下ろしてしまったら、この可愛さが堪能できないでしょ? それに、自主的に行う行為は無理に止めない。無理なら手伝って、と言えるようにならないとね。
今日も頑張って足の先から下り、とたとた走って鏡の前に座る。低い椅子が用意してあるので、そこで顔を洗うのだ。手を濡らして、顔をちょっと撫でる。リリーが濡れタオルでしっかり拭き取った。
「若様、ご立派ですよ」
褒められて、嬉しそうに走って戻ってきた。受け止めて抱き上げ、部屋の隅にある絨毯に下ろす。ここで着替えをするのだ。衝立が用意された一角で、両手を挙げて脱がせてもらい、すぐにシャツやズボンを身につけた。
貴族の若様って、半ズボンが基本みたいね。ベルント達が用意した服は、ほとんどが半ズボンとシャツだった。女性用ブラウスのように、袖や襟が凝っている。さすがにレースは少ないけれど、刺繍は施されていた。
明らかに高そうな服だけど、抱っこで移動するから問題ないわね。水色のシャツと紺色のズボンを身につけたレオンに合わせ、私も紺色のワンピースにした。水色のリボンをウエストと髪に結ぶ。
「おなち! おなちいろ」
お揃いだと喜ぶレオンが可愛い。今日は家族も準備があるので、二人だけの朝食だ。食べ始めてすぐ、玄関が騒がしくなった。お父様達ならベルントもこちらへ通すはずだし、誰かお客様かしら?
まだ食べ終わっていないので、食堂から出られない。いえ、出てもいいのだけど……お行儀が悪いわ。緊急事態なら、誰かが呼びに来るでしょう。もぐもぐと口を動かすレオンは、外の騒動は気にしていなかった。大物になるわね……親バカを発揮しながら、パンを咀嚼する。
バタン、突然開いた扉に顔を上げる。部屋の一番奥、向かって右側に座っているため、出入り口は遠かった。見知らぬ男性が立っている。初老と表現するのが相応しい、白髪が半分の黒髪、キツイ印象を与える切れ長の目元。旦那様に少し似ているかも。
「どちら様?」
「義父への挨拶がそれかっ! 玄関まで出迎えぬのは何事だ」
首を傾げた私に、怒鳴り声が返ってきた。びくりと身を震わせたレオンが、ぎゅっとしがみ付く。義父……ああ、この方が旦那様のお父様ね。首に顔を埋めて震えるレオンの黒髪を撫でながら、ゆっくりと立ち上がった。
私の可愛いレオンを叱りつけ、怯えさせ、言葉を封じた……諸悪の根源! 完全に敵認定させてもらうわ。受けて立ってやろうじゃない。
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