【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
35 / 274

35.幸せな朝を台無しにする敵

しおりを挟む
 お祭りがよほど楽しみだったのか、家族全員が早々に休んだ。お陰で、いつもより早い時間に目が覚める。

「おかあしゃま、おまちゅい!」

「お祭り、楽しみね」

 今まで足りなかった言葉を浴びて、少しずつ自分から話すようになってきた。発音がおかしくても、舌足らずでも指摘はしない。まずは話せるようになることから始めるの。いっぱい話せるようになれば、徐々に発音は直ってくるでしょう。

 私と一緒に眠るのが当たり前になったレオンは、ずりずりとお尻で移動してベッドから降りる。まだ高さが怖いのか、縁でうつ伏せになって降りるのよね。侍女のマーサやリリーにも可愛いと評判で、落ちないよう見守るだけにしていた。

 抱っこして下ろしてしまったら、この可愛さが堪能できないでしょ? それに、自主的に行う行為は無理に止めない。無理なら手伝って、と言えるようにならないとね。

 今日も頑張って足の先から下り、とたとた走って鏡の前に座る。低い椅子が用意してあるので、そこで顔を洗うのだ。手を濡らして、顔をちょっと撫でる。リリーが濡れタオルでしっかり拭き取った。

「若様、ご立派ですよ」

 褒められて、嬉しそうに走って戻ってきた。受け止めて抱き上げ、部屋の隅にある絨毯に下ろす。ここで着替えをするのだ。衝立が用意された一角で、両手を挙げて脱がせてもらい、すぐにシャツやズボンを身につけた。

 貴族の若様って、半ズボンが基本みたいね。ベルント達が用意した服は、ほとんどが半ズボンとシャツだった。女性用ブラウスのように、袖や襟が凝っている。さすがにレースは少ないけれど、刺繍は施されていた。

 明らかに高そうな服だけど、抱っこで移動するから問題ないわね。水色のシャツと紺色のズボンを身につけたレオンに合わせ、私も紺色のワンピースにした。水色のリボンをウエストと髪に結ぶ。

「おなち! おなちいろ」

 お揃いだと喜ぶレオンが可愛い。今日は家族も準備があるので、二人だけの朝食だ。食べ始めてすぐ、玄関が騒がしくなった。お父様達ならベルントもこちらへ通すはずだし、誰かお客様かしら?

 まだ食べ終わっていないので、食堂から出られない。いえ、出てもいいのだけど……お行儀が悪いわ。緊急事態なら、誰かが呼びに来るでしょう。もぐもぐと口を動かすレオンは、外の騒動は気にしていなかった。大物になるわね……親バカを発揮しながら、パンを咀嚼する。

 バタン、突然開いた扉に顔を上げる。部屋の一番奥、向かって右側に座っているため、出入り口は遠かった。見知らぬ男性が立っている。初老と表現するのが相応しい、白髪が半分の黒髪、キツイ印象を与える切れ長の目元。旦那様に少し似ているかも。

「どちら様?」

「義父への挨拶がそれかっ! 玄関まで出迎えぬのは何事だ」

 首を傾げた私に、怒鳴り声が返ってきた。びくりと身を震わせたレオンが、ぎゅっとしがみ付く。義父……ああ、この方が旦那様のお父様ね。首に顔を埋めて震えるレオンの黒髪を撫でながら、ゆっくりと立ち上がった。

 私の可愛いレオンを叱りつけ、怯えさせ、言葉を封じた……諸悪の根源! 完全に敵認定させてもらうわ。受けて立ってやろうじゃない。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。

BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。 後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。 新しい兄は最悪だった。 事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。 それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか? 本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い

処理中です...