【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
34 / 274

34.良い子の人参チャレンジ

しおりを挟む
 お昼寝から起きたところに、焼き上がったケーキが運ばれる。一緒に昼寝をした双子は目を輝かせた。そうよ、あなた達は食べたことあるものね。

 まだ前世の記憶が曖昧だった頃、誰かに教わったのよね……と呟きながら作ったケーキだ。人参をすり下ろして搾り、残った繊維を混ぜて焼くキャロットケーキよ。外側はこんがりと狐色に仕上がり、中はほんのりオレンジ色のはず。

 プロが作ると形がいいわね。ケーキの匂いから人参は想像できなくて、レオンが「きゃぁあ!」と歓声を上げた。勉強熱心なエルヴィンを呼び、お父様も同席の上でカットする。ほわりと湯気が出て、焼き立てのケーキが目の前に用意された。

 生クリームはないので、アプリコットジャムが用意される。クリームチーズも合いそうだけど、この世界だとお高いのよね。日持ちしないからかしら。流通量も少ないと聞いていた。

「さあ、頂きましょう」

 取り分けたケーキを、フォークでカットする。一口サイズを小さめに作り、ジャムを付けて口元へ運んだ。

「あーん、レオン」

「あー!」

 口に入った一口を、しっかり噛み締める。もぐもぐと動く口が、嬉しそうに綻んだ。美味しかったのね。

「レオン、これは人参のケーキよ」

 驚いた顔の後、ケーキをじっと見つめる。指を伸ばして、ケーキを摘んだ。柔らかいスポンジ部分が割れて、手元に少しだけ残る。それを覗き込んで、割ってみた。確認を終えたのか、首を横に振る。

「ないなぃ」

「いいえ、入ってるの」

 不思議そうな顔をして、握ったケーキを口に押し込んだ。開いた手のひらを唇に押し当てる形で、持っていたケーキを頬張る。ゆっくり食べて、また「ないない」と首を横に振った。

「美味しい? これなら食べられそう?」

 こくんと首を縦に振ったけれど、人参入りは信じていないみたい。まあいいわ。徐々に食べられるように工夫しましょう。

「奥様、残った汁ですが……」

 ガラス製の水差しにオレンジ色の液体が残っている。人参の搾り汁って鮮やかなのよね。オレンジジュースと少しの蜂蜜、それから林檎のジュースも足した。料理長の工夫に感謝し、コップに注いでもらう。

「美味しいわ」

 料理長は嬉しそうに笑った。興味を持った双子が欲しがり、エルヴィンやお父様も飲む。私が家で搾った時は、残った人参汁はスープに入れた。ジュースにするには、蜂蜜や果物が高いんですもの。公爵家なら贅沢に使えるわね。

「じゅーちゅ! ぼくも」

 手をじたばたさせて、飲みたいと訴える。レオンの仕草や言葉が可愛いけれど、人参の匂いがするわよ? そっと口元に運び、コップを支える。傾けたジュースを口に入れ、レオンは咳き込んだ。

 ナプキンで押さえて、背中をとんとんと叩く。落ち着いたレオンは、また飲みたいとせがんだ。味で人参に気づいたんじゃないの? 不思議に思いながら、またコップを傾ける。小さな両手でコップを掴み、自分で調整して飲み始めた。

 その視線の先は、美味しそうに飲むユリアンやユリアーナに固定されていて……。どうやら真似をしたいみたい。いい刺激で好ましい影響だわ。

「たくさん飲めたわね、偉いわ。レオン」

 にこにこと笑うレオンは満足げで、今日の人参チャレンジは成功に終わった。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

処理中です...