32 / 274
32.お祭りに行きたい
しおりを挟む
レオンはまだ不安なのかしら。ずっとしがみついているけど、抱き癖がついちゃった? 判断できずに、ひたすら甘やかす。だって、レオンは私が屋敷に来るまで、使用人としか接触がなかったの。まだまだ甘えても許されるはずよ。
「奥様、まだダメですか」
「……お父様、せめて名前呼びにしてくださらない?」
「では、屋敷内でだけ……アマーリア様と」
ぞわっとする。うちは貧乏でお互いが助け合いだったから、家族仲はいい。確かにお金はなかったけど、亡くなった母の分まで愛情を注いでくれた父。その人から敬称をつけて呼ばれるのは、なんだか落ち着かないわ。
「呼び方はまた考えておくわ」
お父様も苦笑いした。子供の地位が自分より上になるなんて、呼び方に苦慮しちゃうわよね。レオンが成人して、やがて公爵家を継いだら……私も「公爵閣下」とか「レオン様」って呼ぶのかしら。
想像できないわ。
「じぃじ、おかあしゃま! っていいよ」
お母様と呼んでもいいと言われても、お父様のお母様ではないし。
「そうね。考えておくわ」
レオンはこくんと頷いた。その姿を見ていた私のスカートを、遠慮がちにユリアーナが引っ張る。
「どうしたの?」
「街でね、お祭りがあるの。行ってきてもいい? エル兄様の言うことをちゃんと聞くわ」
「僕も行きたい。いい子にしてるよ」
エルヴィンは離れで勉強中だ。すでに話は通してきたようで、残るはお父様と私の許可だけみたい。お祭りに行きたいと目を輝かせる双子に、レオンが「おまちゅぃ?」と首を傾げた。
「お祭りは、街で皆が楽しく過ごす日よ。いろんなお店が増えて、たくさんの人が来るの」
侍女辺りから聞いたのかも。予想しながらお父様に提案した。
「私はベルントに頼んで、レオンと出かけるわ。お父様も三人を連れて一緒に行きませんか」
やったと大喜びする双子を見ながら、お父様は困惑した顔だ。私が公爵夫人のお小遣いから仕事の給料を払っていることは、内緒にしている。公爵家に雇ってもらったと思っている方が、気持ちが楽だと思うから。
毎月安定してお金が入り、住む場所もある。食事は一緒に食べることも多かった。手元にお金はあるの。それでも貧乏だった時の癖、というか。お金を使うことを躊躇ってしまう。
「お父様、この子達の経験は人生の宝よ」
もしたった一度だったとしても、お祭りを経験していれば記憶になる。持っている人と持たない人の差は大きいわ。レオンにも経験してほしい。でも安全面の問題もあるから、家令フランクにお伺いを立てる予定だった。
同行するのは執事のベルントになると思うけれど。護衛の騎士の手配もあると思うし、跡取り息子を連れ出すんだから旦那様に報告も必要よ。あら、そう考えると結構大事ね。
「わかりました、同行させていただきます」
背筋がぞわっとする。使用人の目があるけど、私のお父様だと知られているんだから……なんとかならないか、相談してみましょう。困ったり迷ったら、フランクに相談よ!
「奥様、まだダメですか」
「……お父様、せめて名前呼びにしてくださらない?」
「では、屋敷内でだけ……アマーリア様と」
ぞわっとする。うちは貧乏でお互いが助け合いだったから、家族仲はいい。確かにお金はなかったけど、亡くなった母の分まで愛情を注いでくれた父。その人から敬称をつけて呼ばれるのは、なんだか落ち着かないわ。
「呼び方はまた考えておくわ」
お父様も苦笑いした。子供の地位が自分より上になるなんて、呼び方に苦慮しちゃうわよね。レオンが成人して、やがて公爵家を継いだら……私も「公爵閣下」とか「レオン様」って呼ぶのかしら。
想像できないわ。
「じぃじ、おかあしゃま! っていいよ」
お母様と呼んでもいいと言われても、お父様のお母様ではないし。
「そうね。考えておくわ」
レオンはこくんと頷いた。その姿を見ていた私のスカートを、遠慮がちにユリアーナが引っ張る。
「どうしたの?」
「街でね、お祭りがあるの。行ってきてもいい? エル兄様の言うことをちゃんと聞くわ」
「僕も行きたい。いい子にしてるよ」
エルヴィンは離れで勉強中だ。すでに話は通してきたようで、残るはお父様と私の許可だけみたい。お祭りに行きたいと目を輝かせる双子に、レオンが「おまちゅぃ?」と首を傾げた。
「お祭りは、街で皆が楽しく過ごす日よ。いろんなお店が増えて、たくさんの人が来るの」
侍女辺りから聞いたのかも。予想しながらお父様に提案した。
「私はベルントに頼んで、レオンと出かけるわ。お父様も三人を連れて一緒に行きませんか」
やったと大喜びする双子を見ながら、お父様は困惑した顔だ。私が公爵夫人のお小遣いから仕事の給料を払っていることは、内緒にしている。公爵家に雇ってもらったと思っている方が、気持ちが楽だと思うから。
毎月安定してお金が入り、住む場所もある。食事は一緒に食べることも多かった。手元にお金はあるの。それでも貧乏だった時の癖、というか。お金を使うことを躊躇ってしまう。
「お父様、この子達の経験は人生の宝よ」
もしたった一度だったとしても、お祭りを経験していれば記憶になる。持っている人と持たない人の差は大きいわ。レオンにも経験してほしい。でも安全面の問題もあるから、家令フランクにお伺いを立てる予定だった。
同行するのは執事のベルントになると思うけれど。護衛の騎士の手配もあると思うし、跡取り息子を連れ出すんだから旦那様に報告も必要よ。あら、そう考えると結構大事ね。
「わかりました、同行させていただきます」
背筋がぞわっとする。使用人の目があるけど、私のお父様だと知られているんだから……なんとかならないか、相談してみましょう。困ったり迷ったら、フランクに相談よ!
2,032
お気に入りに追加
4,249
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。
BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。
後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。
新しい兄は最悪だった。
事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。
それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか?
本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い

皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる