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25.レオン様で統一しよう
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次の絵本を差し出され、今度は怪物にさらわれたお姫様を助ける話を読む。続けて、アヒルの子が旅をするお話もせがまれた。三冊読み終えたところで、お父様がいないことに気づく。
「エルヴィン、お父様はどうしたの?」
「お部屋の片付けをすると言ってました」
なるほど。いくら荷物が少ないとはいえ、引越し直後だもの。服をしまったり、食器類を棚に入れたりと、やることはある。娘としては手伝いたいが、きっとイルゼはいい顔しないわね。侍女長の立場では、許可はくれないだろう。
「お一人で大丈夫かしら」
「構わないから、若様と遊ぶようにと」
若様? ああ、レオンのことね。お父様がそう呼ぶのは構わないけれど、エルヴィン達が真似するのは困るわ。呼び方を統一した方が良さそう。
「ねえ、お姉様。この子が若様でしょう?」
「その呼び方より、レオン様と呼んでちょうだい」
「レオン様?」
大人を真似てユリアーナが口を開いたが、訂正する。こてんと首を傾げたユリアンが繰り返した。すると、レオンが同じ方向へ首を倒す。
「ちゃま?」
「ふふっ、そうね。レオン様なの」
肯定しながら、その仕草の可愛さに頬が緩んだ。本当は私のようにレオンと呼ばせたいけれど、使用人や外部の人の前でうっかり出るとマズい。仲良く兄弟姉妹のように遊んでほしいが、さすがに肩書きが違いすぎた。
子供に中と外で呼び方を変える器用さを求めるのは無理だし、呼ばれるレオンも混乱するわ。だから親しさを込めて名を呼ぶけれど、敬称付きが無難だと思う。
「レオン様は私の弟よね!」
ユリアーナは嬉しそうにそう口にするが、甥っ子よと直した。
「おいっこ……」
よくわからないと唸る双子に、エルヴィンが説明した。私の子供だから、弟ではない。ふんふんと納得しながら話を聞く双子を見ていたレオンが、同じように首を縦に何度も振る。幼い頃は年上の子の真似をして覚える。これはいい影響だった。
「まだ小さいから出来ないことも多いの。歩く時は手を繋いで、無理に引っ張ったりしないで遊んでほしいわ。できそう?」
ユリアーナとユリアンに具体例を出して尋ねる。出来ると二人はいい返事を寄越した。ぴんと手を挙げて答える二人に、レオンも大喜びで手を持ち上げる。伸び上がるように元気一杯のレオンが転ばないよう支えながら、私は緩み過ぎた頬を引き締めた。
このままでは戻らなくなりそうよ。皆で一緒に昼食を食べるため、お父様を呼ぶ。エルヴィンが走って行き、すぐに二人で戻ってきた。
「公爵閣下と一緒でなくていいのか?」
私達は離れに戻るぞ。心配そうに提案するお父様に、首を横に振った。
「問題ないわ。契約通りですもの」
お互いに歩み寄る必要はないし、夫婦らしく振る舞うのは社交の場だけ。その説明に、お父様は眉根を寄せた。
「閣下はそれを?」
「ええ、自らご提案なさったの。私は受け入れただけよ」
がくりと肩を落としたお父様に、申し訳なさも生まれる。私の産んだ孫を抱かせてあげることが出来ないから。離縁はなしと契約書に記載されている。浮気は公爵夫人でなくても、アウトだろう。
「孫はレオンがいるわ。産めなくてごめんなさいね」
「いや、私の甲斐性のなさが原因だ。幸せな結婚をさせてやれなくてすまない」
きょとんとしてしまった。干渉しない夫と豊かな生活、可愛い息子……幸せなら揃っているわよ?
「エルヴィン、お父様はどうしたの?」
「お部屋の片付けをすると言ってました」
なるほど。いくら荷物が少ないとはいえ、引越し直後だもの。服をしまったり、食器類を棚に入れたりと、やることはある。娘としては手伝いたいが、きっとイルゼはいい顔しないわね。侍女長の立場では、許可はくれないだろう。
「お一人で大丈夫かしら」
「構わないから、若様と遊ぶようにと」
若様? ああ、レオンのことね。お父様がそう呼ぶのは構わないけれど、エルヴィン達が真似するのは困るわ。呼び方を統一した方が良さそう。
「ねえ、お姉様。この子が若様でしょう?」
「その呼び方より、レオン様と呼んでちょうだい」
「レオン様?」
大人を真似てユリアーナが口を開いたが、訂正する。こてんと首を傾げたユリアンが繰り返した。すると、レオンが同じ方向へ首を倒す。
「ちゃま?」
「ふふっ、そうね。レオン様なの」
肯定しながら、その仕草の可愛さに頬が緩んだ。本当は私のようにレオンと呼ばせたいけれど、使用人や外部の人の前でうっかり出るとマズい。仲良く兄弟姉妹のように遊んでほしいが、さすがに肩書きが違いすぎた。
子供に中と外で呼び方を変える器用さを求めるのは無理だし、呼ばれるレオンも混乱するわ。だから親しさを込めて名を呼ぶけれど、敬称付きが無難だと思う。
「レオン様は私の弟よね!」
ユリアーナは嬉しそうにそう口にするが、甥っ子よと直した。
「おいっこ……」
よくわからないと唸る双子に、エルヴィンが説明した。私の子供だから、弟ではない。ふんふんと納得しながら話を聞く双子を見ていたレオンが、同じように首を縦に何度も振る。幼い頃は年上の子の真似をして覚える。これはいい影響だった。
「まだ小さいから出来ないことも多いの。歩く時は手を繋いで、無理に引っ張ったりしないで遊んでほしいわ。できそう?」
ユリアーナとユリアンに具体例を出して尋ねる。出来ると二人はいい返事を寄越した。ぴんと手を挙げて答える二人に、レオンも大喜びで手を持ち上げる。伸び上がるように元気一杯のレオンが転ばないよう支えながら、私は緩み過ぎた頬を引き締めた。
このままでは戻らなくなりそうよ。皆で一緒に昼食を食べるため、お父様を呼ぶ。エルヴィンが走って行き、すぐに二人で戻ってきた。
「公爵閣下と一緒でなくていいのか?」
私達は離れに戻るぞ。心配そうに提案するお父様に、首を横に振った。
「問題ないわ。契約通りですもの」
お互いに歩み寄る必要はないし、夫婦らしく振る舞うのは社交の場だけ。その説明に、お父様は眉根を寄せた。
「閣下はそれを?」
「ええ、自らご提案なさったの。私は受け入れただけよ」
がくりと肩を落としたお父様に、申し訳なさも生まれる。私の産んだ孫を抱かせてあげることが出来ないから。離縁はなしと契約書に記載されている。浮気は公爵夫人でなくても、アウトだろう。
「孫はレオンがいるわ。産めなくてごめんなさいね」
「いや、私の甲斐性のなさが原因だ。幸せな結婚をさせてやれなくてすまない」
きょとんとしてしまった。干渉しない夫と豊かな生活、可愛い息子……幸せなら揃っているわよ?
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