上 下
21 / 131

21.美味しいものは少しだけ

しおりを挟む
 もぐもぐと口を閉じて咀嚼するレオンが、顔を上げて口を開ける。食べ終わった雛鳥みたいね。バランスよく準備したサラダを運んだ。小さなレタスとミニトマト、生ハムで巻いておいたわ。口にぽんと入ったトマトに苦戦する姿に、大きすぎたかと心配になる。

「レオン、苦しかったら出してもいいのよ」

「んんん」

 平気みたい。ゆっくり大きく口を動かし、ごくりと喉が動いた。ほっとする。次からはミニトマトも半分にカットしましょう。子供のうちは誤嚥も多いから。

「お姉様、これ美味しいわ」

「薄いけどうまい」

 双子が目を輝かせて絶賛するのは、生ハムだった。貧乏な我が家では出たことない食べ物よね。普通のハムは保存食として食べたけれど、透き通った生ハムに感動している。

「奥様、もう少しご用意しましょうか」

 気を利かせてベルントが提案すると、双子は目を輝かせた。でも私は笑顔で首を横に振った。

「いいえ。美味しいものは分け合って少しずつ頂くの。我が家の方針です」

 貧乏だった頃の心構えの一つね。独り占めしないで、皆で分けるの意味が強かったけれど。がっかりした双子に、きちんと説明した。

「これは旦那様が稼いだ公爵家のお金で買った生ハムよ。これからお父様が働いてお金を稼ぐから、そのお金で買ってもらうなら何も言わないわ」

 公爵夫人として割り当てられたお金は、私の自由に使える。それも旦那様が稼いでいるの。豪遊していいわけじゃないのよ。言い聞かせれば理解できる年齢の二人は、こくんと頷いた。

 ベルントが驚いた顔で私を見るけれど、何か変なこと言ったかしら?

「おかぁ、さま……あーん」

 くいっと袖を引っ張るレオンに、今度は小さく切った鶏肉を与える。まだたくさんは食べられないから、少しずつバランスよく食べないと。幸いにして好き嫌いはなさそう。

 豆のスープを染み込ませたパンも食べさせ、レオンの様子を窺う。お腹が満ちてきたのか、口を開けるペースが遅くなった。これが合図ね。満腹の手前で終わりにしましょう。

「レオン、もう少ししたら果物を食べるわ。ご飯はもう終わりね」

「うん」

 素直に頷いたレオンは、ほんのり膨らんだお腹を撫でる。小さい頃って、食べた分だけお腹が膨らむわよね。でもすぐにペタンと平らになるの。

 まだ食事にさほど興味のないレオンのため、大皿で並べるよう指示している。今までは二人だったので少なかったが、これからはこの量が並ぶのね。食べ盛りの男の子がいるから、多めに用意してくれたみたい。

 お父様の説明通り、頑張ってカトラリーで食べる三人は、記憶の中より食べるペースが遅かった。早食いは体に良くないから、丁度いいわ。

「ご馳走様でした。美味しかったです」

 大人ぶった妹ユリアーナが、控える侍女にお礼を言った。続いて満足したユリアンも挨拶をする。父がカトラリーを皿に並べてベルントに声をかけ、最後まで食べていたエルヴィンがナプキンを置いた。

「では居間へ移動するわ」

 この一言で、ぞろぞろと別の部屋に移動する。レオンと二人の時は使っていない居間だけど、これから大活躍しそう。分厚い絨毯が敷かれ、ソファーがいくつも用意された部屋は広かった。

 抱っこしてきたレオンを下ろし、靴を脱がせてしまう。すでに入り口では、エルヴィンの指示で双子も靴を脱いでいた。

「奥様、なぜ……靴を?」

「ふふっ、この部屋は土足禁止にします。よろしくね」
しおりを挟む
感想 335

あなたにおすすめの小説

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈 
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

【完結】政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

処理中です...