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13.幼い言葉に魅了されちゃう
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最後のお菓子は、スコーンじゃないものを選ぼうと思った。でもミルクジャムを手に、スコーンを待つレオンに負けたわ。勝てるわけないじゃない。私が知る中で最強よ?
「ぼくの!」
運んできたスコーンを置いた皿を指差す。砕けていたらどうしよう。お皿を膝にのせ、こっそりと覗いてみた。あら、意外と平気そう。
「お母様と半分こでいい?」
「うん」
そろそろお腹いっぱいになる頃よね。ふふっと笑い、布に包んだまま割った。右手にスプーン、左手にミルクジャムの瓶を持って、じりじりと寄ってくる。待ちきれずに目を輝かせるレオンの前で、ゆっくりと布を開いた。
二つに割れたスコーンと、少しばかり崩れた縁の小さな粒。割った時に崩れたフリで、片方をレオンのお皿に載せた。
「レオンが持ってきてくれたスコーンよ、とっても美味しそう」
「うん」
スプーンを横に置いて、手のひらでスコーンを撫でる。嬉しそうな仕草に、見守る騎士や侍女がほっこりとする。明日の私は、笑顔の筋肉痛になりそう。
「瓶の蓋を開けます」
侍女に促され、両手で瓶を差し出す。と、膝から皿が落ちかけた。咄嗟に自分のお皿を胸で押さえて前屈みになり、レオンの皿を受け止める。反対側から同じように皿を守ろうとした侍女が、驚いた顔をした。
レオンの膝にお皿を載せ直し、何食わぬ顔で私は身を起こす。膝のスカートに落ちた欠片を、さりげなくひだに隠した。
「ありがと……おかあさま、おちた」
「あら? どこかしら」
惚けてみせると、ジャムの瓶とお皿を移動させ、レオンは距離を詰めた。手を伸ばし、私の胸元から欠片を摘む。小さな指が器用に摘んで、にっこり笑う。なんて可愛いのかしら。
言葉が達者になる年齢なら「恥ずかしい」とからかわれたかも。胸でお皿を押さえたから、ついちゃった?
レオンはその欠片を躊躇いなく、口へ運んだ。慌てて止めようとした私と、受け取ろうと手を伸ばした侍女。動きが早かったのは、侍女の方だ。距離が近いので、間に合った。
「若様、いけません」
「だめ?」
「はい、おやめください」
丁寧に言い直され、レオンは素直に欠片を侍女に渡した。ほっとして、今後は気をつけないとと胸に刻む。服についたくらいなら、私は食べちゃうけど。というか、実家が貧乏すぎて、服に何かついた記憶がない。そんな余ってる食料がないもの。
ちょっと遠い目になったが、過去を思っている場合ではない。
「レオン、落ちたのは食べなくていいのよ」
「おかあしゃまの、でも?」
時々言葉が崩れるのが、幼く感じさせる。積極的に話しているから、あと数ヶ月で消えちゃうでしょうね。残念な気もするが、それも成長の証と受け止める覚悟をしましょう。
「ええ、お母様の服についたお菓子でも、よ」
きちんと言い直して、正しい言葉遣いを伝える。他の人と会った時に、聞き取れないと困るから。貴族らしい言い回しを心がけた。ただ、私の作法やマナーはやや心許ない。今度、侍女長のイルゼに鍛えてもらおう。
「私も頑張るわね、レオン!」
ぐっと拳を握れば、きょとんとした様子でレオンは首を傾げた。
「ぼくの!」
運んできたスコーンを置いた皿を指差す。砕けていたらどうしよう。お皿を膝にのせ、こっそりと覗いてみた。あら、意外と平気そう。
「お母様と半分こでいい?」
「うん」
そろそろお腹いっぱいになる頃よね。ふふっと笑い、布に包んだまま割った。右手にスプーン、左手にミルクジャムの瓶を持って、じりじりと寄ってくる。待ちきれずに目を輝かせるレオンの前で、ゆっくりと布を開いた。
二つに割れたスコーンと、少しばかり崩れた縁の小さな粒。割った時に崩れたフリで、片方をレオンのお皿に載せた。
「レオンが持ってきてくれたスコーンよ、とっても美味しそう」
「うん」
スプーンを横に置いて、手のひらでスコーンを撫でる。嬉しそうな仕草に、見守る騎士や侍女がほっこりとする。明日の私は、笑顔の筋肉痛になりそう。
「瓶の蓋を開けます」
侍女に促され、両手で瓶を差し出す。と、膝から皿が落ちかけた。咄嗟に自分のお皿を胸で押さえて前屈みになり、レオンの皿を受け止める。反対側から同じように皿を守ろうとした侍女が、驚いた顔をした。
レオンの膝にお皿を載せ直し、何食わぬ顔で私は身を起こす。膝のスカートに落ちた欠片を、さりげなくひだに隠した。
「ありがと……おかあさま、おちた」
「あら? どこかしら」
惚けてみせると、ジャムの瓶とお皿を移動させ、レオンは距離を詰めた。手を伸ばし、私の胸元から欠片を摘む。小さな指が器用に摘んで、にっこり笑う。なんて可愛いのかしら。
言葉が達者になる年齢なら「恥ずかしい」とからかわれたかも。胸でお皿を押さえたから、ついちゃった?
レオンはその欠片を躊躇いなく、口へ運んだ。慌てて止めようとした私と、受け取ろうと手を伸ばした侍女。動きが早かったのは、侍女の方だ。距離が近いので、間に合った。
「若様、いけません」
「だめ?」
「はい、おやめください」
丁寧に言い直され、レオンは素直に欠片を侍女に渡した。ほっとして、今後は気をつけないとと胸に刻む。服についたくらいなら、私は食べちゃうけど。というか、実家が貧乏すぎて、服に何かついた記憶がない。そんな余ってる食料がないもの。
ちょっと遠い目になったが、過去を思っている場合ではない。
「レオン、落ちたのは食べなくていいのよ」
「おかあしゃまの、でも?」
時々言葉が崩れるのが、幼く感じさせる。積極的に話しているから、あと数ヶ月で消えちゃうでしょうね。残念な気もするが、それも成長の証と受け止める覚悟をしましょう。
「ええ、お母様の服についたお菓子でも、よ」
きちんと言い直して、正しい言葉遣いを伝える。他の人と会った時に、聞き取れないと困るから。貴族らしい言い回しを心がけた。ただ、私の作法やマナーはやや心許ない。今度、侍女長のイルゼに鍛えてもらおう。
「私も頑張るわね、レオン!」
ぐっと拳を握れば、きょとんとした様子でレオンは首を傾げた。
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