11 / 274
11.まだ伝えるのが難しいみたい
しおりを挟む
あらあらぁ、もう反抗期かしら? こういう時は反対すると怒りだすのよね。
「だったら、ここでお座りしましょうか」
「やっ! ちがうの」
何か違ったらしい。少し考えて、自分達の状況を確認する。さっきまでは素直だったのだから、何かが気に入らないのよね。籠を持つ右手も、空の左手も、両方とも振り回して足を踏み鳴らす。この仕草は見覚えがあるわ。
慌てて駆け寄ろうとする侍女が伸ばす手を避けて、嫌だと全身で示すレオン。そうじゃない、そんな声が聞こえた気がした。
「では、小さな紳士にエスコートをお願いしましょうね、お願いできる? レオン」
「……うん!」
正解だったみたい。手を繋ぎたいのかと思ったけれど、私に連れていかれるのが嫌だったんだわ。自分で出来ると主張したいお年頃だもの。レオン主導で歩きたかった。用意された絨毯まで、小さな手に指先を重ねて歩く。歩幅を合わせて、ご機嫌になった幼子に続いた。
「どぉじょ!」
先に座っていいと示され、お礼を言ってやや左寄りに座る。大人なら靴を脱がなくても座れるが、レオンは無理だった。自分で靴を引っ張っているので、侍女が回り込む。ぷいっと目を逸らすので、手伝わなくていいと伝えた。
苦労しながら靴と足の隙間に指を突っ込み、ぐいっと引っ張る。靴がすぽんと脱げた。残った左足も脱いで、きちんと並べる。侍女の仕事をちゃんと見ている証拠だった。頭の回転はいいみたい。やっぱりレオンは何をしても可愛いわ。
座る時に置いた籠は転がったが、幸いにして布で包んだスコーンは外に出ていない。見えないようこっそり手助けした侍女に微笑んだ。元に戻された籠に手を入れるレオンは、それを食べる気だろう。でも崩れていると思う。
「レオン、私のスコーンと交換してくれる? レオンの運んだスコーンが食べたいわ」
あなたの運んだスコーンが欲しい。はっきりと目的を伝えれば、迷う仕草を見せる。笑顔で待つ私に、籠から出した布を差し出した。
「いぃよ」
「ありがとう、ではレオンはどれがいい?」
まずは選ばせる。選んでほしいなら、そう伝えるよう教えないとね。レオンは人との関わりが薄かったから、たくさん学んで……それだったら弟妹がいた方が早いな。
旦那様が留守である程度自由にしていいとはいえ、家族をこの屋敷に連れ込んだらダメよね? でも聞くだけならタダだし、後で家令のフランクに聞いてみよう。もし一緒に住めたら、弟や妹がレオンのいい手本になってくれるわ。
私が持ってきた籠の中を覗き込み、レオンはまだ迷っている。赤い唇が尖った僅かな動きに、何を考えているか読めてしまった。プレーン、紅茶、オレンジ、ベリー、全部で四種類ある。色や味が違うから、全部食べたいのよね。でも一人では無理と理解した。
食べきれないから半分こしようと言える? レオンが自分から相談するのを楽しみに、私は差し出されたお茶に口をつけた。ちらちらと私を見て、スコーンを眺める。助け舟を出すタイミングを計っていたら、レオンの旋毛が二つあることを発見して口元を緩めた。
「だったら、ここでお座りしましょうか」
「やっ! ちがうの」
何か違ったらしい。少し考えて、自分達の状況を確認する。さっきまでは素直だったのだから、何かが気に入らないのよね。籠を持つ右手も、空の左手も、両方とも振り回して足を踏み鳴らす。この仕草は見覚えがあるわ。
慌てて駆け寄ろうとする侍女が伸ばす手を避けて、嫌だと全身で示すレオン。そうじゃない、そんな声が聞こえた気がした。
「では、小さな紳士にエスコートをお願いしましょうね、お願いできる? レオン」
「……うん!」
正解だったみたい。手を繋ぎたいのかと思ったけれど、私に連れていかれるのが嫌だったんだわ。自分で出来ると主張したいお年頃だもの。レオン主導で歩きたかった。用意された絨毯まで、小さな手に指先を重ねて歩く。歩幅を合わせて、ご機嫌になった幼子に続いた。
「どぉじょ!」
先に座っていいと示され、お礼を言ってやや左寄りに座る。大人なら靴を脱がなくても座れるが、レオンは無理だった。自分で靴を引っ張っているので、侍女が回り込む。ぷいっと目を逸らすので、手伝わなくていいと伝えた。
苦労しながら靴と足の隙間に指を突っ込み、ぐいっと引っ張る。靴がすぽんと脱げた。残った左足も脱いで、きちんと並べる。侍女の仕事をちゃんと見ている証拠だった。頭の回転はいいみたい。やっぱりレオンは何をしても可愛いわ。
座る時に置いた籠は転がったが、幸いにして布で包んだスコーンは外に出ていない。見えないようこっそり手助けした侍女に微笑んだ。元に戻された籠に手を入れるレオンは、それを食べる気だろう。でも崩れていると思う。
「レオン、私のスコーンと交換してくれる? レオンの運んだスコーンが食べたいわ」
あなたの運んだスコーンが欲しい。はっきりと目的を伝えれば、迷う仕草を見せる。笑顔で待つ私に、籠から出した布を差し出した。
「いぃよ」
「ありがとう、ではレオンはどれがいい?」
まずは選ばせる。選んでほしいなら、そう伝えるよう教えないとね。レオンは人との関わりが薄かったから、たくさん学んで……それだったら弟妹がいた方が早いな。
旦那様が留守である程度自由にしていいとはいえ、家族をこの屋敷に連れ込んだらダメよね? でも聞くだけならタダだし、後で家令のフランクに聞いてみよう。もし一緒に住めたら、弟や妹がレオンのいい手本になってくれるわ。
私が持ってきた籠の中を覗き込み、レオンはまだ迷っている。赤い唇が尖った僅かな動きに、何を考えているか読めてしまった。プレーン、紅茶、オレンジ、ベリー、全部で四種類ある。色や味が違うから、全部食べたいのよね。でも一人では無理と理解した。
食べきれないから半分こしようと言える? レオンが自分から相談するのを楽しみに、私は差し出されたお茶に口をつけた。ちらちらと私を見て、スコーンを眺める。助け舟を出すタイミングを計っていたら、レオンの旋毛が二つあることを発見して口元を緩めた。
2,404
お気に入りに追加
4,249
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。
久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。
※一話完結です。
ゆるゆる設定です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる