11 / 131
11.まだ伝えるのが難しいみたい
しおりを挟む
あらあらぁ、もう反抗期かしら? こういう時は反対すると怒りだすのよね。
「だったら、ここでお座りしましょうか」
「やっ! ちがうの」
何か違ったらしい。少し考えて、自分達の状況を確認する。さっきまでは素直だったのだから、何かが気に入らないのよね。籠を持つ右手も、空の左手も、両方とも振り回して足を踏み鳴らす。この仕草は見覚えがあるわ。
慌てて駆け寄ろうとする侍女が伸ばす手を避けて、嫌だと全身で示すレオン。そうじゃない、そんな声が聞こえた気がした。
「では、小さな紳士にエスコートをお願いしましょうね、お願いできる? レオン」
「……うん!」
正解だったみたい。手を繋ぎたいのかと思ったけれど、私に連れていかれるのが嫌だったんだわ。自分で出来ると主張したいお年頃だもの。レオン主導で歩きたかった。用意された絨毯まで、小さな手に指先を重ねて歩く。歩幅を合わせて、ご機嫌になった幼子に続いた。
「どぉじょ!」
先に座っていいと示され、お礼を言ってやや左寄りに座る。大人なら靴を脱がなくても座れるが、レオンは無理だった。自分で靴を引っ張っているので、侍女が回り込む。ぷいっと目を逸らすので、手伝わなくていいと伝えた。
苦労しながら靴と足の隙間に指を突っ込み、ぐいっと引っ張る。靴がすぽんと脱げた。残った左足も脱いで、きちんと並べる。侍女の仕事をちゃんと見ている証拠だった。頭の回転はいいみたい。やっぱりレオンは何をしても可愛いわ。
座る時に置いた籠は転がったが、幸いにして布で包んだスコーンは外に出ていない。見えないようこっそり手助けした侍女に微笑んだ。元に戻された籠に手を入れるレオンは、それを食べる気だろう。でも崩れていると思う。
「レオン、私のスコーンと交換してくれる? レオンの運んだスコーンが食べたいわ」
あなたの運んだスコーンが欲しい。はっきりと目的を伝えれば、迷う仕草を見せる。笑顔で待つ私に、籠から出した布を差し出した。
「いぃよ」
「ありがとう、ではレオンはどれがいい?」
まずは選ばせる。選んでほしいなら、そう伝えるよう教えないとね。レオンは人との関わりが薄かったから、たくさん学んで……それだったら弟妹がいた方が早いな。
旦那様が留守である程度自由にしていいとはいえ、家族をこの屋敷に連れ込んだらダメよね? でも聞くだけならタダだし、後で家令のフランクに聞いてみよう。もし一緒に住めたら、弟や妹がレオンのいい手本になってくれるわ。
私が持ってきた籠の中を覗き込み、レオンはまだ迷っている。赤い唇が尖った僅かな動きに、何を考えているか読めてしまった。プレーン、紅茶、オレンジ、ベリー、全部で四種類ある。色や味が違うから、全部食べたいのよね。でも一人では無理と理解した。
食べきれないから半分こしようと言える? レオンが自分から相談するのを楽しみに、私は差し出されたお茶に口をつけた。ちらちらと私を見て、スコーンを眺める。助け舟を出すタイミングを計っていたら、レオンの旋毛が二つあることを発見して口元を緩めた。
「だったら、ここでお座りしましょうか」
「やっ! ちがうの」
何か違ったらしい。少し考えて、自分達の状況を確認する。さっきまでは素直だったのだから、何かが気に入らないのよね。籠を持つ右手も、空の左手も、両方とも振り回して足を踏み鳴らす。この仕草は見覚えがあるわ。
慌てて駆け寄ろうとする侍女が伸ばす手を避けて、嫌だと全身で示すレオン。そうじゃない、そんな声が聞こえた気がした。
「では、小さな紳士にエスコートをお願いしましょうね、お願いできる? レオン」
「……うん!」
正解だったみたい。手を繋ぎたいのかと思ったけれど、私に連れていかれるのが嫌だったんだわ。自分で出来ると主張したいお年頃だもの。レオン主導で歩きたかった。用意された絨毯まで、小さな手に指先を重ねて歩く。歩幅を合わせて、ご機嫌になった幼子に続いた。
「どぉじょ!」
先に座っていいと示され、お礼を言ってやや左寄りに座る。大人なら靴を脱がなくても座れるが、レオンは無理だった。自分で靴を引っ張っているので、侍女が回り込む。ぷいっと目を逸らすので、手伝わなくていいと伝えた。
苦労しながら靴と足の隙間に指を突っ込み、ぐいっと引っ張る。靴がすぽんと脱げた。残った左足も脱いで、きちんと並べる。侍女の仕事をちゃんと見ている証拠だった。頭の回転はいいみたい。やっぱりレオンは何をしても可愛いわ。
座る時に置いた籠は転がったが、幸いにして布で包んだスコーンは外に出ていない。見えないようこっそり手助けした侍女に微笑んだ。元に戻された籠に手を入れるレオンは、それを食べる気だろう。でも崩れていると思う。
「レオン、私のスコーンと交換してくれる? レオンの運んだスコーンが食べたいわ」
あなたの運んだスコーンが欲しい。はっきりと目的を伝えれば、迷う仕草を見せる。笑顔で待つ私に、籠から出した布を差し出した。
「いぃよ」
「ありがとう、ではレオンはどれがいい?」
まずは選ばせる。選んでほしいなら、そう伝えるよう教えないとね。レオンは人との関わりが薄かったから、たくさん学んで……それだったら弟妹がいた方が早いな。
旦那様が留守である程度自由にしていいとはいえ、家族をこの屋敷に連れ込んだらダメよね? でも聞くだけならタダだし、後で家令のフランクに聞いてみよう。もし一緒に住めたら、弟や妹がレオンのいい手本になってくれるわ。
私が持ってきた籠の中を覗き込み、レオンはまだ迷っている。赤い唇が尖った僅かな動きに、何を考えているか読めてしまった。プレーン、紅茶、オレンジ、ベリー、全部で四種類ある。色や味が違うから、全部食べたいのよね。でも一人では無理と理解した。
食べきれないから半分こしようと言える? レオンが自分から相談するのを楽しみに、私は差し出されたお茶に口をつけた。ちらちらと私を見て、スコーンを眺める。助け舟を出すタイミングを計っていたら、レオンの旋毛が二つあることを発見して口元を緩めた。
2,017
お気に入りに追加
3,753
あなたにおすすめの小説
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。
はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。
周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。
婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。
ただ、美しいのはその見た目だけ。
心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。
本来の私の姿で……
前編、中編、後編の短編です。
【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。
かのん
恋愛
真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。
けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。
ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん
.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
共に伯爵家の令嬢と令息であるアミカとミッチェルは幸せな結婚式を挙げた。ところがその夜ミッチェルの体調が悪くなり、二人は別々の寝室で休むことに。
その翌日、アミカは偶然街でミッチェルと自分の友人であるポーラの不貞の事実を知ってしまう。激しく落胆するアミカだったが、侯爵令息のマキシミリアーノの助けを借りながら二人の不貞の証拠を押さえ、こちらの有責にされないように離婚にこぎつけようとする。
ところが、これは白い結婚だと不貞の相手であるポーラに言っていたはずなのに、日が経つごとにミッチェルの様子が徐々におかしくなってきて───
もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません
片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。
皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。
もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる