10 / 274
10.レオンの秘密の場所
しおりを挟む
「あんね、こっち」
時々言葉が乱れるのが、また可愛いのよね。本当なら二歳になる頃には、発音が定まる。でも乳母がいなかったようだし、話しかける人が少なければ成長できないわ。
私が積極的に話しかけることで、すぐに追いつくと思う。だから何も心配していなかった。幼い頃は成長速度の個人差も大きい。レオンはゆっくり成長して、大成するタイプかもしれないもの。
「レオン。足下がぬかるんでるわ。草の上を歩いて」
「うん」
転ぶと痛いし、泣くような状況になれば可哀想だわ。晴れた大空に心地よい風、お散歩日和だった。でも昨日は夕立があったの。ざっと雨が降って、一部はぬかるんでいる。乾き切っていない地面を避けて、私の手を引きながら芝生に踏み込んだ。
底が平らな靴を選んで正解だったわ。手を引くレオンは目的地があるようで、迷いなく進んでいく。ぬかるみを通り越すと、また散歩道へ戻った。来たことがあるのかしら?
「何があるの? レオン」
「ないないの!」
「秘密なのね、楽しみにしておくわ」
首を横に振る仕草は可愛いけれど、大きく首を振りすぎて転びそう。言いたいことを汲み取ってあげれば、嬉しそうに笑った。言葉が足りなすぎて、侍女に通じなかった経験がありそう。幼子に接したことがなければ、首を傾げてしまうかも。
庭師が定期的に手を入れているのだろう。林の小道は下生えの草も短く、木漏れ日が心地よい。レオンの歩幅に合わせて、ゆっくり進むのに最適だった。実がつく果樹はなさそう。
「あった!」
レオンの声が明るくなる。目的地みたい。顔を上げた私は小さな池に目を見開いた。私を引っ張るレオンは、今にも池に飛び込みそう。浅くて中央に小さな島がある池は、私の実家の敷地くらいか。見渡せる広さに苦笑いが浮かんだ。
「ここ! いっしょなの」
一緒にここへ来たかった。そう伝えるレオンは、にこにこと笑顔を振りまいた。後ろをついてきた侍女の一人が「いやん、可愛い」と呟く。そうよねと同意しながら、私は池の手前で屈んだ。
レオンはもっと近づきたいみたいだけど、池に足が落ちちゃうわ。安全な距離を保って止まり、おいでと両手を開く。小さな籠を振り回しながら飛び込むレオンを受け止めた。こういう時は後ろに片方の足を引いて、勢いを吸収する姿勢が大事なの。
弟妹の相手をした時、後ろにひっくり返った経験から学んだのよ。子供って加減がないから、意外と力が強い。あの籠も振り回しながら歩いてきたから、中のスコーンはボロボロかも。まあ、私が食べればいいんだけどね。
「綺麗な場所ね。レオンが連れてきてくれて嬉しいわ」
誰かと来たのね。その相手を聞くのは野暮だから、嬉しいとだけ伝えた。頷いたレオンは私の膝によじ登る。膝をついてしっかり支えた。
水面がきらきらと光を弾き、まるで踊っているよう。濁っていないのは、どこかから水が流れ込んでいるのかしら。
それにしても、公爵家のお屋敷って……広いのねぇ。庭まで含めたら一つの街だわ。使用人も多いし、ある意味、公爵村と呼べそう。
「奥様、若様。お席の準備ができました」
振り返れば、屋根だけのテントを張った日陰が作られている。そこへ分厚い灰色の絨毯を敷き、さらに鮮やかな絨毯を重ねた。
「ありがとう。レオン、行きましょう」
「やっ!」
むっとした顔で唇を尖らせ、レオンは移動を拒否した。
時々言葉が乱れるのが、また可愛いのよね。本当なら二歳になる頃には、発音が定まる。でも乳母がいなかったようだし、話しかける人が少なければ成長できないわ。
私が積極的に話しかけることで、すぐに追いつくと思う。だから何も心配していなかった。幼い頃は成長速度の個人差も大きい。レオンはゆっくり成長して、大成するタイプかもしれないもの。
「レオン。足下がぬかるんでるわ。草の上を歩いて」
「うん」
転ぶと痛いし、泣くような状況になれば可哀想だわ。晴れた大空に心地よい風、お散歩日和だった。でも昨日は夕立があったの。ざっと雨が降って、一部はぬかるんでいる。乾き切っていない地面を避けて、私の手を引きながら芝生に踏み込んだ。
底が平らな靴を選んで正解だったわ。手を引くレオンは目的地があるようで、迷いなく進んでいく。ぬかるみを通り越すと、また散歩道へ戻った。来たことがあるのかしら?
「何があるの? レオン」
「ないないの!」
「秘密なのね、楽しみにしておくわ」
首を横に振る仕草は可愛いけれど、大きく首を振りすぎて転びそう。言いたいことを汲み取ってあげれば、嬉しそうに笑った。言葉が足りなすぎて、侍女に通じなかった経験がありそう。幼子に接したことがなければ、首を傾げてしまうかも。
庭師が定期的に手を入れているのだろう。林の小道は下生えの草も短く、木漏れ日が心地よい。レオンの歩幅に合わせて、ゆっくり進むのに最適だった。実がつく果樹はなさそう。
「あった!」
レオンの声が明るくなる。目的地みたい。顔を上げた私は小さな池に目を見開いた。私を引っ張るレオンは、今にも池に飛び込みそう。浅くて中央に小さな島がある池は、私の実家の敷地くらいか。見渡せる広さに苦笑いが浮かんだ。
「ここ! いっしょなの」
一緒にここへ来たかった。そう伝えるレオンは、にこにこと笑顔を振りまいた。後ろをついてきた侍女の一人が「いやん、可愛い」と呟く。そうよねと同意しながら、私は池の手前で屈んだ。
レオンはもっと近づきたいみたいだけど、池に足が落ちちゃうわ。安全な距離を保って止まり、おいでと両手を開く。小さな籠を振り回しながら飛び込むレオンを受け止めた。こういう時は後ろに片方の足を引いて、勢いを吸収する姿勢が大事なの。
弟妹の相手をした時、後ろにひっくり返った経験から学んだのよ。子供って加減がないから、意外と力が強い。あの籠も振り回しながら歩いてきたから、中のスコーンはボロボロかも。まあ、私が食べればいいんだけどね。
「綺麗な場所ね。レオンが連れてきてくれて嬉しいわ」
誰かと来たのね。その相手を聞くのは野暮だから、嬉しいとだけ伝えた。頷いたレオンは私の膝によじ登る。膝をついてしっかり支えた。
水面がきらきらと光を弾き、まるで踊っているよう。濁っていないのは、どこかから水が流れ込んでいるのかしら。
それにしても、公爵家のお屋敷って……広いのねぇ。庭まで含めたら一つの街だわ。使用人も多いし、ある意味、公爵村と呼べそう。
「奥様、若様。お席の準備ができました」
振り返れば、屋根だけのテントを張った日陰が作られている。そこへ分厚い灰色の絨毯を敷き、さらに鮮やかな絨毯を重ねた。
「ありがとう。レオン、行きましょう」
「やっ!」
むっとした顔で唇を尖らせ、レオンは移動を拒否した。
2,326
お気に入りに追加
4,249
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。
久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。
※一話完結です。
ゆるゆる設定です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる