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10.レオンの秘密の場所
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「あんね、こっち」
時々言葉が乱れるのが、また可愛いのよね。本当なら二歳になる頃には、発音が定まる。でも乳母がいなかったようだし、話しかける人が少なければ成長できないわ。
私が積極的に話しかけることで、すぐに追いつくと思う。だから何も心配していなかった。幼い頃は成長速度の個人差も大きい。レオンはゆっくり成長して、大成するタイプかもしれないもの。
「レオン。足下がぬかるんでるわ。草の上を歩いて」
「うん」
転ぶと痛いし、泣くような状況になれば可哀想だわ。晴れた大空に心地よい風、お散歩日和だった。でも昨日は夕立があったの。ざっと雨が降って、一部はぬかるんでいる。乾き切っていない地面を避けて、私の手を引きながら芝生に踏み込んだ。
底が平らな靴を選んで正解だったわ。手を引くレオンは目的地があるようで、迷いなく進んでいく。ぬかるみを通り越すと、また散歩道へ戻った。来たことがあるのかしら?
「何があるの? レオン」
「ないないの!」
「秘密なのね、楽しみにしておくわ」
首を横に振る仕草は可愛いけれど、大きく首を振りすぎて転びそう。言いたいことを汲み取ってあげれば、嬉しそうに笑った。言葉が足りなすぎて、侍女に通じなかった経験がありそう。幼子に接したことがなければ、首を傾げてしまうかも。
庭師が定期的に手を入れているのだろう。林の小道は下生えの草も短く、木漏れ日が心地よい。レオンの歩幅に合わせて、ゆっくり進むのに最適だった。実がつく果樹はなさそう。
「あった!」
レオンの声が明るくなる。目的地みたい。顔を上げた私は小さな池に目を見開いた。私を引っ張るレオンは、今にも池に飛び込みそう。浅くて中央に小さな島がある池は、私の実家の敷地くらいか。見渡せる広さに苦笑いが浮かんだ。
「ここ! いっしょなの」
一緒にここへ来たかった。そう伝えるレオンは、にこにこと笑顔を振りまいた。後ろをついてきた侍女の一人が「いやん、可愛い」と呟く。そうよねと同意しながら、私は池の手前で屈んだ。
レオンはもっと近づきたいみたいだけど、池に足が落ちちゃうわ。安全な距離を保って止まり、おいでと両手を開く。小さな籠を振り回しながら飛び込むレオンを受け止めた。こういう時は後ろに片方の足を引いて、勢いを吸収する姿勢が大事なの。
弟妹の相手をした時、後ろにひっくり返った経験から学んだのよ。子供って加減がないから、意外と力が強い。あの籠も振り回しながら歩いてきたから、中のスコーンはボロボロかも。まあ、私が食べればいいんだけどね。
「綺麗な場所ね。レオンが連れてきてくれて嬉しいわ」
誰かと来たのね。その相手を聞くのは野暮だから、嬉しいとだけ伝えた。頷いたレオンは私の膝によじ登る。膝をついてしっかり支えた。
水面がきらきらと光を弾き、まるで踊っているよう。濁っていないのは、どこかから水が流れ込んでいるのかしら。
それにしても、公爵家のお屋敷って……広いのねぇ。庭まで含めたら一つの街だわ。使用人も多いし、ある意味、公爵村と呼べそう。
「奥様、若様。お席の準備ができました」
振り返れば、屋根だけのテントを張った日陰が作られている。そこへ分厚い灰色の絨毯を敷き、さらに鮮やかな絨毯を重ねた。
「ありがとう。レオン、行きましょう」
「やっ!」
むっとした顔で唇を尖らせ、レオンは移動を拒否した。
時々言葉が乱れるのが、また可愛いのよね。本当なら二歳になる頃には、発音が定まる。でも乳母がいなかったようだし、話しかける人が少なければ成長できないわ。
私が積極的に話しかけることで、すぐに追いつくと思う。だから何も心配していなかった。幼い頃は成長速度の個人差も大きい。レオンはゆっくり成長して、大成するタイプかもしれないもの。
「レオン。足下がぬかるんでるわ。草の上を歩いて」
「うん」
転ぶと痛いし、泣くような状況になれば可哀想だわ。晴れた大空に心地よい風、お散歩日和だった。でも昨日は夕立があったの。ざっと雨が降って、一部はぬかるんでいる。乾き切っていない地面を避けて、私の手を引きながら芝生に踏み込んだ。
底が平らな靴を選んで正解だったわ。手を引くレオンは目的地があるようで、迷いなく進んでいく。ぬかるみを通り越すと、また散歩道へ戻った。来たことがあるのかしら?
「何があるの? レオン」
「ないないの!」
「秘密なのね、楽しみにしておくわ」
首を横に振る仕草は可愛いけれど、大きく首を振りすぎて転びそう。言いたいことを汲み取ってあげれば、嬉しそうに笑った。言葉が足りなすぎて、侍女に通じなかった経験がありそう。幼子に接したことがなければ、首を傾げてしまうかも。
庭師が定期的に手を入れているのだろう。林の小道は下生えの草も短く、木漏れ日が心地よい。レオンの歩幅に合わせて、ゆっくり進むのに最適だった。実がつく果樹はなさそう。
「あった!」
レオンの声が明るくなる。目的地みたい。顔を上げた私は小さな池に目を見開いた。私を引っ張るレオンは、今にも池に飛び込みそう。浅くて中央に小さな島がある池は、私の実家の敷地くらいか。見渡せる広さに苦笑いが浮かんだ。
「ここ! いっしょなの」
一緒にここへ来たかった。そう伝えるレオンは、にこにこと笑顔を振りまいた。後ろをついてきた侍女の一人が「いやん、可愛い」と呟く。そうよねと同意しながら、私は池の手前で屈んだ。
レオンはもっと近づきたいみたいだけど、池に足が落ちちゃうわ。安全な距離を保って止まり、おいでと両手を開く。小さな籠を振り回しながら飛び込むレオンを受け止めた。こういう時は後ろに片方の足を引いて、勢いを吸収する姿勢が大事なの。
弟妹の相手をした時、後ろにひっくり返った経験から学んだのよ。子供って加減がないから、意外と力が強い。あの籠も振り回しながら歩いてきたから、中のスコーンはボロボロかも。まあ、私が食べればいいんだけどね。
「綺麗な場所ね。レオンが連れてきてくれて嬉しいわ」
誰かと来たのね。その相手を聞くのは野暮だから、嬉しいとだけ伝えた。頷いたレオンは私の膝によじ登る。膝をついてしっかり支えた。
水面がきらきらと光を弾き、まるで踊っているよう。濁っていないのは、どこかから水が流れ込んでいるのかしら。
それにしても、公爵家のお屋敷って……広いのねぇ。庭まで含めたら一つの街だわ。使用人も多いし、ある意味、公爵村と呼べそう。
「奥様、若様。お席の準備ができました」
振り返れば、屋根だけのテントを張った日陰が作られている。そこへ分厚い灰色の絨毯を敷き、さらに鮮やかな絨毯を重ねた。
「ありがとう。レオン、行きましょう」
「やっ!」
むっとした顔で唇を尖らせ、レオンは移動を拒否した。
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