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09.なんでも真似したいお年頃
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庭へ出るので、スコーンやマフィンなど手掴みで食べられる軽食を用意させた。屋敷から出ないので、お茶やジャムは後で運んでもらう。小さなバスケットに入れた軽食をじっと見つめるレオンは、物言いたそうだ。
「このくらいの小さな袋はない? 籠でもいいけれど」
私の両手で包めそうな大きさを示すと、侍女の一人が取りに行った。用意されたのは、花を生ける籠だ。本来は中に花瓶が入っているが、その花瓶を取り除くと……レオンでも持てる小さな籠が残った。
「ありがとう」
お礼を言うと、レオンがぺこりと頭を縦に動かした。
「あんと」
真似しているみたい。きゃー! と悲鳴をあげて頬を擦り寄せ、ぎゅっと抱き締めたいが我慢する。それじゃ痴女だわ。視線の高さを合わせて膝をつき、持っていた軽食の籠から小さめのスコーンを一つ選ぶ。綺麗な布で包み、小さな籠に入れた。
「レオン、お願いがあるの。お昼をお庭で食べるでしょう? お母様の籠に入らない分を、レオンが持ってくれると助かるわ」
目の前の籠と私の顔を交互に見て、頬が緩んでいく。大きく頷いたレオンが、籠を大事そうに手にした。小さい子って、大人の真似をしたがるものよ。弟もよく荷物を持ちたがったし、妹は家事の手伝いをしようとして色々ひっくり返したっけ。
懐かしく思いながら、嬉しそうなレオンに空いている手を差し出す。
「お母様が転ばないように、手を繋いでちょうだい。可愛いレオン」
「うん」
まだ言葉が未発達の可愛い幼子だけど、この家の跡取り様よ。公爵夫人のエスコートはやっぱりレオンでなくちゃね。本当は抱っこの方が楽なんだけど、レオンの成長を促すためにも歩かせないと。
家の中で抱っこしてしまうのは、階段があるから。屋敷は大きいのだから、私とレオンの部屋を一階に移動したらどうかしら。公爵夫人の権限ってどのくらい? あとで家令のフランクか侍女長のイルゼに確認してみましょう。
女主人は何も仕事がないと思っていたけれど、想像より忙しいわ。可愛い紳士とお茶会をして、お部屋の移動もしなくては。
「も、いく?」
「そうね。行きましょうか」
ちらりと後ろに目配せをして、玄関ホールへ向かった。執事ベルントが指示を出し、侍従がテント一式を用意する。お茶会用のテーブルや椅子はなしにして、代わりに分厚い絨毯を用意してもらった。
私は芝生の上に寝転んでも構わないけれど、汚したら洗濯する人がいるわけだし。草の汁って意外と落ちにくいのよね。弟妹の服の洗濯は大変だった。その苦労を誰かに押し付ける必要はないわ。
絨毯を敷けば終わりだもの。外用に用意して、今後もずっと庭で使えばいい。それなら干すだけで構わないから、洗濯の苦労がないわ。いい考えだと自画自賛しながら、フランクが開いた扉の先に踏み出す。
「いってらっしゃいませ、奥様、若様」
「ありがとう、フランク」
徒歩で出られるか心配なくらい、庭が広い。実家の裏山を思い出すが、きちんと手入れがされているので別物ね。お土産にキノコや薬草を摘むのが日常だった。さすがにこの庭にキノコは生えてなさそう。日当たりが良すぎるわ。
レオンが「こっち」と手を引っ張った。目的地も決めていないし、レオンの行きたい方角で構わない。整備された散歩道を歩き始めた。
「このくらいの小さな袋はない? 籠でもいいけれど」
私の両手で包めそうな大きさを示すと、侍女の一人が取りに行った。用意されたのは、花を生ける籠だ。本来は中に花瓶が入っているが、その花瓶を取り除くと……レオンでも持てる小さな籠が残った。
「ありがとう」
お礼を言うと、レオンがぺこりと頭を縦に動かした。
「あんと」
真似しているみたい。きゃー! と悲鳴をあげて頬を擦り寄せ、ぎゅっと抱き締めたいが我慢する。それじゃ痴女だわ。視線の高さを合わせて膝をつき、持っていた軽食の籠から小さめのスコーンを一つ選ぶ。綺麗な布で包み、小さな籠に入れた。
「レオン、お願いがあるの。お昼をお庭で食べるでしょう? お母様の籠に入らない分を、レオンが持ってくれると助かるわ」
目の前の籠と私の顔を交互に見て、頬が緩んでいく。大きく頷いたレオンが、籠を大事そうに手にした。小さい子って、大人の真似をしたがるものよ。弟もよく荷物を持ちたがったし、妹は家事の手伝いをしようとして色々ひっくり返したっけ。
懐かしく思いながら、嬉しそうなレオンに空いている手を差し出す。
「お母様が転ばないように、手を繋いでちょうだい。可愛いレオン」
「うん」
まだ言葉が未発達の可愛い幼子だけど、この家の跡取り様よ。公爵夫人のエスコートはやっぱりレオンでなくちゃね。本当は抱っこの方が楽なんだけど、レオンの成長を促すためにも歩かせないと。
家の中で抱っこしてしまうのは、階段があるから。屋敷は大きいのだから、私とレオンの部屋を一階に移動したらどうかしら。公爵夫人の権限ってどのくらい? あとで家令のフランクか侍女長のイルゼに確認してみましょう。
女主人は何も仕事がないと思っていたけれど、想像より忙しいわ。可愛い紳士とお茶会をして、お部屋の移動もしなくては。
「も、いく?」
「そうね。行きましょうか」
ちらりと後ろに目配せをして、玄関ホールへ向かった。執事ベルントが指示を出し、侍従がテント一式を用意する。お茶会用のテーブルや椅子はなしにして、代わりに分厚い絨毯を用意してもらった。
私は芝生の上に寝転んでも構わないけれど、汚したら洗濯する人がいるわけだし。草の汁って意外と落ちにくいのよね。弟妹の服の洗濯は大変だった。その苦労を誰かに押し付ける必要はないわ。
絨毯を敷けば終わりだもの。外用に用意して、今後もずっと庭で使えばいい。それなら干すだけで構わないから、洗濯の苦労がないわ。いい考えだと自画自賛しながら、フランクが開いた扉の先に踏み出す。
「いってらっしゃいませ、奥様、若様」
「ありがとう、フランク」
徒歩で出られるか心配なくらい、庭が広い。実家の裏山を思い出すが、きちんと手入れがされているので別物ね。お土産にキノコや薬草を摘むのが日常だった。さすがにこの庭にキノコは生えてなさそう。日当たりが良すぎるわ。
レオンが「こっち」と手を引っ張った。目的地も決めていないし、レオンの行きたい方角で構わない。整備された散歩道を歩き始めた。
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