【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
8 / 274

08.手掴みで食べると美味しい

しおりを挟む
 貴族女性の着替えは、親子や兄弟でも異性なら別部屋が当然。そんな慣習を聞いて、あらぁ……と口を手で押さえた。実家では、狭い部屋でごそごそ着替えていたし、弟妹の着替えは私が手伝っていた。なんなら、私の目の前でお父様も着替えていたけど。

 他の部屋で、なんて物理的に無理だったわ。それに三歳前で、異性扱いはないわよね。そんな思いが顔に出たのか、侍女達が苦笑いする。

「奥様は本当に変わった方ですのね」

「そうかしら。平民に近い生活をしていたせいかも」

 うっかり本音を漏らした結果、あれこれ聞かれるままに話してしまい、着替え終わる頃には実家の内情が丸裸になった。服は着たのに、実家が脱がされるなんて。侍女の会話術は侮れない。

 彼女達が用意したのは、装飾が少なめのドレス。フリルはあるけれど、レースが使われていない。宝飾品は最低限にして、指輪も結婚式で交換したもの以外は外す。万が一にもレオンの顔や髪に引っかかると困るから。結婚指輪は、宝石がないのでそのままにした。

 新婚だから誰かが訪ねてくることはないと思うけれど、さすがに結婚指輪はしておいた方がいいでしょう。髪は後ろで引っ詰めて結い上げ、リボンで固定してもらう。化粧も基礎化粧だけにした。

 可愛いレオンに頬紅や白粉がついたら嫌だもの。たくさん頬を寄せて、いっぱい触れたいから化粧はなし。屋敷の敷地内だから問題なし、たった今、私が決めたわ。

「おかぁ、しゃま!」

 手を伸ばすレオンを抱き上げた。ゴテゴテした装飾品がないから、安心して抱っこできるわ。朝食のために食堂へ出向き、用意されたテーブルにつく。もちろん、レオンは私の膝の上よ。

「お申し付けの通りにご用意しました」

「ありがとう、我が侭を言ったわ」

 我が侭でごめんなさいと謝るのは禁止だった。執事ベルントから聞いた作法で労う。高位貴族って決まり事が多くて面倒ね。

「これ、なぁに?」

 初めて見る食事に興味津々の子供は、素直に口に出して尋ねた。可愛いレオンが気にしているのは、パンに挟んだハムや卵だ。いくつものお皿に並んだ状態では見覚えがあっても、パンにすべて挟んだ状態は初めてらしい。

 柔らかめの長細いパンに、サラダの野菜と卵やハムを挟んである。手を伸ばそうとするから、先によく手を拭いた。濡れたタオルで拭うのが擽ったいようで、可愛い笑い声を立てる。綺麗になった手を確認し、私の手も拭いた。

 私が片手で掴んだパンを、レオンは小さな両手で支える。食べていいかと問う眼差しに微笑んで頷いた。

「これは手で食べていいのよ。マナーも作法もいらないの。ほら、あーん」

「あーっ!」

 もぐ! 最後まであーんを言わずに噛みついたレオンは目を輝かせた。そうよね、いつもより美味しいでしょ。これが天気のいい庭だったりすると、もっと美味しいのよ。

「ほいちー」

 頬張ったまま話すレオンの頬についたパンくずを摘んで食べる。嬉しそうだし、新鮮なのかも。それなら、こんなのはどうかしら。

「それは良かったわ、お昼はお庭で食べましょうか」

「っ、いいの?!」

 頑張って飲み込んだパンの分だけ遅れた返事に、もちろんよと笑う。本当に愛らしいわ。この天使を私が育てていいだなんて、どんなご褒美なの? お金は入れるけれど留守の旦那様に、心から感謝しなくてはね。
しおりを挟む
感想 636

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

処理中です...