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05.期間限定の舌足らずもいい
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可愛いレオンを膝の上に乗せて、甘やかす作戦を決行した。つまり「あーん」よね。いままで不足した愛情を、溺れる程浴びせたい。
「レオン、あーんして」
あーんの意味が分からず首を傾げたレオンに、こうやるのと教えた。素直にぱくりと口を開けるレオンは誰かの悪意を知らない。だから素直だった。本当に可愛いし、屋敷内で虐げられていなくてよかったわ。きっとイルゼやフランクの指示が行き届いているからね。
口を開けても、私を見る視線を逸らそうとしない。まるで視界から外れたら、私が消えると心配しているように。だから密着して食事を与えることにした。まあ、可愛すぎて甘やかしたいのも強い理由だけど。こんなに愛らしい子がいるのに、屋敷に帰らない旦那様は薄情すぎる。
小さなティースプーンで掬ったリゾットを、口の中に入れた。鳥の雛みたいに口を閉じて、もぐもぐと咀嚼する。そのたびに動く頬や唇が愛おしい。本当は最初にスープから、と思ったんだけど……リゾットが一番好きみたいなのよね。
食べ物をぐるりと見回したとき、無言でアピールしていたもの。
「美味しい?」
「うん」
言葉遣いなんて何でもいい。勉強はもっと成長してからで間に合うわ。今は愛情にどっぷりと首まで……いえ、頭まで沈めて溺れさせてから。自分は必要とされて愛されている、そう自覚しなくては何を学んでも無駄になってしまう。
弟妹も同じだった。末の双子を産んで二年で儚くなった母の愛情を求めて泣く子を、抱き締めて愛情を注ぐ。同じように泣きたかったけれど、私は年長な分だけ愛情を貰った。だから母親の分を与え続けた。私がお母様から貰った愛情を、弟妹にも分けていくの。
おかげで誰もがいい子に育ったわ。あの子達の生活のために身売り同然に嫁ぐ話が来た時も、チャンスだと飛びついたくらい。私は家族が大好きだ。この幼いレオンも、その弟妹の一人に加えて育てよう。私が母から与えられた愛情をたっぷり浴びせて、可愛い笑顔を守れるように。
「今度はどれ? スープはどう」
頷くような動きだけれど、曖昧ね。やっぱりリゾットがいいみたい。
「リゾットにしましょうか」
目を輝かせるから、よほど好物なのね。覚えておこうと頭の片隅にメモを取る。鶏肉ときのこのリゾットは、レオンの好物! ティースプーンで運ぶたび、機嫌よく口を開ける小さな雛鳥レオン。絵本の題材になりそうなくらい可愛い。
「奥様、お食事の間は私どもがレオン様をお預かりいたしますが」
イルゼの後ろに控える侍女がそう提案するも、私は首を横に振った。レオンの口がもぐもぐ動いている間に、隣のスプーンで私も食べている。合間にイルゼが手際よく肉や野菜を小さくカットした。何も問題ないわ。
「大丈夫よ、ありがとう。でもね、抱いていたいの」
手を離したくないのよ。こんな可愛い天使か妖精だもの。離れたら消えてしまうわ。ほほほと笑って伝えると、侍女は感動した様子で両手を握り締めコクコクと何度も首を縦に振った。この感動を共有できちゃうのね? 嬉しいわ。
「おか、しゃ、ま。あーん」
興味が逸れたと思ったのか、遠慮がちに袖を引っ張る。たどたどしい言葉と、滑舌の悪い発音。年齢の割に幼いけれど、きっとすぐに直るわ。話しかける私の言葉に慣れて、徐々に単語も覚えながら上手になってしまう。
今だけの限定舌足らずよ! 貴重だから聞き逃せない。可愛いと連呼しながら、私は機嫌よく餌付けを続けた。
「レオン、あーんして」
あーんの意味が分からず首を傾げたレオンに、こうやるのと教えた。素直にぱくりと口を開けるレオンは誰かの悪意を知らない。だから素直だった。本当に可愛いし、屋敷内で虐げられていなくてよかったわ。きっとイルゼやフランクの指示が行き届いているからね。
口を開けても、私を見る視線を逸らそうとしない。まるで視界から外れたら、私が消えると心配しているように。だから密着して食事を与えることにした。まあ、可愛すぎて甘やかしたいのも強い理由だけど。こんなに愛らしい子がいるのに、屋敷に帰らない旦那様は薄情すぎる。
小さなティースプーンで掬ったリゾットを、口の中に入れた。鳥の雛みたいに口を閉じて、もぐもぐと咀嚼する。そのたびに動く頬や唇が愛おしい。本当は最初にスープから、と思ったんだけど……リゾットが一番好きみたいなのよね。
食べ物をぐるりと見回したとき、無言でアピールしていたもの。
「美味しい?」
「うん」
言葉遣いなんて何でもいい。勉強はもっと成長してからで間に合うわ。今は愛情にどっぷりと首まで……いえ、頭まで沈めて溺れさせてから。自分は必要とされて愛されている、そう自覚しなくては何を学んでも無駄になってしまう。
弟妹も同じだった。末の双子を産んで二年で儚くなった母の愛情を求めて泣く子を、抱き締めて愛情を注ぐ。同じように泣きたかったけれど、私は年長な分だけ愛情を貰った。だから母親の分を与え続けた。私がお母様から貰った愛情を、弟妹にも分けていくの。
おかげで誰もがいい子に育ったわ。あの子達の生活のために身売り同然に嫁ぐ話が来た時も、チャンスだと飛びついたくらい。私は家族が大好きだ。この幼いレオンも、その弟妹の一人に加えて育てよう。私が母から与えられた愛情をたっぷり浴びせて、可愛い笑顔を守れるように。
「今度はどれ? スープはどう」
頷くような動きだけれど、曖昧ね。やっぱりリゾットがいいみたい。
「リゾットにしましょうか」
目を輝かせるから、よほど好物なのね。覚えておこうと頭の片隅にメモを取る。鶏肉ときのこのリゾットは、レオンの好物! ティースプーンで運ぶたび、機嫌よく口を開ける小さな雛鳥レオン。絵本の題材になりそうなくらい可愛い。
「奥様、お食事の間は私どもがレオン様をお預かりいたしますが」
イルゼの後ろに控える侍女がそう提案するも、私は首を横に振った。レオンの口がもぐもぐ動いている間に、隣のスプーンで私も食べている。合間にイルゼが手際よく肉や野菜を小さくカットした。何も問題ないわ。
「大丈夫よ、ありがとう。でもね、抱いていたいの」
手を離したくないのよ。こんな可愛い天使か妖精だもの。離れたら消えてしまうわ。ほほほと笑って伝えると、侍女は感動した様子で両手を握り締めコクコクと何度も首を縦に振った。この感動を共有できちゃうのね? 嬉しいわ。
「おか、しゃ、ま。あーん」
興味が逸れたと思ったのか、遠慮がちに袖を引っ張る。たどたどしい言葉と、滑舌の悪い発音。年齢の割に幼いけれど、きっとすぐに直るわ。話しかける私の言葉に慣れて、徐々に単語も覚えながら上手になってしまう。
今だけの限定舌足らずよ! 貴重だから聞き逃せない。可愛いと連呼しながら、私は機嫌よく餌付けを続けた。
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