160 / 173
160.膝枕での密談もいいね
しおりを挟む
アレスからの報告が遅いので、まさか苦戦してるのかと思ったら……制圧し終わっていた。近隣国の援軍が来る前に、勝敗は決していたらしい。彼の凱旋を待って、簡単な祝勝会が開かれる。すでに婚約発表したニルスとソフィは参加が決定だった。
「トリシャ、本当に参加するの?」
「帝国のために戦った兵を労うのは、皇妃の義務ですわ」
「でも、トリシャを見せたくない」
「ふふっ、でしたら顔を隠す帽子でも被りましょうか」
参加しないという選択肢はないんだね。僕を膝枕したトリシャは、優しく僕の黒髪を撫でながら囁くように話す。内緒話みたいで擽ったい気持ちになった。
「わかってるのに、意地悪するのかい?」
「私を知っていて結婚なさったのは、エリクですわ」
そうだよ、君が責任感が強くて優しい女性だと知ってる。王太子妃教育以上の教養を身につけ、他国の言語を操り、大賢者カルネウスの知識の一部を持つ才女なのも、ね。皇妃として最低限の責務を果たすつもりなんだろう? 僕としては、鳥籠で待っていて欲しいけど。
「アレスの凱旋じゃ、仕方ないかな」
「結婚したばかりの皇妃が公式行事を欠席すれば、要らぬ憶測を招きますわ」
トリシャの意見にも一理ある。いや、僕は正しい意見を自分の我が侭で捻じ曲げたいだけだ。ちゃんと自覚はあるから、ごねても最後は正しい判断を下すよ。でももう少しだけ。
膝枕したトリシャの膝に手のひらを滑らせる。包むようにしてスカートの上から撫でた。意味ありげに腿の方へ移動すると、彼女の頬が赤く染まる。
「エリクっ、その」
「まだ昼間だけど、今の僕が求められる公務には、世継ぎ作りも含まれるよね」
「嫌ですわ。公務で触る夫は不要です」
ぴしゃりと切り捨てられて、僕の悪戯は終わり。お互いにわかって言葉遊びをしていただけなんだけど、膝から頭を起こして彼女の指先にキスをした。
「じゃあ、仕事を終わらせてくるから。夜は一緒にお風呂に入ってもいい?」
「それは公務かしら?」
「プライベートでの僕の望みだよ」
笑い合って約束し、トリシャをソフィに預けた。ソフィの衣装を選ぶと張り切る彼女に、ちらりと釘を刺す。
「つばの大きな帽子で顔の隠せるドレスも注文してね。そっちの方が先だから忘れないで」
「まあ! わかりました」
言外に、凱旋式や祝勝会に参加する許可を残して、僕は部屋を出る。居心地のいいリビングから仕事用の本宮へ。続き廊下で意識を切り替えた。表情を引き締め、悪虐皇帝の仮面を被る。
トリシャには言わなかったけど、捕らえた王族の処断をしないといけないね。オリアンは裏切った罰として王家の断絶、攻め込んでセルベル国の領地を奪い取ろうとしたレンヘルムは……統合することになるだろう。また帝国が大きくなってしまった。
「ニルスに叱られる前に、書類を片付けないとね」
新しい国が増えた事で一時的に増大する書類や決断の山を前に、僕は気合を入れ直した。
「トリシャ、本当に参加するの?」
「帝国のために戦った兵を労うのは、皇妃の義務ですわ」
「でも、トリシャを見せたくない」
「ふふっ、でしたら顔を隠す帽子でも被りましょうか」
参加しないという選択肢はないんだね。僕を膝枕したトリシャは、優しく僕の黒髪を撫でながら囁くように話す。内緒話みたいで擽ったい気持ちになった。
「わかってるのに、意地悪するのかい?」
「私を知っていて結婚なさったのは、エリクですわ」
そうだよ、君が責任感が強くて優しい女性だと知ってる。王太子妃教育以上の教養を身につけ、他国の言語を操り、大賢者カルネウスの知識の一部を持つ才女なのも、ね。皇妃として最低限の責務を果たすつもりなんだろう? 僕としては、鳥籠で待っていて欲しいけど。
「アレスの凱旋じゃ、仕方ないかな」
「結婚したばかりの皇妃が公式行事を欠席すれば、要らぬ憶測を招きますわ」
トリシャの意見にも一理ある。いや、僕は正しい意見を自分の我が侭で捻じ曲げたいだけだ。ちゃんと自覚はあるから、ごねても最後は正しい判断を下すよ。でももう少しだけ。
膝枕したトリシャの膝に手のひらを滑らせる。包むようにしてスカートの上から撫でた。意味ありげに腿の方へ移動すると、彼女の頬が赤く染まる。
「エリクっ、その」
「まだ昼間だけど、今の僕が求められる公務には、世継ぎ作りも含まれるよね」
「嫌ですわ。公務で触る夫は不要です」
ぴしゃりと切り捨てられて、僕の悪戯は終わり。お互いにわかって言葉遊びをしていただけなんだけど、膝から頭を起こして彼女の指先にキスをした。
「じゃあ、仕事を終わらせてくるから。夜は一緒にお風呂に入ってもいい?」
「それは公務かしら?」
「プライベートでの僕の望みだよ」
笑い合って約束し、トリシャをソフィに預けた。ソフィの衣装を選ぶと張り切る彼女に、ちらりと釘を刺す。
「つばの大きな帽子で顔の隠せるドレスも注文してね。そっちの方が先だから忘れないで」
「まあ! わかりました」
言外に、凱旋式や祝勝会に参加する許可を残して、僕は部屋を出る。居心地のいいリビングから仕事用の本宮へ。続き廊下で意識を切り替えた。表情を引き締め、悪虐皇帝の仮面を被る。
トリシャには言わなかったけど、捕らえた王族の処断をしないといけないね。オリアンは裏切った罰として王家の断絶、攻め込んでセルベル国の領地を奪い取ろうとしたレンヘルムは……統合することになるだろう。また帝国が大きくなってしまった。
「ニルスに叱られる前に、書類を片付けないとね」
新しい国が増えた事で一時的に増大する書類や決断の山を前に、僕は気合を入れ直した。
31
お気に入りに追加
3,479
あなたにおすすめの小説
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい
tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。
本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。
人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆
本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編
第三章のイライアス編には、
『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』
のキャラクター、リュシアンも出てきます☆
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
悪役令嬢は地下牢でただこの世界の終わりを願っていたのに変態魔術師と人生をやり直しすることになってしまった
ひよこ麺
恋愛
竜帝が統一しているドラコニア帝国。そこそこ平和に幸せに暮らしていた伯爵令嬢のベアトリーチェ・マグダラはある予言によってその日々を壊された。
『次の竜帝の番は銀髪に紫の瞳をしたこの国の少女である。いかなる場合も彼女を尊重しなければこの国は滅ぶだろう』
その予言により、帝国で唯一銀髪に紫の瞳だったベアトリーチェは第一皇子であるアレクサンドル・ドラコニアと婚約するが、アレクサンドルは、はじめからベアトリーチェに対して微妙な態度を貫いていた。
そして、それはベアトリーチェが隣国に嫁いだ叔母の娘、従兄弟のエリザベス・カスティアリャ子爵令嬢を伴い王宮に入った日に確信へと変わる。エリザベスは隣国の娘だが銀髪に紫の目をしていた。そこからこの国で生まれた彼女こそ運命の番だとアレクサンドルは言い切り冷遇されるようになる。しかし神殿は万が一ベアトリーチェが番だった場合も考えて婚約破棄を行わせず、ベアトリーチェは使用人もほとんどいない荒れた離宮へ幽閉されてしまう。
しかも、あれよあれよといううちにベアトリーチェがエリザベス殺害未遂の冤罪を着せされて処刑されることになってしまい、処刑はアレクサンドルとエリザベスの結婚式ならびに番の儀の翌日に決まる。
地下牢に閉じ込められたベアトリーチェがこの世界を呪っていた時、突然地上から恐ろしい轟音が鳴り響いた。番の儀式が失敗し、アレクサンドルが邪竜になったからだ。世界が滅びるのをただ地下牢から願っていた時、何故か妙にキラキラした男がやってきて……。
※一部残酷な表現を含みますのでご注意ください。
※タイトルにミスがあったので修正いたしました。
※ ノーチェタグ追加のため竜帝タグを消しました。
※ご指摘いただいたのと思ったより長くなったので『短編』⇒『長編』に変更しました。
妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。
国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。
「もう無理、もう耐えられない!!」
イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。
「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。
そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。
猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。
表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。
溺愛してくる魔法使いのリュオン。
彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる――
※他サイトにも投稿しています。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる